第12話 愛されるのもつらい

「ヘッジ、すっごい喜んでたね~」


 ダンジョン拡張兼ミミズ堀りに勤しんでいたヘッジだが、無事ミミズは見つけられたようだった。


「(うっほ~ミミズうめ~)」


 だそうだ。ついでにミミズやらカエルだけじゃなく、木の実なども食べるようだ。アププをあげてみたところ、


「(これもなかなかイケるっす)」


 と言っていた。ミミズには劣るようだが……


 ダンジョン拡張も順調だ。やはりスキル持ちなだけはある。10日もあれば、いまダンジョンコアのある部屋と同じくらい掘り進められるんじゃなかろうか?


「で、これはどこに向かってるの?」


「着けば分かるよ」


 いま、俺はティナとともに森の中を歩いている。

 この5日間通い詰めたが、今日こそは成功させてみせる!


「さ、そろそろのはずだ」


 この時間、やつらはだいたいこの辺りで昼寝をしているはずだ。


「いたぞ」


「えっ!まさか今日の用事ってあれ?」


 いたのは3匹のゴブリンだ。


「狩るの?」


「そうじゃないよ。お~い、起きてくれ」


 俺はのんきに昼寝していたゴブリン達に向かって声をかける。ここまで近づいても起きないとか……よくこれまで生き残ってこれたな。


「ゴブ?ゴブゴブ!」


 俺を見て、騒ぎ始めるゴブリン。あまり歓迎されていない。

 まぁこれまでもそうだったからな。だが、今日は一味違うぞ。


「ほれ、ティナ」


「えっ?」


 ティナを前に押し出す。


「ゴブーーー!ゴブゴブゴブーーーー!」


 ゴブリン、大興奮。

 やっぱりな。


「え……なにこれ?」


「お前は覚えてないかもしれないが、一度会ってるんだぞ」


 このゴブリン達はティナがこの森に来た際に襲っていたゴブリンだ。

 実はこの5日間、俺はこのゴブリン達と会って話を進めていたのだ。


「話ってなんの話?」


「俺の配下にならないかって話」


「はぁ?」


 ティナがまた怪訝そうな目で見てくる。


「だって、ダンジョンコアのスキルを使って創るよりも安上がりじゃないか」


 昨日、ヘッジを創ったことで、Dランクの魔族を創るには魔力を100消費することが分かっている。やはり、魔族を創るにはそれなりの魔力を要するようだ。ゴブリンはEランクなので、もう少し安いとは思うが、節約するに越したことはない。


「野良魔獣を配下に加えるなんて聞いたことないわよ」


「そりゃそうだろ。なんせ」


 話が通じない!


 この5日間、本当に大変だった。俺は一度、ゴブリン達に魔法を放ってるからな。こっちから会いに行ったときはもう完全に敵認定だ。怒り狂って、こっちに石投げてきやがった。

 説得しようとするも、こっちの言葉は向こうに通じないし、向こうが何言ってるかも分からない。ゴブゴブ言ってるだけだ。なんとか身振り手振りで敵意がないことを示し、ミノタウロスの肉を分けてやったりして、コミュニケーションをとってきた。

 ……とれてたかどうかは怪しいがな、コミュニケーション。


 そんな中で、俺は感じた。こいつら、ティナを探してやがる、と。俺が来ると常に周りを見回して、そして落ち込んでいたのだ。もしかしたら、ゴブリン達はティナに一目惚れしたのかもしれない。


