第13話 【ルイーズ】広がる夢
俺はセレンの町で冒険者をやってるルイーズ。
4人パーティで斥候を担当している。
いつものように森で狩りをして、一休みしているとき、俺は叫び声を耳にした。
(ブォォォーーー)
遠くの方だが、断末魔のようだった。おそらく魔獣同士の争いがあったのだろう。
「オークか……ミノタウロスか……」
「おそらくミノタウロスだろう」
リーダーのダットンにも聞こえていたらしい。
「一応、確認に行っとけ」
「わかった」
俺は叫び声のした方に向かっていく。
魔獣同士が争っていたのであれば、勝った方も傷ついている可能性がある。もしかしたら、労せず2頭分の成果が得られるかもしれない。そうでなくても、食べ残しに使えるモンがあるかもしれない。
もちろん、勝ったやつがいるってことは、ミノタウロスより強い魔獣がいるってことでもある。俺達はDランクのパーティだ。もうそろそろCランクに上がれるだろうが、ミノタウロス相手はちょっと厳しい。まずは偵察のため、俺が見に行くわけだ。
警戒しながら歩いていくと何かを引きずるような音がして、素早く身を隠す。そのまま慎重に音のする方に近づいていくとなんとも奇妙な光景を目にする。
女のガキがでかいミノタウロスを引きずっているのだ。
一瞬目を疑った。
こんな魔獣のでる森に10代前半くらいのガキが一人で出歩いているわけがない。
奴隷を使うにしたって、もう少しまともなやつを使うだろう。
だが、よくよく見てみると、頭に猫のような耳がついている。
こいつは……獣人、魔族だ!
そのことに気づいて俺は冷や汗を流した。
見た目からすると大したことなさそうにも思えるが、獣人は最低でもBランク。
俺らごときじゃ手も足も出ない。
だが、これは大きなチャンスでもある。
俺はとっさにポケットから1つの魔道具を出し、その獣人の背中に向けて作動させる。
その後はもう一目散に逃げたね。獣人は俺には気づかなかったようで、無事パーティのところまで戻ってこれた。
戻ったら、ダットンは俺の顔を見ただけで何かを察していたようだ。
何も言わずに即座に撤退を決めた。
---
「で、何を見たんだ?」
その後、十分に離れたところで野営をすることになり、落ち着いたところでダットンに問いただされる。
「魔族がいた」
「「「なっ!?」」」
3人が驚く。そうだろそうだろ、俺も驚いた。
「いや、あんた、魔族なんて見たことあんのかい?」
パーティで唯一の女のリズリーが疑いの目を向けてくる。
「頭にネコミミつけた10代前半に見える女の子がでかいミノタウロス引きずってたんだぞ」
魔族なんか見たことはないが、あれが魔族でなくてなんだというのだ。
「てことは、あの森にダンジョンができたのか……」
タンクのドマーニが気づく。
そうだ。魔族がいるってことは、あの森はダンジョンになったのだろう。魔獣が出る場所はだんだんと魔獣が増え、終いにはとても人が入れないような地獄になってしまうらしい。そうなる前に魔族がやってくることがある。魔族がやってくると、その場所はダンジョンとなり、魔獣は減り、魔族が住む場所になるらしい。
「どでかいお宝ができたってわけだ。俺達にもツキが回ってきたな」
ダットンがニヤリとする。
ダンジョンになるとその場所のどこかにダンジョンコアと呼ばれるでかい魔石ができるらしい。そして、そりゃぁもう高く売れるんだとか。俺達4人で分けても余裕で王都に屋敷が立つくらいの儲けにはなるだろう。
そうなりゃ、奴隷買ってハーレムだな。くぅ~夢が広がる!
「でも、魔族がいるんでしょ。しかも獣人。どうすんのよ」
「いや、ダンジョンコアを獲ってこなくても、情報だけで十分な報酬得られるって聞いたぞ」
パーティ内でも意見が割れ、皆が好き勝手に言いたいことを言う。
だが、みるからにみんな目の前の金に浮足立っている。もちろん俺もだ。
「まぁとりあえずは町まで戻ってゆっくり考えようや」
最終的にはリーダーのダットンの一声で帰還が決まる。
俺達に魔導車なんて使う金はない。森を抜けたあとも、町との行き来は徒歩だ。セレンの町まで1日はかかる。
明けて翌日、俺達はギルド併設の酒場で、これからどうするかを話し合う。
「思ったんだけどよ。ほんとにダンジョンできてんのかな?」
「あ?俺の言うことが信じられないっていうのかよ?」
ドマーニがいちゃもんつけてきやがった。
「いや、そうじゃない。俺達がギルドに報告したとしても、信じてもらえないんじゃねーかって話だ。なにせ見たのはルイーズ、お前だけで、しかも獣人らしき女の子がミノタウロス引っ張ってたってだけだろ?ダンジョンができてるとは限らねーんじゃねーか?」
「確かにね。今ある情報だけだと、きっちり報酬もらえるか怪しいわね」
ふむ。まぁ確かにな。あの獣人が他の魔獣引き連れてるとこ見たわけじゃないしな。
ん?
「なぁもしかして、あのダンジョン、ほんとにできたばっかなんじゃねーかな?」
いや、きっとそうに違いない。
「だってよ。魔族が自分で狩りするか?自分で獲物を運ぶなんてするか?そんなもん配下にやらせりゃいいじゃねーか。だからよ。あのダンジョンはきっと獣人が創ったばかりで、まだ配下もロクにいねぇんじゃねぇかな?」
みな、俺の言葉に考え込む。
「確かに、ダンジョンはできたばっかはロクな守りもなくて、楽勝だって話は聞いたことあるな」
「だろ!」
「言いたいことは分かる。情報提供なんてチャチなもん狙うんじゃなくて、ダンジョンコア獲っちまおうってことだろ?だが、ガキっぽい見た目だったとしても相手は獣人。俺達の手にはあまる」
ドマーニのやつは慎重だな。だがな、俺にはまだ策がある。
「これを見てくれ」
俺は昨日、使った魔道具を取り出す。
「これは……お前まさか!?」
「魔族に会ったとき、背中にマーカーをつけてやった。これでヤツの居場所はバッチシよ」
この魔道具は本来、手負いの獲物が逃げても追跡できるようにするための魔道具だ。とっさにこれを使った自分を褒めてやりたい。
「でかした!!」
ダットンが俺の背中をバシバシと叩く。正直、かなり痛い。この馬鹿力が!
「これでヤツを追って、ダンジョンコアの場所を調べる。で、ヤツが離れたスキにダンジョンコアだけいただけばいい。これがあれば戻ってきてもわかる。ヤツと戦う必要なんてねぇ」
これで俺達も冒険者なんざ引退して、ハーレム生活だ。
その後、俺達は前祝いだと、飲めや歌えのどんちゃん騒ぎをした。ギルドの受付嬢は俺達が万年金欠なのを知ってるから、いぶかしんでたが、知ったこっちゃねぇ。ダンジョンコア獲ったら、こんなしけた町はおさらばだ。
次の日、俺達は全員二日酔いでベッドから抜け出せなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます