第6話 無敵のダンジョン
俺は魔力をほぼすべて、ダンジョンコアの強化に使ったあと、ティナに周辺の地理そして魔獣の分布についての情報収集を指示した。
ダンジョンの防衛において、これは非常に重要だ。今後の俺達の命運を左右するといっていい。
「さて、次はっと」
ティナが出ていくのを見送り、俺はダンジョンコアのある洞穴の周辺を見て回り、適当な長さの枝を拾い上げる。
「これでいいかな~」
カインは木の棒を装備した。
ちょっと考えてから、手持ちのナイフで先端を削ってみた。
カインは木の槍を装備した。
「ホントは魔法でやりたいところだけど、魔力は温存しなきゃならないからな」
魔力は無駄にはできない。節約大事!
「ティナが帰ってくるまでには終わらせときたいところだな」
そういって、俺はダンジョン防衛のための作戦準備にかかる。
---
「思った以上に時間かかったな……」
とっくに日も暮れたところで、俺の作業がひとまず終わる。
「そういや、ティナはまだ帰ってきてないのか……」
この森はかなり魔力溜まりが放置されていたようで、出現していた魔獣も強力なものが多い。
Aランクとはいえ、戦闘が本職じゃないティナでは勝てない相手もいるかもしれない。
「まぁスキルがあるし、魔力不足でもなければ、やられることはないだろうけど……」
少し不安にかられ、洞穴から出る。
すると遠くから、なにかを引きずるような音がする。
「グールか何かか……」
俺はすっかり先が丸くなった木の槍を構える。
すると、
「カイン兄ぃ~~~」
出てきたのは、牛を引きずる猫だった……
「なにやってんだ、お前……」
「今日の夕飯だよ!」
それなりに豊かな胸を張り、誇らしげに宣言する。
汗だくで、薄汚れた、その自称斥候役の姿は、肉体労働者を思わせる。
「いや、質問に答えろよ……」
「マッピングを始めてすぐにミノタウロスを見つけたの。ご飯にピッタリと思って仕留めたんだけど、ちょっと運ぶのに手間取っちゃった」
「……」
「どうしたの?」
どうやら、ティナを配下に加えたときに、「心強い」などと思った俺はバカだったらしい。
「お前、俺がなんと言ったのか聞いてなかったのか? 」
冷めた目で睨みつけると、ここになって、ようやくマズイと思い始めたらしい。
「俺は魔獣には手出しするなって言ったよな?」
「うっ……」
「それに、ミノタウロス見つけて運んできたってことは、頼んでたマッピングはほとんどやってないってことだよな?」
「はうっ!」
ティナはうなだれている。ちょっと可哀想かなとも思うが、さすがにこれは反省してもらわないと今後が困る。今、俺の指示を聞けないような配下はいらない。
「なんで魔獣を狩るなんてことになったんだ?」
非常に気まずそうにしながら、ポツポツとティナが答える。
「だって、魔力全部使っちゃったから、ダンジョンの強化、何もできないでしょ。だから、アタシが魔獣狩ってレベル上げでもしないと、守れないんじゃないかって思って……」
なんとか答えたティナは少し涙ぐんでいる。
「はぁ……これはちゃんと説明しなかった俺も悪いか」
「ごめんなさい……」
「反省してるならいいよ。不安にさせた俺も悪いしな。でも、今度からはちゃんと俺の言うことを聞いてくれよ」
でないと、冗談じゃなく、俺達はすぐに狩られてしまう。
俺は焚き火の方にティナを招く。
「まぁせっかく狩ってきてくれたことだし、とりあえずメシにしようか」
「うん!」
笑顔でティナはナイフを取り出し、解体にかかる。
……反省してるんだよな?