「というわけで、お前を連れてきたわけだ」


「なにそれ……私はゴブリンなんてイヤよ!」


 ゴブリン達がガーンといった表情をして落ち込んでいる。

 ……言葉通じてないはずなんだけどなぁ。まぁ、ティナのあの冷たい目を見れば、なんとなく分かるか。


「まぁまぁそう言わずに。一回くらいデートしてやったらいいじゃないか」


 後ろでゴブリン達が「そうだそうだ」と言っている……気がする。


「いーっや!というか、そんなことしたからってゴブリン達が配下になるかなんて分かんないじゃない」


 まぁそうなんだよな。別に話して交渉できたわけじゃないからな。

 ちょっとした冗談だ。


 だが、ここでもうひとつの秘策だ。


「そこで、役立つのが《交信》だ!」


「あ、なるほど!って、《交信》は配下になった後じゃないと使えないでしょ」


「そこはこうする。ゴブリンよ」


「ゴブッ?」


 ゴブリンの1匹を俺は呼び寄せる。


「お前にはこれをやろう」


 そして、懐から1枚の服と取り出し、そのゴブリンに差し出す。


「これが何か、お前なら分かるはずだ」


「ゴブッ?……ゴブーーー!」


 服の匂いを嗅いだゴブリン、大喜び。そうだろそうだろ。

 ん?てか、いまさら気づいたが、この服、妙な魔力があるな……。


「ちょっと待って!それ、昨日破れた私の服じゃない!?」


「ただし、条件がある!これから俺が触れてもしばらく大人しくしてなさい」


「ゴブッ!」


 伝わった!種族を超えた奇跡がいまここに起きた!


「無視しないで!それ私のよ!!」


 俺はゴブリンに触れ、深緑の森のダンジョンの配下として登録する。ちょっと不安だったが、無事ゴブリンは大人しくしていてくれた。


「さぁこれで俺の言葉が伝わるはずだ。どうだ?」


「(ことば、わかる)」


 よし!といっても交渉はこれからが本番だ。配下の登録は本人の意志ひとつで離脱できてしまう。配下でいることを了承してもらわなければならない。


「(ちょうだい)」


「ん?あぁそうだな。約束は守らなきゃな、ほら」


 俺は破れた服をゴブリンに渡してやる。


「ゴブブブー!」


《交信》がなくても分かる。「とったどー」だ。

 ゴブリン大はしゃぎ。その後ろで仲間であろう2匹のゴブリンが羨ましそうに見ている。


「返しなさいっ!」


「ゴブゥ!?」


 ティナがゴブリンから服を取り上げる。

 ……まぁそうなるわな。

 ゴブリンが助けてくれと言わんばかりにこちらを見てくる。


「すまない……お前が奪われたものまで俺は責任を持てない」


「いや、奪ったって人聞きの悪いわね……取り返しただけじゃない」


「だが、そんなお前たちにも救いはある!俺達とともにダンジョンを人間達から守るのだ!そうすれば、このティナとお前たちは仲間だ。どうだ、ティナと仲間になりたくないか?」


「ゴブゴブ!(なりたいなりたい!)」


 後ろのゴブリン達も含め、皆目を輝かせている。どうやら、配下に加えたゴブリンが通訳しているようだ。


「よし、ならばお前たちは今から仲間だ。これから一緒に頑張ろう!」


「「「ゴブーー!(やったーー!)」」」


 完璧だ!


「魔力消費なしで3匹のゴブリンをゲット。しかも、うち2匹は魔力補給も不要でほぼ配下と同様に扱えるってわけね……」


 ティナが呆れまじりに感心している。

 そのとおりだ。ここまでうまくいくとは思ってなかったが、魔力の補給があるので、できれば全員を配下にするのではなく、ボス的なやつのみを配下にし、そいつを頂点として、野良魔獣をまとめ上げてもらいたいと思っていたのだ。


「よし、お前たちには、今から向かう洞穴で土運びをお願いしたい。ヘッジが掘った後の土を入り口付近まで運ぶんだ」


「「「ゴブブ~~~(え~~~)」」」


 コイツラの嫌そうな顔を見れば、これも《交信》なしでも意味は分かる。


「終わったら、肉を食わせてやるぞ」


「「「ゴブ!(やる!)」」」


 うむ。現金なやつらだ。

 これでダンジョンの拡張も進むだろう。


【ゴブタロウ】

 種族:ゴブリン

 所属:深緑のダンジョン

 ランク:E

 レベル:5

 スキル:騒ぐ

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