第23話 【キース】ダンジョンの視察(前編)
私は、キース・グラハム。この地の領主様に仕える者だ。
私は重要な任務を与えられ、この辺境の地に来ている。
「ねぇまだ着かないの~?」
なんと、この領内にダンジョンが出来たというのだ!
ダンジョンが出来た地はその多くが魔石の採取により発展していると聞く。
まぁ魔族に街が滅ぼされた、なんて話も聞くが……
バーナード領においてはぜひ前者であって欲しいものだ。
「ねぇねぇ、聞いてる?」
なんでも、本当にダンジョンがあれば、近くに町が作られる予定らしい。
今回の任務はダンジョンが本当にできているのかの確認と、その町を作る場所の視察だ。
「ね~キースのおじさんってば!」
「うるっさいわ!誰がおじさんだ!」
私はまだ28だぞ!お兄さんと呼べ!
ハッ……いやいや違う。
「もうしばらくの辛抱ですよ。今日の昼頃にはセレンの町に着きますよ」
「もうお尻痛いし、周りなんにもないし、アタシ飽きちゃったんだけど~」
私が黙っていると、冒険者の男が宥めてくれる。
出発してから、まだ1刻も経ってないだろうが!
なんでまた、教会はこんな小娘をよこしたんだ!?
「なによ、その目。あっもしかしてイヤラシイこと考えてる!?ダメよ!ポリーナさん助けて!」
いい加減にしてくれ!
もう一人の冒険者の女が「はいはい」と言って、馬を寄せて相手している。
ほら、見てみろ。冒険者も苦笑いだぞ……
今回の視察は私を含めて4人で来ている。
さっきからうるさいこの女は教会の者でアメリアという。
……なんでも敬虔な信者で、ダンジョンを探す魔道具を託されているらしい。「敬虔な信者」のイメージとは程遠いが。いや、わがままっぷりは教会らしいと言えるか。
あとの2人は護衛の冒険者だ。ギルドに依頼し、セレンの町出身の腕利きということで紹介してもらった。Cランクのパーティで、男の方がダニール、女の方がポリーナといい、兄妹らしい。
「今日のうちにダンジョンがあるという森まで行けるだろうか?」
「いえ、セレンの町からは歩いて1日以上かかりますから……馬で行くとしても今日はセレンの町で一泊し、明日向かった方がよろしいかと思います」
「そうか。しかし、馬で行くことに何か問題があるのか?」
「森の中に入らないのであれば問題はありません。森の中に入るのであれば、馬は森の外に置いていくことになりますが、その場合、帰りには馬が魔獣にやられてしまっているかもしれません」
なるほど……ダンジョンは森にある、とだけ聞いているが、森のどこかまでは分からない。教会の魔道具もあまり離れていると反応しないらしいしな。森のそばまで行って、魔道具が反応してくれればいいが……いや、そもそも森の中のどこにあるのか、ある程度は調べておいた方がよいか?
「馬ではなく、魔導車を使えば、問題ないんですけどね」
そう言って冒険者はアメリアの方を見る。
「ダメよ!魔導車なんて絶対ダメ!アタシの前で魔石なんて絶対に使わせないんだから!!」
アメリアが急に血相を変えて叫び散らす。
そもそも、領都から出るときも魔導車を使う予定だったのだ。それが、この娘がゴネるものだから、馬なんか使う羽目になった。おかげで予定が大幅に伸びてしまった。
「分かった分かった。仕方ない。帰りが歩きになるかもしれないのは覚悟して、馬で行こう」
これ以上、時間をかけるわけにもいかない。
私がストレスでハゲてしまう。
◇◇◇◇◇◇
その日は、ダニールの進言通り、セレンの町で一泊することにした。
セレンの町は小さな町で宿も一つしかないらしい。
「あら?ダニールにポリーナじゃないか?帰ってきたのかい?」
「オルガおばさん!久しぶり~」
ダニールとポリーナはどうやら、宿の女将と知り合いらしい。
まぁこんな小さな町だ。出身地だというのだから、知っているのも当たり前か。
「今回は仕事で来たんだよ。もしかしたら、北の森が……」
「ダニール!」
要らぬことを言おうとしていたダニールを呼び止める。
「我々はこの町の北にある森に異常がないかを調査しに来た者です。明日も朝早いので部屋に案内いただけますか?」
「あ、はいはい。お疲れのところ悪かったね。部屋はこっちだよ」
無理やり話に割って入り、中断させる。
「ダンジョンの話、したらまずかったですか?」
「いまのところはな。確定したことでもないし、変な噂になって要らぬ事態が起きても困る」
領主様はダンジョンを生かしたまま、魔石の採取場にするおつもりだ。おそらく、ダンジョンコアは法的に守られることになる。
万が一、諸々の整備が整う前に誰かがダンジョンコアを取ってしまっては困る。
私はチラリとアメリアを見やる。
おそらく、ダンジョンコアを守る事を教会はよしとしないだろう。今回の旅で、アメリアの様子を見て、よく分かった。この娘が敬虔な信徒だというのなら、ダンジョンコアなど忌避するに違いない。
当面、そっとしておきたい。
「おばちゃん!ろうそくある?ろうそく!」
「ろうそく?部屋には明かりの魔道具がついてるよ。部屋の中の魔道具は自前の魔石を使ってもらうけど、明かりだけはサービスで魔石付きにしてるよ」
まぁ明かりなんて、大した魔力を使わないからな。この宿に限らず一般的なサービスだろう。
「ダメだよ!魔石なんて!おばちゃんも教会に行って神父様のお話聞いた方がいいよ!」
「あら、教会の方だったかい。分かったわ。ろうそく持ってくるから待ってな」
こんな辺境の町じゃ教会なんてないだろうに……。
「ちなみにこんな町ですけど、教会あるんですよ。とっても小さいし、神父が一人いるだけですけどね。あ~今も残ってるかは分からないですが」
「なに言ってんだい。カルロ神父はご存命だし、当然まだあるよ」
ダニールが私の心を読んだかのように説明してくれる。
なんと、こんなところに教会があるとは。というか、だったら、そのカルロ神父とやらにダンジョンを確認してもらえばよかったのでは?こんな小娘じゃなくて!
「そうなんだ~アタシ、お祈りに行ってこよっかな~」
「あ~でも、カルロ神父は変わってるからね。そんなに魔獣とか魔石を嫌ってるわけでもないから、お嬢ちゃんとは合わないかもしれないね」
「え~~~そんな神父いるの!?」
「ご自身でも『世の中の教会の考え方とはちょっと違う』っておっしゃてるくらいだからね」
「そういや、子供の頃、カルロ神父に魔道具の使い方教わった気がするな」
そりゃすごいな。敬虔な信徒でなければ、生活するのに仕方なく魔道具は使うんだろうが、ヒトに表立って勧めるとは相当だ。
「……ちょっとアタシ、その神父とオハナシしてくる」
こらこらこらこら……
しかし、なんで、こんなにも魔石に対して忌避感を持ってるんだろうな?
……まぁなんとなく想像はつくが。
「アメリア、そういや、おまえの出身はどこなんだ?」
「……ノナハ村よ」
あぁ、やっぱり。
確か、ノナハ村はダンジョンが近くにでき、そしてなくなった村だ。
「余計な事聞いて、悪かった。もうすぐ日も暮れるだろう。明日の朝も早いのだから、今日は休みなさい」
今日は、もう、この小娘の面倒見るのは勘弁してくれ。
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