第21話 広がるダンジョン
あれから、5日。順調に進んでいる。
ヘッジ達、ダンジョン拡張組はダンジョンコアのあった部屋、3つ分は掘り進めている。
モール達はヘッジよりランクが落ちるので、掘るスピードも落ちるかと思われたが、遜色ないスピードで掘っている。
「(穴掘るだけなら、大丈夫……)」
穴掘るだけって、お願いしてるのは、その穴掘りなんだが?
「(アニキ、穴掘りナメたらダメっすよ。地面には土だけじゃなくて岩とか木の根っことかも埋まってるんすから)」
ヘッジが補足してくれる。
どうやら、モール達のスキル《穴を掘る》は本当に穴を掘ることだけしかできないらしい。岩とかにぶち当たるとお手上げ。その点、ヘッジのスキル《掘削》なら、ある程度突き崩していけるらしい。
「(この辺り、みょ~に硬い岩盤だらけだったんすよ。だから、俺一人の時は掘るのも時間かかってたんすけど、その岩盤の層を突破してからは順調っすね)」
それはよかった。あんまり時間がかかるようなら、増員も考えていたが、ひとまずは様子見でよさそうだ。
ついでにモール達、方向音痴らしい。
「(だって、ミミズ探すだけなら方向とかどうでもいい……)」
そうかもしれんが、それじゃこっちが困る。
これもヘッジが修正してくれてるようだ。ヘッジがダンジョン拡張部隊のリーダーとしてうまいことやってくれているようだ。
「(しかし、アニキ、言われたとおりに掘り進めてるっすけど、こんなんでいいんすか?)」
「あぁ、バッチリだ」
ヘッジ達にはちょっと変わった掘り方をしてもらっている。
俺達が普通に歩いて通れるくらいの広さの道を複数、最初の部屋から複数掘り進めてもらっている。
「(いや、狙いはわかるっすよ?迷宮型にするつもりなんすよね?でも、これじゃ、狭すぎて戦えなくないっすか?)」
「いいんだよ。戦いにくいのは人間達も同じだ。それに確かに俺やティナだとこの広さの道じゃ戦いにくくてしょうがないが、魔族の中には小さな体のやつもいる。ほら、ゴブタロウ達なら普通に動けるだろ?」
「(あ~そうっすね~、オレっちも問題ないですし。……戦えないっすけど)」
それはゴブタロウ達もまぁ一緒だ。戦える仲間は別途集める必要がある。
「それとな、ちょっとやってみたいことがあるんだ」
そういって、俺はダンジョンコアのある部屋から伸びる道の1つの前に立つ」
「この道、いまどのくらいの長さになってる?」
「(そうっすね、ここは一番順調に進んでるところっすから、歩いて10分くらいじゃないすかね?)」
そのくらいなら、いいだろう。ヘッジを連れて、道の中を進んでいく。
突き当りでは、モール2匹が一生懸命掘り進めていた。
「(……?)」
「いや、いいんだ。こっちは気にせず、進めてくれ」
俺はしゃがんで、地面を指でなぞる。
「(何してるっすか?)」
「ただのマーキングだよ。俺の魔力を残して、離れたところからでも感知できるようにするんだ」
さすがにこれだけ離れてるとイメージが沸かん。
「っと、これでよし。さぁ戻るぞ」
ダンジョンコアのある部屋に戻ってきた俺はコアに触れる。
「《迷宮創造》」
さきほどマーキングしたところをイメージし、スキルを使う。
しかし、面倒だな……。
そして、再び、道の最奥へ。
「(さっき……後ろの地面が光った……)」
「あぁ、いま、ここに落とし穴を創ったんだ。後で解除するが、危ないから今はこっちには来ないようにな」
それだけ話すとモール達は再び穴掘りを始める。
寡黙だけど、勤勉なやつらだな。
「(いや、オレっちもそうすけど、これが普段の生活っすから。働いてるとゆーより、エサ探してるだけっすから)」
まぁそれがダンジョンのためになってるんだから問題ない。
「(で、こんなところに落とし穴創ってどうするんすか?道の途中に罠を創るのは分かるっすけど、今はまだ工事中だから、後にして欲しいっす)」
「もちろん後で解除するつもりだが、ちょっと実験をな」
俺は床に触れ、落とし穴を起動させる。
「ヘッジ、この中に入ってくれ」
「(へ?……危なくないっすよね?)」
ヘッジは少し不安そうな顔をしつつも、穴の中に飛び込む。
そして、俺も穴の中へ。
「(で、なんすか?……あ、分かったっす!アニキ、罠を使って、ダンジョン掘り進めるつもりっすね!さすがアニキ!セコい!!」
「いや、お前、全然褒めてないだろ、それ……」
ティナもそうだが、俺を守銭奴みたいに言うんじゃない。
ついでに残念ながらハズレだ。
「罠を使って、掘り進めることは俺も考えた。実際それは可能だ」
少し前にこれも実験してみた。
この落とし穴は設置した場所の振動を感知して、穴を一瞬で創り出す罠だ。
ティナがスキルを使って歩いたときは落とし穴があるはずの場所を歩けたことから、「穴があって、地面の幻を見せている」のではなく、「発動した瞬間に穴を創る」のだろう。
そして、ひとたび発動し、落ちた者が抜け出すと元にもどる。また、罠自体を撤去しても、当然、元にもどる。穴が空いたままにはならない。
だが、誰かが中にいるときに、罠を解除したら?
