第11話 エサを求めて

「ヘッジ、これからよろしくな」


「よろしくね!」


「(こちらこそ、よろしくっす!)」


「さて、まずヘッジにお願いしたいのはこれだ」


 俺は、ダンジョンコアへの部屋の入り口付近に積み上げられた土の塊を指差す。


「いま、ダンジョンコアは朝だけ使い、その他の時間帯はここを埋めて入り口を隠している。ヘッジには、ここを埋めて、また朝には掘り出して……というのを毎日お願いしたい。」


 これで俺が毎朝の重労働から開放される!


「……」


「どうした?お前、得意だってさっき言ってたよな?」


「(アニキ、オレっち、穴掘るのは得意なんすけど、埋めるのは苦手なんすよ……)」


 おぉぅ……


「(朝、掘り出す方はもちろんオッケーっすけど……)」


 まじか……

 崩れ落ちる、俺。ぬか喜びか……。


「ま、半分は任せられるんだから、いいじゃない」


 確かにそうだが……いや、ないものねだりしても仕方ない。


「わかった。掘り起こすのだけ頼むよ」


「(任せてくださいっす!)」


「とりあえずはメシにでもしようか。ん?そういえば、ヘッジは何を食べるんだ?」


「(オレっちはミミズとかがいいすね!」


「「え……」」


「(踊り食いでちゅるちゅるーっとできたら最高っすね!)」


「ひぃぃーーーーかわいくない!!」


 ティナが耳を塞いでイヤイヤしている。

 確かに、ミミズの踊り食いは俺もちょっと見たくないな……。


「他のものはどうだ?」


「(え……ダメすか?あとはカエルとかもいいっすね!ちなみにオレっちは頭から食べる派っす)」


 いや、そんな好みは聞いてない……

 ほら、ティナなんてドン引きしてるぞ。


「……よし、ここは自然豊かな森の中だ。穴掘ったらミミズくらいいくらでも出てくるだろ。好きなだけ食え!」


「(マジっすか!あざーーっす!)」


 さっそく穴を掘り始めようとするヘッジ。


「いや、ちょっと待て。どうせ掘るなら、こっちを頼む」


 俺は、ヘッジを抱きかかえ、洞穴の一番奥に連れて行く。


「(了解っす!じゃ、行ってきまーす)」


 ティナが首をかしげながら、ちょっと嫌そうな顔をして言う。


「どうせなら、外の方が色々いるんじゃないの?地面の中なら野良魔獣もいなそうだし……」


「いや、ヘッジに頼みたかったのは、ダンジョンコアへの入り口の件だけじゃない。ダンジョンの拡張もお願いしようと思ってな」


 ダンジョンの拡張は必須だ。人間に攻めてこられない前提であれば、もちろん今のままでも構わないが、いつまでもバレないということもないだろう。そのままにしとくわけにもいかない。なんせいまのダンジョンコアはほぼ野ざらし。いくらなんでももうちょっと隠す必要があるだろう。


「えっカイン兄、ついにダンジョン強化する気になったの!?」


 嬉しそうにティナが言う。


「魔力は使わないけどな」


「え?」


「ヘッジに穴掘ってもらえば、ダンジョンの拡張はできるじゃないか」


 そう。ダンジョンの拡張だけなら、ダンジョンコアのスキルを使う必要なんてないと思うのだ。とりあえず、穴掘ればいいんだから。ダンジョンコアの移動は、さすがにスキルを使わずにはできないが、この洞穴を広げていくだけならばヘッジのスキルでも全く問題ない。

 まぁちょ~っと時間はかかりそうだが。


 ティナは呆れている。ふぅっと息を吐くと、


「相変わらずめちゃくちゃね。まぁ、ヘッジも喜んでやるみたいだからいいけどね」


「だろ?」


 これぞWin-Win。ヘッジには大いにミミズ探しに精を出してもらうとしよう。


「でもさ、私知らなかったんだけど、低ランクの魔族でもけっこー知恵があるのね」


 それは俺も感じた。言葉が通じないから、どの程度のものか、これまで知りようがなかったということもあるが。


 ちなみに魔獣も魔族の一種だ。というより実際は何も変わらない。低ランクで言葉を話せないような魔族が魔獣と呼ばれることが多いというだけだ。人間たちはダンジョンマスターのことを特に魔族と呼び、他はすべて魔獣としているやつらもいるようだ。

 あと、ダンジョンに属していない魔族はダンジョンからの魔力の補給を受けられない。だから、その分、たくさん食べて、自然物中の魔力を摂取しなければならない。というより、食物から摂取する程度の魔力で済むような魔族だけが野良として生きていける。

 俺達のようにダンジョンから魔力の補給を受けている者も食事はするが、生きていくために必須というわけではない。嗜好品に近い。


 さて、今回のランクアップでやるべきことはおおむねこんなところだが、確認すべき重要なことがもう1つある。


「あとは、どれだけ魔力の引き出し量が増えてるかだな!」


 毎日使える魔力の量がこれで増えるはずなのだ。ヘッジを創ったこともあるので、多少は消費も増えているだろうが。


 ---


 翌日になって確認したところ、コアの魔力は2,290になっていた。ヘッジの創造に消費した魔力は100だから、昨日から1,390の魔力が増えたことになる。


「これで魔力の量についてはだいぶ見えてきたな」


 ・たぶんDランクの魔族の維持に必要な魔力は10

 ・たぶん1日に地脈から引き出せる魔力の量は貯留可能量の1割(つまり、Eランクのときは1,000、Dランクのいまは2,000の魔力を引き出せている)

 ・だとすると、俺とティナが1日に必要な魔力は合計600


 思ったより、ヘッジに要する毎日の魔力は少なかった。というより、俺とティナの魔力補給に必要な魔力が思ったより多かった。もちろん、推測であって、これも確定ではないわけだが……。


「これなら、そろそろ低ランクの魔族はもう少し抱えててもいいかもな」


 これまではコアの強化を最優先にするため、魔力の消費は極力抑えるようにしていた。だが、Dランクになり、使える魔力が増え、なにより思ったより低ランクの魔族は魔力消費が少ない。

 長期的には戦力の強化は必要になるのだ。維持にさほど魔力を要しないのであれば、魔族を早めに創造し、レベルアップさせておくことは悪いことではない。


「コアの強化だけじゃなく、なにかあったときのための貯蓄や新しい魔族のためにも魔力を割くかな」


 今回のランクアップは、ダンジョンコアに最初から溜まっていた魔力をすべて強化につぎ込んだおかげで、短期間で済んだ。だが、次のランクアップはいつになるか分からない。ある程度、時間がかかることも見据えて、魔力の運用を考えるべきだろう。人間にバレるのはまだ先になるとは思うが、備えは必要だ。


「それに《交信》があれば、蒔いてた種も一気に花を咲かせてくれるかもしれない」

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