第9話 初めてのランクアップ

「きたーーーーー!!!」


「な、なにごと!?」


 ティナが慌てて洞穴に入ってくる。


「ついにダンジョンコアがランクアップしたぞ!」


【深緑のダンジョン】

 管理者:カイン

 ランク:D

 魔力:1,000/20,000

 スキル:迷宮創造Ⅱ、魔族創造Ⅱ、魔族強化(NEW)、交信Ⅰ(NEW)、魔力調整


「やったね!カイン兄!」


「あぁ!思ったより早かったな」


 ダンジョンを創って5日目。今朝の強化でダンジョンコアがDランクになった。

 俺は新しく使えるようになった2つのスキルを確認する。


《魔族強化》

 コアの魔力を使い、配下の魔族をレベルアップさせる。


《交信Ⅰ》

 ダンジョン内の登録された魔族同士の遠隔の意思疎通を可能とする。


 地味ではあるが、どちらも有用そうなスキルだ。さっそく使ってみよう。

 まずは《魔族強化》だ。どの程度の魔力を使うのか、不安ではあるが……。


「ティナ、新しく得たスキル《魔族強化》を試してみるから、こっちに来い」


「アタシを強くしてくれるの!?」


 俺はティナの強化をイメージしながらスキルを使う。


「《魔族強化》」


『ティナをレベルアップするには4,913の魔力が必要です』


 ティナがワクワクした目でこちらを見ている。


「全然ダメだな……」


「なんでよーーー!」


「あと4,913の魔力が必要だってさ。お前、全然訓練とかしてないんじゃないか?」


「そんなことないもん。最近毎日森の調査で走り回ってるし、こないだも(ミノタウロス倒しちゃって)レベルあがって、16になったよ」


「ん?今のレベルは16なのか。……あ~そういうことか」


 必要とされる魔力は次のレベルにどれだけ近づいているかは関係ないのかもしれない。


「たぶん、次のレベルの値の3乗の魔力が必要になるんだな」


「3乗……」


「そう。17×17×17で4,913だからな。そういうことなら、創ったばかりの魔族の底上げには便利だな」


 レベル1の魔族をレベル5まで上げたとしても、必要な魔力は224で済む。


「今、初めてカイン兄のことをスゴいと思った……」


 失礼な。インテリ系魔族だって言ってるだろうに。


「というわけで、ティナのレベルになってくると、このスキルを使ってレベル上げは厳しいな。コアランクが上がってくればまた別かもしれないが」


「あっそ。期待して損したわ~」


 ティナがいじけたフリをする。

 さて、ランクアップして得たスキルはまだある。


「ティナ、ちょっと洞穴の入り口あたりまで行って、耳をふさいでくれ」


「??? わかったけど……」


 俺はダンジョンコアに手を当て、ティナとの会話をイメージする。


《交信》


「あ~あ~ティナ聞こえるか?」


「えっ!?」


 洞穴の入り口にいるティナがこっちを振り向く。


「なんで!?すぐそばで話しかけられたような気がしたけど……」


「これがもう一つの新しく手に入ったスキルだ。ダンジョンを拡張したときには、離れた位置の配下にノータイムで指示を出せるってのはかなり有効だな」


「確かに便利だね~。なんか困ったことがあったら、カイン兄呼べるしね。初日にあったら、ミノタウロス運んでもらったのに」


「いや、お前それは無理だろ……」


「えっなんで?」


「なんでって、ダンジョンの外じゃ、これは使えないんだよ。しかもコアに触れてないとスキルは使えないから、俺が《交信》を始めない限り、会話はできないだろ」


「あ~そうなの。意外と不便だね」


 ……いや、そうとも限らないか?


「ティナ、ちょっと洞穴の外に出てくれないか?」


「は~い」


 俺は、ダンジョンコアから離れ、再度ティナとの《交信》を試みる。


「ティナ、聞こえるか?」


「聞こえるよ~」


「やっぱりか」


「え?何が?」


 このスキル、ダンジョンコアに触れていなくても使えるようだ。よく考えてみれば、そりゃそうだ。《交信》が必要になるようなタイミングでコアに触れられるとは限らない。コアに触れてないと使えないというのはちょっと不便すぎる。


 それに……


「何がって、お前、この可能性を何も感じないのか?洞穴から出てるだろ?」


 そう、ダンジョン内の魔族としか会話できないはずなのに、洞穴の外にいるティナと《交信》が成立している。


「え?だって、この洞穴前の広場までがダンジョンなんじゃないの?ここが入り口でしょ?」


 なるほど。そーゆー考えもあったか……。むしろ、ダンジョン=洞穴の中と思っていた俺の頭が固かったのか。


「これは、ダンジョンの認識を改める必要があるな。というか、『深緑のダンジョン』なんて名前になってるくらいだ。下手したら、この森全部、ダンジョンの範囲内なんじゃないか?」


 結論から言うと、残念ながらそんなことはなかった。

《交信》を使って会話しながら、ティナに森の外へ向かって歩いてもらったら、洞穴から歩いて3時間くらいのところで《交信》が切れた。だが、森全部ではないとはいえ、かなりの広さだ。


「結局、ミノタウロスを運んでもらうのは無理だったってことね」


 戻ってきたティナがぼやく。


「こだわるな……まぁ確かにそうだな。だが、もうひとつ確認したいことがある」


 このスキルは魔族同士の意思疎通を行うものだ。もしかすると……


「ティナ、俺と会話したいと願いながら、《交信》と念じてみろ」


「えっと……こんな感じ?《交信》 これ、何の呪文?」


「やっぱりな」


「え!?今の聞こえ方って!」


「そう、《交信》のスキルだ。このスキルは俺以外の魔族でも、このダンジョンに登録していれば、誰でも使うことができるみたいだな」


 これはスゴい。

 ティナに偵察に行ってもらって、すぐにその報告を聞いたり、それに基づいた修正指示を出せたりするわけだ。

 今は配下の魔族が少ないから、活躍する機会は少ないが、配下が多くなるほど、コミュニケーションは重要になる。距離・時間を無視して会話できるこのスキルは間違いなく、役に立つ。


 ダンジョンコアのEランクとDランク、まるで違うな。


「しかも、魔力も増えるんでしょ?」


 そのとおりだ。今まで一日に400しか使える魔力が増えなかったが、その量が増えるはずだ。貯留量が2倍に増えたわけだから、もしかしたら引き出す魔力の量も2倍になるのかもしれない。


「これは明日になるのが楽しみだな」


 残念ながら、どれだけの魔力が増えるのかは今すぐには分からない。


「よし、調子に乗って、新しい仲間も創るか!」


「おぉついに仲間が増えるのね!」


 ティナが来たせいで、使う機会がなかった《魔族創造》のスキルの初公開だ。

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