第14話 【ルイーズ】お宝探し

 二日酔いの日から明けて翌日、俺達は準備を始めた。

 なんの準備かって?もちろん引っ越しの準備だ。

 ダンジョンコアを獲ったら、その足でそのまま王都に行くのだ。どうせダンジョンコアなんて、こんなちんけな町じゃ扱えないだろうし、売った金で王都に豪邸を買うのだ。みなそのまま王都に行こうという話で一致した。


 魔導車も用意した。おかげでもう俺達は一文無しになってしまったが、構わないだろう。ダンジョンコアがあれば、この程度いくらでも取り返せる。


 それから、またギルドの酒場で、ダンジョンコアの獲得に向けて、俺達は最終的な打合せをしていた。


 その最中、変な男から声をかけられた。

 あのときはビビったね。話の内容を聞かれてたんじゃないかとダットンもかなり焦ってやがった。


 大して若くもないオッサンで、ソロの冒険者らしい。珍しいな。

 森で狩りをするのは腕があればどうにかなるかもしれないが、あの森は遠い。基本、どこかしらで野営が必要になるだろう。森の中でなくても魔獣は出てくるため、どうしても見張りは必要になるが、ソロの場合だとそれが難しい。

 木の上とかで寝てるのだろうか?

 いやいや、木を登ってくる魔獣や飛んでいる魔獣もいるから、ダメだな。


 こんな歳になるまで冒険者やってるのに、パーティも組めないなんてよっぽど実力がないんだろうな。


 まぁ、そんなことはどうでもいい。


 俺達は借りた魔導車で森に向かった。


 森についた後は魔石を外して魔導車は外に置いていく。

 道具なんぞ食い物にもなりゃしないので、置いといたとしても魔獣に壊されることなどまずない。

 ただ、魔石がついていると別だ。

 やつら、魔石の匂いは嗅ぎ分けるのか、魔石がついたままになってると襲ってくる。丁寧に魔石だけとってくれりゃいいが、そんなわけはない。高価な魔導車までボロボロにされちまう。


 ちなみに冒険者同士で魔導車に手を出すやつなんざ、まずいない。魔導車を個人で持っているやつなんてまずいないから、持ってるだけで怪しまれるからな。まぁ、絶対ないとも言い切れないが……。

 少なくともこの森で狩りをしているパーティなんてほとんどいないからまず大丈夫だ。


 俺達は何度か野営を挟み、魔道具の指し示す方向に向かって、森を進んでいった。

 途中で魔獣も見かけたが、基本無視だ。避けられない場合は仕方ないが、極力戦闘はせずに進む。余計なことをして、魔族に感づかれてもまずい。


「近いな」


 魔道具の反応がいい。この魔道具は方位磁石のようなものだ。とりつけたマーカーの方に向けて針が動く。距離までは示してくれないが、近づいてくれば、その振れ幅でなんとなくは分かる。ちなみにマーカーは時間が経つにつれて、効力が弱くなり、針の反応も悪くなる。だいたい10日くらいすると反応が消えて使えなくなってしまうので、もうあまり時間の余裕はない。


「待て」


 俺は全員に止まるように声をかける。

 前の方で何かが動く音がする


 ……いた。あの獣人だ。


「ほんとにいたんだな……」


 ドマーニの野郎、まだ信じてなかったのか。


「こりゃぁ間違いねぇな。噂に聞く魔族ってやつだろ」


「けっこーかわいい姿してるのね」


「確かにな。捕まえて売ったらいい値段で売れそうだ」


「おい、ありゃ魔族だぞ」


「いや、そーゆーのが好きなやつも王都に行きゃいくらでもいるだろ」


「そういう意味じゃねぇよ」


 できるなら捕まえて奴隷にしてやりてぇのは分かるが、俺達じゃ無理だろ。


 ダットンが肩をすくめてみせる。


 一応冗談のつもりだったらしい。

 ……冗談だよな?

 コイツ、腕っぷしが強ぇからリーダー張ってるが、頭が足りてねぇんだよな……。まぁこんなやつらともこれが終わればおさらばだ。


「おい、獣人が移動するぞ」


 何をしていたのか知らないが、獣人が森の奥の方へと移動していく。


「つけるぞ」


 俺達は見失わない範囲で可能な限り距離をあけて、獣人を追っていく。

 ……頼むから、いま魔獣なんて出てくるなよ。

 俺は祈るような気持ちで先頭を切って歩いてく。


(バキッ)


「「「!?」」」


「ご、ごめんよ……」


 リズリーのやつが、木の枝を踏んづけたらしい。

 こんな状況じゃなきゃ、どなりつけて、ぶっ飛ばしてやるところだ。

 ダットンとドマーニも同じ気持ちだったのだろう。特にダットンなんざ拳を握りしめて、今にもやりそうだ。


「気をつけろ、リズリー!おい、行くぞ。お宝見失うぞ」


 俺は先を促す。こんなところで仲間割れをしている場合じゃない。

 ダットンもお宝の言葉に反応し、怒りを沈めたようだ。

 幸い、獣人のやつはこっちに気づいた様子はない。


「ん?」


「どうした?まさか、気づかれたか?」


「いや、なんかおかしい」


 いま、あからさまに獣人のやつの動きがおかしかった。

 まるでなにかを避けるようにジャンプして進んでいった。


 その場所まで来て、俺は地面を確認する。一見なんの変哲もないただも地面だが……


「これは……、落とし穴があるな」


 伊達に斥候をやってない。

 俺は仕掛けられていた罠に気付く。


「なんだ、尾行にバレたのか?」


「いや、そんな様子はない。おそらく、周辺一帯にしかけてあるんだろう」


「てことは……」


「あぁ、目的地は近いぞ」


 ダンジョンコアはすぐそこだろう。

 俺達は落とし穴と思われる箇所を避けて進む。


 しばらくすると少し開けた場所が見えてきた。


「洞穴か……」


 広場の奥には洞穴があった。これがダンジョンの入り口でまず間違いないだろう。

 見ると獣人も洞穴へと入っていく。


「行くぞ」


 ダットンが待ちきれずに洞穴の脇へと体をつける。


「待て。俺が確認する」


 ここまで来て、このバカに台無しにされてたまるか。

 俺は少しだけ身を乗り出して、洞穴の中を覗く。


「この洞穴、大して広くなさそうだな」


 外の明かりが差し込み、獣人が奥へと進んでいく様子が見える。


「ん?なんだ、あれは?」


「どれだ!?」


 ダットン達も覗き込んでくる。

 バカ野郎!気づかれたらどうする!?

 叫びたい気持ちに駆られながらも我慢する。


「あの白いやつがダンジョンコアじゃないか」


 ドマーニのやつも声が上ずっている。

 だが、俺もそう思う。洞穴の奥に見える白い小さな球体がきっとダンジョンコアなのだろう。


 獣人はダンジョンコアに触れ、何事かつぶやいているように見えた。何を言ってるのかは聞こえなかったが、なにかしたのだろうか。


「もういいだろ!お前ら隠れろ!」


 獣人がダンジョンコアから離れ、まっすぐ出口に向かって歩いてくる。


 ダンジョンコアの場所は分かったんだ。もうここにいるのはマズイ。獣人がいつ出てくるかも分からない。


 俺達は洞穴から離れていく。

 あとは獣人のやつがダンジョンコアから離れたスキにいただくだけだ。


 しばらくすると獣人のやつは洞穴から出てきて、またどこかに行ってしまった。

 俺達は魔道具でやつが十分に離れたであろうことを確認する。


「ねぇ、もういいんじゃない?」


 リズリーのやつがもう待ちきれないとばかりに何度も催促してくる。


「あぁ、もういいだろ」


「よっしゃー!行くぞお前ら!」


 3人が走り出す。


「おい、待てって!」


 俺も慌てて追いかける。


 洞穴に入っていくと少し広い部屋のようなところに出る。

 白い球体はさっきと変わらず、その部屋の中央にある。


「これで俺達も王都住まいだ」


 俺も含め、みなすべてがうまくいったことに喜びを隠しきれない様子だ。


 この瞬間、俺達は幸せの絶頂にいた。


 そして、ダンジョンコアに向けて再び歩き始めた瞬間。


「「「は?」」」


 突然、地面に穴があいた。


 この瞬間、俺達は地獄の底に落ちた。

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