穴の中にいるやつは生き埋めになるのだろうか?
ティナにわざと落ちてもらって確かめたところ、生き埋めにはならなかった。
罠の解除自体ができなかったのだ。ダンジョンコアのスキルは不思議なところで安全設計だ。
ちなみに、生き埋めになるのではなく、穴が空いたままになるのだと思っていたのだが、実験のことをティナに話したら、しこたま怒られた。
「なんで、無駄に危険を冒すのよ!せめてヘッジに頼みなさいよ!」
いや、ヘッジはダンジョン拡張という仕事があったからね……。
この実験にはまだ続きがある。
ダンジョンコアを使った解除はいわば正式なやり方だ。
では、コアのスキルではなく、強制的に解除したらどうなるのだろうか。
そう、俺のスキル《永劫回帰》だ。
試したところ、こっちはうまくいった。穴が空いたまま残ったのだ。
しかも、ダンジョンコアのスキルを使った解除と違って、罠を創る際に消費した魔力は半分回収だ。
これはイケる。俺も一瞬そう思った。
だが……
「罠を使って、穴を掘り進めることはできる。でも、そんなことをするくらいなら、普通にコアのスキルで部屋創っちゃった方が割安なんだよ……」
罠を創るのに消費する魔力は50。俺のスキルで解除するから、実質的には25を消費することになる。
一方、ダンジョンコアのある部屋を創ったときに消費した魔力は200。
同じ広さの空間を創るのであれば、どう考えても、部屋を創った方が消費する魔力は少なくて済む。
「(あ~そうなんすか。数字の話はよく分からんっすけど。でも、俺達、まっすぐ下に穴掘るのはちょっと難しいっすから、そういうときには使えるかもしんないっすね)」
まぁ、それすらも極小の部屋を創るって形の方が魔力消費少なくて済みそうだが。
「(じゃ、なんで、こんなところに落とし穴創ったっすか?)」
よくぞ聞いてくれた。
「この落とし穴を『扉』にしたらどうかと思ってな」
落とし穴に落ちた先に道を作るのだ。
「(なるほど。逆をつくってことっすね!)」
この間来た、冒険者パーティですら、落とし穴の存在には警戒していた。ちょっと分かりやすくしておいてやれば、わざわざ落ちるやつもいないだろう。
「(間抜けな人間がたまたま見つけるってことはあるかもしんないっすね)」
そうなんだよなぁ。まぁそれは仕方ない。
「(それに、ダンジョンの罠だったら、解除しちゃえば、簡単に道を塞げるっすね。道の先にダンジョンコア置いておけば籠城できるっすね)」
「いや、それはダメだ。ダンジョンコアのスキルを使って、ダンジョンコアへの道を閉ざすことはできない」
「(へ?なんでっすか?)」
「なんでなんだろうな。なんでも『攻略不可能なダンジョンを創ることは許されない』んだそうな」
ヘッジは分かったようなわからないような顔をしている。
いや、待てよ。実際に確認するくらいはしとくか?
というか、俺のスキルを使えば、落とし穴の解除ならできそうだな。
「というわけで、この落とし穴の底からまた、道を作ってくれ。これがダンジョンコアに続く本命の道になるからな」
「(りょーかいっす。んじゃ、上の道は落とし穴があっても不自然じゃない程度にもうちょっとだけ掘り進めて、行き止まりにしとくっす)」
「おう、それでよろしく」
こうしてダンジョンの拡張は進んでいく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます