第24話 【キース】ダンジョンの視察(後編)

 翌朝、私達はまた馬に乗り、北の森に向かった。


 森へ向かう道なので、魔獣に出くわすかと思ったが、そんなこともなく、無事にたどり着いた。


 だが……確かにちょっとばかり遠いな。

 セレンの町を拠点として、ダンジョンの魔石採取は無理がある。

 やはり、新たな町を作る必要があるだろう。


 その森は、外から見たところでは、とてもダンジョンや魔獣がいるような場所には見えず、なんとも爽やかな森だ。仕事でなければ家族を連れて散策でもしたくなる。


 森の後ろ、遠くにはコルドロン山脈が見える。山脈のふもとまで続いているとすれば、この森は相当に広い。

 この森のどこかにダンジョンがあったとしても、探し出すのは相当困難なんじゃないか?

 教会の魔道具が、ホントに近くにまで行かないとダンジョンの有無を確かめられないとかだと、手に負えないぞ。


 そんなことを考えながら、森の周辺をうろついていると、ダニールとポリーナが前へ出る。


「二人とも、馬に乗って下がってください」


「どうした?」


「魔獣です。おそらくはウルフ系でしょう」


「えっ!大丈夫なの!?」


 私はアメリアを連れて馬を留めているところまで下がり、いつでも逃げ出せるように準備する。


 すると、一匹の真っ白の毛並みをした狼のような魔獣が出てくる。

 なんだ、小さいし、一匹だけか……。


「油断しないでください。ウルフは群れます。おそらく他に隠れているのがいるはずです」


 警戒する二人の冒険者。


 しばらく睨み合っていたが、分が悪いと思ったのか、そのうち魔獣は森の方へ帰っていった。


「「ふぅ~~~」」


「去っていきましたね。一旦は大丈夫でしょう」


「ちなみに今の魔獣はなんてやつなんだ?」


「スノーウルフというCランクの魔獣ですね。気配からすると後ろにあと4、5匹はいた気がします」


「こんな森の中にいるのに、スノーなのか」


「毛並みが白いのもそうですが、なにより、やつら、氷結系のブレスを吹くんですよ」


「私達二人でも勝てる相手ではありますが、我々を無視してお二人が狙われるとちょっと困る程度の魔獣ですね」


 それは危なかった……か?

 やはり、森の中には入らない方がよさそうだな。


「よし、さっさとダンジョンの有無を確認してしまおう。アメリア!」


 私達は再度、馬から降り、森の目の前まで行く。


「じゃ、ちょっと待っててね!」


 アメリアが円盤状の魔道具を取り出す。

 というか、あんなに魔石を嫌ってるのに、その魔道具はいいんだな。


「ちなみにいちおー言っておくけど~、この魔道具は魔獣からとれる魔石なんて使ってないからね~」


 私の疑いの目を見て、察したのか、アメリアが釈明してくる。


「は?魔道具なのに魔石を使わないなんてことがあるのか?」


「ううん。魔石は使ってるよ。でも魔獣から取れた魔石じゃないの。私も良く知らないけど、地脈から分けていただいた魔力で作ったものなんだって!」


 なんじゃそりゃ?

 意味がよく分からず、アメリアに詳しい事を聞こうとするものの、アメリア自身もあまり良くわかっていないようで、要領を得なかった。


「じゃ、いくよ~」


 アメリアがそう言うと円盤状の魔道具全体がわずかに光を発する。

 だが、その光はすぐになくなってしまう。


 これは……もしや、ダメだったか……

 せめて遠すぎて魔道具が反応しなかっただけであって、やっぱりダンジョンがなかった、なんてことは勘弁して欲しい。


「は~い、けってーい!ここ、ダンジョンあるね!」


「なに!?」


「ホントにあったんだ……」


「これで、仕事も増えるだろうし、俺達もセレンの町に帰ってこれるかもな」


 よかった……これで領主様には良いご報告ができる。


「ダンジョンはどのあたりにあるんだ?」


「場所までは分かんないけど、方向はアッチだね!」


 そう言って、アメリアはまっすぐ北を指す。


「その魔道具はダンジョンの場所も分かるんじゃないのか?」


「そうだよ~。でも、正確に言うと方向が分かるだけなの。ほら見て!」


 アメリアが円盤状の魔道具を見せてくる。


 ……なんだ、小さな光の玉が円盤の端に寄ってる?


「この光がダンジョンコアの方向を示してるの。あんまりダンジョンコアから離れてると反応しないんだけどね。逆にいうと、光が出たってことはダンジョンコアが近くにあるってことなの」


 なにか?ということは、これを持って光の方向に歩いていけば、ダンジョンコアまでたどり着けるということか?


 私がこれからの方針を考えていると、突然アメリアがおかしなことを言い出す。


「はい。おしま~い」


 は?


 アメリアはいそいそと魔道具をしまい始める。


「ちょっと待て。せっかくなんだ、ダンジョンコアのおおよその場所は確認しておきたい」


「キースさん、待ってくれ。俺達二人だけでダンジョン化している森の中を二人も護衛するのは無理だ」


 そんなことは分かっている。


「いや、森の中に入る必要はない。その魔道具がダンジョンコアのある方向を示すというなら、こことは別の場所で、その方向を確認すれば、大体の場所が分かるはずだ」


 2地点から、それぞれ魔道具が指し示した方向に線を引き、その線が交差した場所がダンジョンコアのある場所ということだからな。


「なるほど」


「おじさん頭いいね!」


 だから、おじさんじゃない!


「でもダメだよ!」


「いや、なんでだ?森の中に入らなければ護衛もいるし、そこまで危なくはないだろう」


 ダニール達の方を見ると、問題ないと頷いている。


「そういうことじゃないの。魔力を無駄にはできないから、魔道具をこれ以上使わないってこと」


 は?何のためにお前を連れてきたと思ってるんだ?まったくもって無駄じゃない。


「この魔道具の魔力は簡単には補充できないの。だから、教会からは『ダンジョンの有無の確認のためには使っていいが、使用は最小限に留め、場所の特定などはやらないこと』って言われてるの!」


 くっ……この小娘単独のわがままならともかく、教会の指示だとすると無下にもできない……。


「私だって悔しいんだよ?魔族が住み着くダンジョンなんてソッコーで潰して欲しいのに……」


 それはそうか。この娘のこれまでの様子を見ている限り、自身の危険など顧みずにダンジョン探しに協力しそうだ。


「どうします?お二人を一度町にお連れして、俺達だけで、森の北の方を捜索してみましょうか?」


 小娘と違って、ダニールの前向きな姿勢が胃に優しく感じる……。


「いや、2人だけで捜索してもらってもダンジョンコアを見つけるのは難しいだろう。そもそも魔族が出張ってくる可能性も十分にあるしな。森の状況については気になるが……まぁセレンの町の冒険者ギルドでも情報は得られるだろう」


 まぁ、森の中に城型のダンジョンでもできてればすぐに見つかるだろうが、分かりやすいダンジョンなら、別に今すぐ確認しておく必要もない。


「仕方なかろう。ダンジョンの存在を確認できただけでもよしとしよう。魔道具を使ったダンジョンコアの探索は諦め、森の外側だけ見て回り、帰還することにしよう」


 一番の目的は達成できたのだ。そう悪い結果ではない。

 帰ったら、領主様にはぜひとも新たな町の建設を進言せねば。

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