第15話 舞台裏
「いや~キレイに決まったな~」
俺はティナ達と一緒に今回の勝利を喜ぶ。
「恐ろしいって聞いてたけど、人間ってバカなのね」
ティナが呆れている。
だが、それは俺も思った。今回、かなり警戒して色々と準備していたのだが、そのほとんどが無駄になってしまった。
「(でも、オレっちが作った落とし穴は気づかれちまったっす…)」
「あれはバレるように仕組んだものだから、いいんだよ」
俺はヘッジを慰める。
「ゴブブブブ~♪」
ゴブタロウ達はアププに夢中だ。
今回、俺は人間達がやってくる前にその兆候に気付くことができた。
ゴブタロウにティナの服を渡してやる時、おかしな魔力がついていることに気づいたのだ。
あとになって、きちんと確認したところ、微弱な魔力を発し続ける魔法のようなものだった。
それから、人間にやられたと気づいた俺は大急ぎで、対策に乗り出した。
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まずは、ティナによる偵察。森の調査は一旦中断し、森の南側を中心として偵察してもらうことにする。
そして、ダンジョンコアの移動。さすがに今のままでは心許ない。ヘッジに掘ってもらった空間に移動さえる。とはいえ、時間がない。今のダンジョンコアのある部屋から少しだけ奥に、小さな小部屋を作るのがせいぜいだった。ヘッジは申し訳なさそうにしていたが、むしろ時間のない中で頑張った方だろう。
そこにダンジョンコアを《迷宮創造》のスキルで移動させた。ダンジョンコアの移動に要した魔力はなんと2,000だ。これだけでそれまで貯めていた魔力がほとんどなくなってしまった。
ダンジョンコアを移動させた後には、小さな水晶玉を乗せておいた。
「ねぇカイン兄、これ、偽物のつもり?大きさも輝き方も違うし、すぐバレるんじゃないの?」
ティナからはツッコミを受けたが、問題ない。人間の冒険者がダンジョンコアなんて知らないだろうからな。
ヘッジには、ダンジョンコアを隠す部屋を作ってもらった後、洞穴の周辺一帯に落とし穴を作ってもらった。
ちなみにゴブタロウ達にはヘッジの穴掘りを手伝ってもらい、落とし穴まで完成した後には森の入り口付近で偵察をお願いした。
「ゴブタロウ達、昼寝してたわよ」
……偵察が役に立ったかどうかは不明だ。
そんなこんなで準備を進めて日々を過ごしているうちに冒険者がやってきたことをティナが報告してくれた。
冒険者が森に現れたといっても、まだ入り口付近。ダンジョンコアのところにくるまではまだ2、3日かかるだろう。ティナにはそのまま尾行してもらった。
なお、魔力のついた服はダンジョンコアとは別のところに隠した。わざわざダンジョンの場所を教えてやる必要はないからな。
「どうやら、あの人間達、単独で動いてるみたいよ」
野営をしている冒険者達を偵察していたティナがそう報告してくる。
「『他のやつらが気付く前に』とか『俺達のことをバカにしてたやつらの鼻を明かしてやる』とか言ってたわよ」
それは朗報だ。
最も懸念していたのは、冒険者達からこのダンジョンのことがバレることだ。そうなった場合には、すぐではないにせよ、人間どもが大挙して押し寄せてくる可能性がある。
随分早くやってきたと思ったが、ティナの服に魔力をつけた奴らが戻ってきただけだったか。
ぶっちゃけ、この時点で俺はもう安心していた。人間は恐ろしいが、それは数の力があるからだ。単に4人が攻めてきただけなら、どうとでもなる。俺だけならまだしも、ティナもいるしな。なんなら、ティナ1人でも十分蹂躙できるだろう。
「よし、人間の冒険者がどんなものか、情報収集とテストをしよう」
それから俺はその冒険者パーティを相手にいくつかテストをしてみた。
魔法を近くで発動させて、気付くかどうかを見てみたり、
野良魔獣を押し付けて、どの程度の戦力があるものか量ってみたり、
結果として分かったのは、まず、やつらは魔力を全く感知できないらしいということだ。
魔力を持たないのだから当然なのかもしれないが、これなら遠くから魔法を放り込んでやるだけでどうとでもなるような気がする。
戦闘力もさほどでもない。ティナが冒険者同士の会話を聞いたところ、やつらはDランクの冒険者らしい。なるほど、たしかに魔獣のDランクと同程度の実力だろう。
そして、ダンジョンコアに近づいてきたところで、ティナに魔力のついた服をもたせて、うろつかせる。せっかくなので、罠の効果も見てみたい。
ヘッジが掘った落とし穴には気づいた。
まぁこれは布石の意味が強いので、構わない。
本命はダンジョンコア(偽物)の前の落とし穴だ。ティナには《無音の探索者》を使ってもらい、わざと落とし穴の上を歩いてダンジョンコア(偽物)のところまで行ってもらう。このスキルを使っている最中なら、ダンジョンコアのスキルで創った落とし穴は作動しない。
ついでにその際、《ライト》の魔法を使ってもらい、ダンジョンコア(偽物)を光らせる演出付きだ。
かくして、冒険者はものの見事に落とし穴には気づかず、キレイに4人揃って落っこちたというわけだ。
「それにしてもあれで尾行してるつもりだったのかしら?『バキッ』とか途中で音がしたし、そもそも、ふつーに話し声も聞こえたわよ」
ティナが呆れるのも分かる。
「人間はあまり魔族のことが詳しくないのかもしれないな」
種族によっても違うが、ティナは獣人だ。魔法は《ライト》レベルのものしか使えないが、運動能力は高く、五感が鋭い。人間にとっては十分な距離をとってヒソヒソと話をしているつもりでも、ティナには丸聞こえだったわけだ。
「油断はダメだぞ。今回の元凶のティナくん」
「……」
ギクッとして、ティナがこちらを伺うように見てくる。
「あの冒険者が周りにバラさなかったからいいものの、下手したらいきなり大ピンチだったんだからな」
「ごめんてば~も~初日にも謝ったじゃない。いまさら、あのときのミスが響くなんて~~~」
ティナが涙目だ。
まぁ確かに、あの時謝罪は受け入れてるからな。
……まさかこんな大事になるとも思ってなかったが。
「とにかく、危機は乗り越えたわけだ。これからは当初の計画のとおり、ダンジョンの存在が人間にバレないように、こっそりと強化していくぞ」
「いや~残念ながら、それは無理じゃないかな~」
「「!?」」
人間だ。
いつの間にか、人間が一人、それも、明らかにさきほどの冒険者達とは違う空気を纏い、そこに立っていた。
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