第22話 ポータブル

「しかし、なんとかならんかね。面倒過ぎる」


「カイン兄、どうしたの?」


 俺がダンジョンコアの前で愚痴っていると、ティナがやってきた。


「ダンジョンコアのスキルって《交信》を除いて、基本、触れてないと使えないだろ」


「それがどうかしたの?」


「これからダンジョンが広くなってくると、罠とか創るにしても、ダンジョンコアがここにあると創りづらくて仕方ない」


 一旦、離れていても分かるように魔力でマーキングしてやってから、ダンジョンコアのところに来てスキルを使う必要があるからな。まぁ空間認識能力が桁外れに高ければ、どーにかなるのかもしれないが。


「あ~そうよね。これまではこの部屋しかなかったから、よかったけど、これからは困るわよね。でも、カイン兄はデーモン種で魔力の扱いが得意だからいいけど、他のダンジョンではどうしてるのかしら?」


「いや、マーキングって魔法ですらないし、別に難しくもないだろ……。そーいや、ティナはどうした?何か用があったんじゃないのか?」


「あ、そうそう。ゴブタロウがね……」


 と、言いかけたところで、ティナの後ろから2匹のゴブリンが走ってくる。

 ゴブタロウ達……って違う。なんかちっちゃい!


 その小さいゴブリン達は2匹で騒いで、部屋の中を走り回っている。

 ……なんだか子どもみたいだな。

 ゴブタロウってパパだったのか?


 なんてのんきなことを考えていると、2匹がダンジョンコアが気になったのか、手を伸ばす。


「「あっ」」


 それに気づいたときにはもう遅い。

 小さいゴブリンのうちの1匹がダンジョンコアをとってしまった!


「おい!何をする!!」


 慌てて、俺はダンジョンコアを取り上げる。

 これ、直るんだろうな……。

 ゴブリンの子どもにやられたダンジョンなんてことになったら、魔族の歴史に残る笑い話になってしまう……。


 そんな事を考えていると、入り口の方から、大人のゴブリン2匹が走ってきた。


「(カイン、ごめん)」


 今度こそ、ゴブタロウだ。もう1匹の方が子どものゴブリン達の親なのだろう。2匹にゲンコツを食らわせた後に、土下座してくる。

 ゴブゴブとしか聞こえないが、必死に謝っているのだろう。


「ちょっと待て。まずはダンジョンコアの確認が先だ」


 俺は台座にダンジョンコアを戻す。

 ……ふむ。どうやら、問題なく機能しているようだ。

 だが、ちょっと気になるな。まぁ今はいいか。


「無事なようだ」


「(ふ~~~)」


「ちょっと~驚かせないでよ~」


 いや、ほんとだ。焦ったわ。


「(ごめんなさい)」


「無事ならいい。ゴブタロウ、こいつらはなんなんだ?」


「(仲間、連れてきた)」


 まぁそういうことだろうな。頼んでたわけだし。

 しかし、2人の子連れのゴブリンか……役に立つのか?

 今みたいな事が起きないように子どもの面倒見てるだけになっちゃうんじゃないか?

 まぁいきなりうまくはいかないか。ゴブタロウだしな。


「(カイン、外来て)」


「ん?」


 ゴブタロウに促されるままに、ダンジョンコアのある洞穴をみんなで出る。

 そこには……


「びっくりよね。確かにこの森、ゴブリンの数は多い気はしてたけど、この短期間でこれだけ集めるなんて」


 30匹はいるんじゃないだろうか。ゴブリンの群れがいた。


「すごいな……やるじゃないか、ゴブタロウ」


 ゴブタロウが誇らしげに胸を張る。


「いったい、どうやってこんなに集めたんだ?」


「(カイン、強い。みんな、安全、喜ぶ)」


「ん?どういうことだ?」


 よくよく話を聞いてみると、どうやら、ここにいるゴブリン達は身の安全を求めて、ここに来たらしい。

 ゴブリンはその繁殖力の高さゆえに数は多いものの、戦闘力は最底辺。魔獣の多いこの森では常に狩られる側だ。ゴブタロウは俺の強さをアピールし、庇護下に入れば安全だといって、このゴブリン達を連れてきたらしい。近くに住むことができれば、それでよく、食料も自分たちでどうにかするし、魔力の補給なども不要だそうだ。もちろん、庇護下に置かれれば、手の空いている者はこっちの作業を手伝うとのこと。