ミノタウロスの肉を食べて、一息ついたところで、俺はダンジョンの防衛策について話し始める。
「そもそもだ。俺は人間どもと戦う気なんてサラサラないんだよ」
「はい?」
ティナが怪訝な表情……というか、「何言ってんの?」とでも言いたそうな目でこちらを見てくる。
「もちろん、ダンジョンを守らないって意味じゃない。」
そう言って、俺は焚き火から火のついた木を1本持ち、ティナについてくるように言って、洞穴の方へ歩き出す。
「最初のうちなんて、ダンジョンの防衛はこれで十分なんだよ」
そう言って、俺は洞穴の中を即席松明で照らす。
「え……」
ティナが目を見開く。
「ダンジョンコアの部屋がない!」
そう。洞穴は行き止まりだ。
「埋めた」
「……」
「これが今日一日の俺の成果だ!」
思った以上に大変だった。何度途中で魔法を使ってしまおうと思ったことか……。さっき、手に持っていた先の丸まった木の槍は実に7本目だ。せめてスコップがあればな。
「インテリ系魔族が聞いて呆れるね……」
「いや、今日のお前には言われたくないわ」
「うっ……でも、人間は魔道具を使って、ダンジョンコアを探せるはずよ。こんなんじゃ、すぐ見つかっちゃうんじゃない?」
「いや、見つからないね。奴らの魔道具は世界中のダンジョンコアの正確な位置が分かるような、そんなとんでもないものじゃないはずだ」
「確かに、そんなものだと、とんでもなく魔石消費しそうだし……」
「そう。だから、ある程度近くで使って初めて、場所が分かるようなもののはずだ。つまり、『この辺りにダンジョンコアがあるはず』って事前に分かってないと、そもそも魔道具使って探そうってこと自体しないんだよ」
「……それはそうかもしれないけど」
俺の言うことを理解しながらも、まだ疑問に思っているようだ。
「でも、ダンジョンは初期のうちに見つかって、ダンジョンの戦力が整う前にやられるパターンが多いんでしょ。なんで見つかるのかな?」
そのとおりだ。そして、そこが俺の秘策のポイントだ。
「見つかるのは、ダンジョンコアが創り出された兆候を人間が嗅ぎ取るからだよ。人間は普段から、魔石を求めて、魔獣を狩っている。魔力溜まりができ始めると、徐々に魔獣が増え始める。けど、そんな場所でも魔獣が減り始めることがある」
「あ……」
「そう。ダンジョンができたときだ。ダンジョンができると自然に魔獣が発生することはなくなるし、なにより野良の魔獣は管理者にとっても邪魔者だ。少しずつ狩られていってしまうんだよ」
「そっか。普段、魔獣を狩ってる冒険者達が気づくんだ。『なぜか魔獣が減ってきたぞ』って」
「そういうことだ。人間達は魔獣が減ってきたことで、ダンジョンコアの存在を疑うわけだ。」
「それで、そのエリアで魔道具が使われて、ダンジョンコアの場所を探られてしまうのね。……あれ?でも、それって深緑のダンジョンも同じじゃない?ダンジョンコアがありそうだってなれば、魔道具使われて、こんな風にちょっと隠してても意味ないんじゃない?」
「そうだ。魔獣が自然に生まれなくなるのはこのダンジョンでも同じだ。」
「それじゃぁ……」
「だが、野良の魔獣を狩ることはしない」
確かに長い目で見れば、冒険者に狩られる分、魔獣は減るだろう。だが、この森は広大で、魔獣も豊富だ。肌感覚で魔獣が減ってきたと分かるには相当な時間がかかるだろう。
「だから、野良魔獣は狩ってはいけないし、魔獣の分布をアタシに調べさせたのね。どれくらい時間が稼げるか予測するために」
「そうだ。森の近くには町もないようだし、人間の冒険者の数もそう多くはないのだろう。こっちから野良魔獣を狩るようなことをしなければ、何ヶ月かは気づかれないはずだ」
「……そんなにうまくいくかしら」
ティナは有効性は理解しつつも、まだ、完全には納得できていないようだ。
「そもそも見つからなければ、ダンジョンに戦力なんて必要ない。人間に勝つわけじゃないが、やられることもない」
まだ村にいた頃、そして、この森で必死に考え続けた結論がこの作戦だ。
「これこそが俺の無敵のダンジョン作戦だ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます