第10話 親方

「やっぱり、スノーウルフじゃない!?」


 ティナが目を輝かせて、提案してくる。


「あのキレーな白い毛並みにふわふわの尻尾!抱きしめて寝たら、絶対気持ちいいよ!」


「いや、欲しいのはベッドや抱き枕じゃないぞ」


 だいたい、猫は犬と仲良くできるのか?狼は厳密には犬じゃないからいいのか?


「あ、一角ウサギもいいかな?あの愛くるしい目!飽きることなくずっと見てられるわ!」


「いや、働けよ……。というか、創る魔族はペットじゃないからな」


「じゃぁ、カイン兄は何がいいのよ?」


 いまにもブーイングするかのように、口をとがらせ、ティナが言う。


「そうだな、ブラッディースパイダーなんかいいんじゃないか?蜘蛛の糸でトラップなんかも作れそうだ。あー、ゴースト系もいいな。野営している冒険者に襲撃をかけるにはもってこいだろ」


「え~可愛くない~。なんでそんな実用的なのばっかなのよ」


「実用的でなくてどうするんだよ……」


 とはいえ、ちょっと気になってることもある。


「まずはちょっと実験だ」


 俺は紅く大きな体躯に翼を持ち、比類ない強さを持つ魔族をイメージする。


「いでよ、ファイアドラゴン《魔族創造》」


「え……え!ちょっとまってよ!」


 ティナが驚き、逃げ出……そうとして、つまづく。相当に焦ったらしい。

 だが……


(しーん……)


「なによ、何も起きないじゃない」


「まぁそうだよな」


『《魔族創造》のレベルが足りていません』


 スキルの名称では、《魔族創造》には後ろに数字がついている。ダンジョンコアのランクが上がった際に、ⅠからⅡへと上がったので、もしかしたらと思っていたが……


「ダンジョンコアのランク相応の魔族しか創れないってことなんだろうな」


 それに、そもそも高ランクの魔族を生み出すのに必要な魔力が数百で済むとも思えない。魔力も足りなかっただろう。


「ちょっと!びっくりさせないでよ!潰されるかと思ったじゃない!」


 そりゃそうだ。こんな洞穴の中でファイアドラゴンなんてでてきたら、窮屈でしょうがない。

 そうか。それを考えると、ダンジョンコアは広いところに置いておかないと巨大な魔族は創れないな。《魔族創造》は《交信》と違って、コアに触れてないと使えないみたいだし……


「コアのランク相応ってことは、今はDランクの魔族までしか創れないってこと?」


「たぶんな」


「じゃ、一角ウサギはいけるじゃない♪」


 そりゃ、一角ウサギのランクはEだからな。


「魔力は常に足りてないんだ。無駄遣いはできないぞ」


「……もし、ファイアドラゴンが創れちゃってたら、どうしてたよの……」


「さ、改めて新しい仲間を迎えようか」


「ちょっとなに目逸らしてるのよ!まさか後先考えてなかったわけじゃないわよね!」


 後ろがなにやらうるさいが、無視だ!


 実はここ数日で欲しい魔族は決めていた。

 それはもう切実に求めていた。

 もう朝起きるのが億劫でしょうがないのだ!


「いくぞ!《魔族創造》 ディグホッグ」


 ダンジョンコアより、光の粒が湧き出てくる。その粒は地面付近で塊になったかと思うと生物を象る。

 光が薄れていくとそこには1体の魔族が現れる。


「キュキュキューーー!」


「きゃーーー!なにこれ、かわいーーー!!!」


 ティナが目をキラキラとさせて、現れた魔族に突撃する。

 現れた魔族はティナの膝丈にも満たない大きさでネズミのような体型をしながら、手・爪は大きい。背中には茶色い毛が生えているが、刺さりそうなほど鋭い。そのつぶらな瞳は確かに可愛らしい。


【ヘッジ】

 種族:ディグホッグ

 所属:深緑のダンジョン

 ランク:D

 レベル:1

 スキル:掘削


「ディグホッグのヘッジだ。戦闘能力はほとんどないが、穴掘りを得意としている」


「……」


 ティナがヘッジを抱きしめながら、こっちを冷ややかな目で見ている。


「もしかして、カイン兄、毎朝のダンジョンコアの掘り出しがイヤになったんじゃ……」


「いや、お前、あれがどれだけ大変か分かるか?魔法でやりゃすぐだが、魔力は温存したいし、インテリ系の俺が毎朝土木作業するの、ほんと大変なんだぞ!」


 おかげで毎日筋肉痛だ。このままではムキムキのマッチョになってしまう。


「いいじゃない。細マッチョ、かっこいいよ!だいたい、こんなかわいい子になにやらすのよ」


「(いや、全然オッケーすよ。むしろ穴掘りたいっす)」


「「ん!?」」


「(てか、大丈夫っすか?オレっち、さっきびっくりしちまったから、背中の毛逆立てちまったんすけど……)」


「え、あ~服がボロボロになってる~~~」


 ティナがヘッジを下ろして、自分の服を確認している。確かに穴だらけになっている。


「(すまねぇっす……)」


 いや、待て。そんなことはどうでもいい。


「お前、喋れるのか?」


「(え?いやむしろ、親方たち、ディグ語うまいっすね。言葉通じるんで助かりましたわ~)」


「いやいやいや」


「親方……プフゥー」


 ティナが笑いこけている。誰が親方だ……


「……とりあえず、親方はやめような」


「(じゃ、棟梁?)」


「棟梁!アッーハッハッハ、やめてーー!お腹痛いー!」


 ティナが腹を抱えて笑っている。失礼な。


「それもなしで」


「いいじゃない、棟梁!カイン兄にぴったりよ!」


 こっち指差して笑いながら言うんじゃない!


「(じゃ……アニキっすね!)」


「……まぁそんなところか。いやまて、大事なのはそこじゃない。おい、ティナ。お前はディグ語が分かるのか?」


「そ……そんなわけないじゃない。聞いたこともないわよ……」


 涙目でまだ笑ってやがる……。

 だがまぁそうだよな。俺もディグ語なんて知らん。


「ヘッジ、お前は共通語が分かるのか?」


「(いえ、オレっちが分かるのはディグ語だけっすけど……)」


 となると、これは……


「もしかして、《交信》か?」


「「え?(え?)」」


「《交信》は魔族同士の意思疎通を可能とするものだ。言語が異なるもの同士であっても、会話が成立するとしてもおかしくない。特に意識しなくても、《交信》の効果が発揮されたんだろう」


「……それ、スゴくない?」


「あぁ、スゴいな。パない」


 確かにダンジョンは低ランクの魔獣を創り出すことも当然ある。そうなれば、共通語を話せないような魔族もいるわけで、その意思疎通手段は必須ともいえるが……


「便利すぎるだろ《交信》……」


 予想のはるか上をいく性能だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る