第4話 はじめの一歩
ティナと一緒にアププの実をかじりながら、今後の方針を考える。まずは……
「まずはダンジョンの強化よね?」
「ん?」
「ダンジョンはできたばっかりでしょ?アタシも戦えるけど、戦闘職じゃないし、これから新しく創り出したとしても、みんなレベル1だから戦力にならないわ。だったら、守るにはダンジョン自体を強化するしかないよね?」
「そうだな。俺もどっちかというと戦闘系じゃなくてインテリ系だしな。なかなかよく考えてるじゃないか」
人間にいま攻めてこられたら、守りようがない。戦力強化は必須だが、ティナが言うように魔族に頼った方法は無理がある。創り出してすぐにレベルアップは無理だからな。
「カイン兄ほどじゃないけど、私だって勉強してたんだからね。半分以上のダンジョンが創って初期に潰されるって聞いたよ。大丈夫なの?」
そう。できたばかりのダンジョンは弱い。人間に狙われればひとたまりもない。
人間はダンジョンコアの有無を確認できる魔道具を持っているらしい。その魔道具が使われて、このダンジョンが見つかれば、当然人間は押し寄せてくる。ダンジョンを見つけた時、人間側の対応は大きく3つに分けられるらしい。
まず、ダンジョンコアを特大の魔石として獲ってしまうケース。ダンジョンコアは魔獣から得られる魔石とは格の違うものらしい。まぁそれはそうだろうと思うが、それをやられてしまうと、そのダンジョンに住む魔族は魔力の補給を受けられなくなってしまう。
2つ目がダンジョンマスターを討伐し、ダンジョンコアは放置するケース。ダンジョンコアは管理者がいなくなり、魔力が余ると、自動的に魔族を生成し始める。魔力溜まりと違って、天変地異が起きるようなことはないうえ、人間からすると、定期的に魔石を生み出してくれる、おいしいエリアになるようだ。
3つ目は放置するケース。稀ではあるが、ダンジョンコアが強化され、ランクが上がるまで手出しされないということもあるらしい。といっても、最終的には狙われるので、なにも嬉しい話ではない。
まぁとにかく人間にやられないように、ダンジョンを防衛しなきゃならないってことだ。
「まずは、ダンジョンを広げるでしょ?こんな洞穴じゃ、守りようがないわ。あとは罠かしらね?あ~そういえば魔力ってどれくらい使えるの?」
「ダンジョンを創った時点で10,000あって、この部屋を創るときに200使ったな。罠を創るのにどのくらいかかるかはやってみないと分からないな」
「じゃぁ……」
「そうだな」
俺は頷いて、ダンジョンコアに手を触れる。
「とりあえず簡単なのでいいか。《迷宮創造》」
ダンジョンコアの手前、洞穴入り口側の床が輝く。
「落とし穴?」
「そ。いまので消費魔力は50だな」
「う~ん、落とし穴なら200個近く創れるのね……って、何してるの!?」
俺は木のツタでティナをしっかりと縛り、その端を持つ。
「もちろん罠の確認を、と」
「……アタシ?」
「ダンジョンマスターに万一があったら困るだろ」
「……タダの落とし穴なのよね?下に槍がセットされてるなんてことないのよね?」
その後も、本当に安全なのかといくつも確認される。
……初めて罠創ったんだから、そんな細かいことまで分からんよ。まぁシンプルな落とし穴イメージしたから大丈夫なはずだけど。
少し涙目になりながら、ティナが部屋の入口に立つ。
「それじゃ、行くわよ!」
決死の覚悟、といった表情で、足を1歩踏み出す。
「いや、落とし穴がそんなにでかいわけないだろ」
まだ、ダンジョンコアとは随分距離がある。
「分かってるわよ!でも、落ちると分かってるのに進むのって怖いのよ!?」
それからはソロリソロリと足を踏み出す。
「……」
なんだろう。何か違和感がある……。
ゆっくりとダンジョンコアに向かって歩くティナ。
そして、とうとうそのままダンジョンコアにたどり着いた。
「「……え?」」
まさかの不発!?
「アタシが軽すぎて反応しなかったのかしら!?」
いや、スタイルがいいことは否定しないが、そんな罠、役に立たないぞ。
「慣れてないから、罠創りに失敗したのか……」
俺はティナに向かって、数歩歩く。
……すると、突然、地面が消えた。
「え……うぉぉお!?」
「なんで……って、キャーーー」
(ドシン)
「イテテ……」
「なんでツタを離さず持ってるの!」
巻き込まれたティナが俺の上で文句をたれる。
ふむ。気づかぬうちにティナも成長してたんだな。
背中に当たる、やわらかな感触に一息つく。
「ちょっとカイン兄どいてよ!」
いや、お前が乗っかってるんだろうが……
なんとか地表に上がってきた俺達は今起きた出来事の考察を始める。
「原始的な落とし穴ができるのかと思ったが、そうじゃないんだな」
這いつくばりながら、手を伸ばし、地面をつつく。
すると、直径2メトルほどの穴がさきほどとは別のところに現れた。
どうやら、ダンジョンコア手前一帯が罠エリアとなっていて、反応した場所に落とし穴がつくられるらしい。
「しかも、何度でも利用可能、と」
ただし、ダンジョンコアの魔力は減る。1回落とし穴が発動するたびに魔力が1減っていた。
「なんで私が歩いたときには何も起きなかったのかしら?」
「おそらく、この落とし穴は振動を感知してるんだろう」
「振動?重さとかじゃなくて?」
「重さだとしたら、ティナが歩いたときには反応しなくて、指でつついたときに反応するのはおかしいからな。ある程度の振動があったときに落とし穴ができるんだと思う」
最初、ティナが歩いていたとき、俺は違和感がした。あれはおそらく……
「ティナ、お前、最初歩いていた時、スキルを使ってたんじゃないか?」
「あっそうかも?慎重に歩いてたから、無意識のうちに《無音の探索者》使ってたかも」
「たぶん、原因はそれだ」
「……なんで?だったら、反応する条件は音なんじゃないの?」
「音だったら、落とし穴の範囲外でしゃべっても反応することになるだろ」
「いや、でも、アタシのスキルは音を消すスキルだよ?」
それはそのとおりなのだろう。だが、そのスキルの本領はそこじゃないはずだ。
「確証はないが、おそらく、そのスキルの効果は、『ティナの行動による周囲への意図しない物理的影響をゼロにする』なのだと思う」
「え~と?」
「つまり、音を消すだけじゃないってこと。そもそも音が出るのは何かが振動するからだ。スキルを使うとその振動自体をなかったことにするんだろう。音が出ないのはその結果だ。たぶん音が出ないだけじゃなくて、スキルを使ってる最中はティナが動いてもそよ風一つ立たなくなるんじゃないかな?」
「でも、スキル中でも手で触ってモノを動かしたりはできるよ?……あ、だから『意図しない』なのね」
「そう。意図したものであれば、スキル発動中でも影響を及ぼせるんじゃないか?」
少し疑問に感じているのか、ティナは地面にうつ伏せになり、手を伸ばして地面をちょんちょんと何度か触る。
何度目かのとき、地面に穴が広がる。
どうやら、スキルの効果を確認していたらしい。
「ほんとだ!」
「Aランクのスキルにしては地味だと思ってたが、意外と使いみちのありそうなスキルじゃないか」
ティナが冷ややかな目でこちらを見ている。
「カイン兄、……そんな事思ってたの?」
「ん?いや、まぁ……それより、落とし穴の検証はこんなもんで十分だな。消費魔力50でもけっこう使えそうな罠だな」
小声で「まぁいいけど」と呟く声が聞こえる。
「さて、それで、ダンジョンの防衛だが、安心して欲しい。俺には秘策があるからな」
「そうなの?アタシも手伝うからね」
「おう。お前にもやってもらいたいことがある」
「任せて!」
さぁ俺のダンジョンづくりの始まりだ。人間どもをあっと言われてみせよう。
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