第7話 貧乏暮らし
「どっせ~~い」
(ガラガラガラ……)
「ふぅ、朝からいい運動してるぜ」
「もう、インテリ系は廃業して、土木系魔族を名乗った方がいいんじゃない?」
洞穴の壁を壊し、ダンジョンコアのある部屋への道を開ける。なにか呟くティナは放っておいて、ダンジョンコアに触れる。
【深緑のダンジョン】
管理者:カイン
ランク:E
魔力:1,400/10,000
スキル:迷宮創造Ⅰ、魔族創造Ⅰ、魔力調整
ふむ。昨日、コアの強化をした時点で、魔力の残りは1,000だった。1日あたり400増えるということか。
「ねぇねぇ魔力、どれくらい増えてた?」
ワクワクした様子で聞いてくる。
「増えた分は400だな」
「え……そんなけ?」
ガーンといった様子のティナ。まぁ気持ちは分かる。
「コアを強化したといっても、ランクが上がったわけじゃない。俺とお前の補給もあるし、こんなもんじゃないか?」
ティナがジト目でこちらを見てくる。
「それ、カイン兄の補給で消費される魔力が多いんじゃないの?」
「いやいやいや」
というか、俺、このダンジョンのマスターだからな。文句つけられる筋合いはないんだが……。
「むしろ、想定外にAランクの誰かさんが飛び込んできたからじゃないか?」
「うっ……」
しかし、思った以上に渋いな、これ。最初にある魔力を魔族の創造に使ってたら、魔族の魔力補給分だけですぐに赤字になるんじゃないか?
「そもそも、ランク上げないと戦力の強化なんて無理だな」
「魔族じゃなくてダンジョンの強化なら大丈夫だと思うけどね」
確かに、迷宮を創るとか罠を増やすとかなら、維持に魔力を使うことは基本的にはないだろう。
「まぁそれはそれとして、その魔力はどうするの?」
「それはもちろん、こうする。《グロウアップ》」
【深緑のダンジョン】
管理者:カイン
ランク:E
魔力:1,000/10,000
スキル:迷宮創造Ⅰ、魔族創造Ⅰ、魔力調整
「うわっほんとにやっちゃったの?」
「もちろん。増えた分は全部強化につぎ込んだ
昨日のうちにティナには魔力の使い方も説明してある。
何かあったときのために一応1,000だけ残し、最初のうちは極力強化にダンジョンコアの魔力を使うつもりだ。
ダンジョンコアはランクが上がれば、それだけ多くの魔力を引き出すことができる。つまり、どのみちランクを上げるなら、できるだけ早いうちの方がいいわけだ。最初のうちは強化にガンガン魔力をつぎ込んで、人間にバレそうになったら、防衛のための戦力を整えるというのが高効率だ。
「ランクってどのくらいで上がるのかしら?」
「さぁな?ただ、人間にバレる前にできれば2つ、最低でも1つは上げておきたいな」
この強化期間は引き際が重要だ。強化を辞めたからといって、すぐに魔力が貯まるわけでもないからな。
「さて、今日こそはきっちり働いてもらうからな!」
「うっ……昨日のことは反省してるってば。今となっては確かにカイン兄の戦略に乗るのが良さそうってのはアタシでも分かるし」
「そうだろそうだろ」
「いや、魔力が残ってたら、ダンジョンの強化をぜひとも勧めたいんだけどね?どっちかというと、『仕方なく』だからね?」
まだ、コイツは俺の戦略を信じてないのか……。
まぁいい。今に分かるさ。
「じゃ、行ってくるけど、カイン兄はどうするの?」
「俺は俺でやることがある。日没前には戻ってこい」
「は~い」
そう言ってティナは音もなく森の中へと消える。
「さて、まずは……」
俺はダンジョンコアのある部屋に向かう。
「埋めるか……」
昨日から土木作業ばっかだな……。
---
「この森、広すぎじゃない!?」
日はとっくに沈み、待ちきれなくなって、昨日のミノタウロスの肉の残りを焼き始めたところで、ティナが帰ってきた。
「遅かったな。なんかあったか?」
「今日は森の外周回ってみようと思ったんだけど、全然無理!一応、奥の方までは行ってみたけど、日帰りじゃ山の麓にもたどり着かなかったわよ!」
そうか。ティナの足でも往復に1日以上かかるのか。
ティナはこちらに歩み寄ってきて、椅子にだらんと座る。
「人間がどんなもんか知らないけど、魔獣にも警戒しながら歩いたんじゃ、片道数日かかるわよ」
森の北側がそんなものか。おそらく、俺が入ってきた南側も同じようなものだろう。このあたりはちょうど森の真ん中くらいなんだろうな。
「それで魔獣の分布は?」
「まだ、全然回りきれてないけど、C~Eランクね。Bランクは見なかったけど、森の奥の方の雰囲気からすると居てもおかしくなさそう。割合は2:3:5ってとこ。」
「そりゃ、結構だな。ここの魔力溜まり、実は天変地異も間近だったんじゃないか?」
一般的に自然に存在する魔獣としてはBランクが最高と言われている。Aランク以上は何か突拍子もないことが起きない限り、自然に発生したりはしない。
「すごいよね。でも、森の奥の方が高ランクの魔獣が多かったように感じたから、南側の方はそこまでじゃないんじゃないかしら?人間はそっちの方で狩りをしてるのかもね」
おそらくそうだろう。
「じゃ、人間は見かけなかったか?」
「今日のところはね。ここより奥しか行ってないしね。」
思った以上にこの森は防衛に向いてるかもしれないな。
「明日は、南側の方を頼む」
「そのつもりよ。人間にはちゃんと注意するから安心して。ところで……」
ティナが怪訝な顔をしながら、目の前を指差す。
「これ、なに?」
「椅子と机だ」
「いや、そうじゃなくて!どっから出てきたのって聞いてるの!」
最初っから座ってたくせにいまさらだな。
「違うぞ。ダンジョンコアの魔力を使ったわけじゃない。ちゃんと自作したものだ」
「……」
ティナの口を開けたままにしている。
ミノタウロスの肉が欲しいのかな?
「肉はまだ焼けてないぞ」
「呆れてるのよ!なんで悠長にDIYしてんのよ!他にやることあるでしょ!」
「人を遊んでるだけみたいに言うな。それに……必要だろ」
「確かにあった方が便利だけど!」
その後もティナはギャ―ギャー騒いでいた。
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