「理想的じゃない。ゴブタロウ、すごーい」


「あぁ、見事だな。ティナよりよっぽど交渉がうまいんじゃないか?」


「うっ……そんなことないもん!アタシは大物狙いなんだから!」


 よしよし。これでティナも奮起してくれれば言うことなしだ。


 今は何をするにも手が足りない。たとえ借りられるなら、ゴブリンの手でもありがたい。

 だがしかし……


「この人数の住む場所か……さすがにすぐには無理だな」


 洞穴の中に入れなくはないだろうが、ちょっと窮屈だろう。


「いっそ、ここじゃなくて、ちょっと離れたところに集落作ってもらったら?」


「(離れる、ダメ。狙われる)」


 そうだよなぁ。身の安全を求めて来てるのだから、離すわけにもいかんだろ。


「仕方ない。ヘッジ達に頼んで、ゴブリン達が住めるような空間作りを優先してやってもらおう。それまでは、この広場で我慢してくれ。あ、早く住処ができるように、土運びは率先して頑張るように」


「(わかった。ありがと、カイン)」


 そう言うと、ゴブタロウはゴブリン達に説明しに行く。


「一気に仲間が増えたわね。……ゴブリンばっかりだけど」


「いや、1匹1匹は弱くとも数がいるというだけでも力になる。それに戦闘面では期待できなくても、生産面は可能性もあるだろう。あとで個別のスキルも確認しないとな」


 さて、ヘッジにゴブリンの住処を掘ってもらうようにお願いしてくるか。


「あ、そういえば……」


「どうしたの?」


「いやな、さっきゴブリンの子どもがダンジョンコア取っちゃっただろ。その時、ちょっと気づいたことがあってな」


 俺はティナを連れ立って、ダンジョンコアの前まで行く。

 そして、ダンジョンコアを台座から取り上げる。


「それ、取れるもんだったのね」


「俺もゴブリンがやらかすまでは気づかなかったよ」


「気づいたことってそれ?」


「あぁ、取り外せるってことは持ち運べるってことだ。離れたところでスキルを使いたいなら、コアだけ取り外して持ってけばいいんじゃないかと思ってな」


 試しにコアだけ持ってスキルを使ってみる。

 もちろん創るのはお馴染みの落とし穴。


「《迷宮創造》」


 目の前の地面が光輝く。

 ティナがそ~っと指でつつくと、落とし穴が現れた。


「使えたな」


「な~んだ、きっと他のダンジョンでもこうやって離れたところでもスキル使ってたのね。マーキングなんていらないじゃない」


 これでいちいち行ったり来たりしなくてもスキルが使えるようになったな。というか、これって……


「ねぇ、というか、コア戻す必要ある?いつもカイン兄が持っとけばいいんじゃない」


 そうだよな。俺もそう思った。

 状況にもよるが、気づかないうちに掠め取られる可能性を考えたら、俺が常に持っておいた方が安全だろう。


 あ~いや、ダメっぽいな。


「いや、基本的には台座に置いとかないとダメみたいだな」


「なんでよ?持ってた方が便利だし、安全じゃない?」


「どうやら、台座に置いておかないと地脈から魔力を吸い上げることができないみたいだ」


 さっきから、魔力の流れが感じられない。

 スキルを使いたいときや、緊急時に持ち出すのはアリだろうが、そうでなければ台座に置いておくようにしないと、ダンジョンコアの魔力が増えてくれない。


「まぁ、取り外し可能ってことが分かっただけでも十分だ」


 だが、まだダンジョンには俺の知らないルールがありそうだ。

 おいおい確認していかないとな。

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