第3話 最初の仲間
さて、人間どもからダンジョンコアを守るためにも、まずはこちらの手札を揃えよう。いくらなんでも、ただの洞穴にあるダンジョンコアを俺一人では守れない。
「まずは仲間だな」
ダンジョンマスターは魔族創造のスキルを使うことで、配下となる魔族を創り出すことができる。創り出すことのできる魔族はダンジョンコアのランクによるので、当面はそこまで大きな力をもった魔族は期待できない。
俺はダンジョンコアに手をかざし、創造する魔族をイメージするために集中する。
「ん?」
すると、そこで遠くでおかしな魔力があることに気づく。
大きくなったかと思うとすぐに小さくなる。魔法を使う際には漏れる魔力が大きくなるので、同じような事が起きるが……
「一定の周期で増減しているな。まるでこれは……」
なにかの信号のようだ。誰かに存在を伝えるために意図的にやっているとしか思えない。
「一応確認しておくか」
俺は魔族の創造を中断し、反応のあった方へ急いで向かう。
増減していた魔力の波動は今はもうない。集中して、その場所の魔力を探ると、弱々しく、今にも消えそうな魔力と、その周辺にいくつかの魔力の反応を感じる。
「魔獣もさっきの波動に惹きつけられたか」
おそらくは同族の救援要請だったのだろう。だが、あれだけの波動を撒き散らせば、周囲の魔獣どもも当然気づく。
同族がいるであろう場所に急ぐ。
「ゴブーーー」
それが目に入ったときには、周りには3匹のゴブリンがはしゃいでいた。
労せずエモノが手に入って喜んでいるのだろう。
「だが、どうやら間に合ったようだな 《ファイアボール》」
「ゴブ!?」
俺はゴブリンどもの足元にファイアボールをぶつける。
ゴブリンは俺に気づくとともに何が起きたのかを理解したようだ。
「ゴブブブ……」
そして、3匹とも一斉に逃げ出した。
あとに残ったのは、横たわった少女だ。
焦げ茶色のふさふさとした尻尾にショートカットの茶髪、ピョコンと顔を出したネコミミ。
ネコの獣人型の魔族。
「ひとまずは退避だな」
さきほどのファイアボールの音にもひるまず、こちらへ向かってくる魔力の塊を感じる。
俺は少女を抱きかかえて、ダンジョンコアのある洞穴へと走る。
「……なんでこんなところにいるんだ、ティナ?」
こいつは同じ村の幼馴染のティナだ。
おそらく村を無断で抜け出してきたのだろう。
意識のないティナをダンジョンコアのそばまで運ぶ。
「よくもまぁここまでもったな」
ティナの状態はちょっと前の俺と同じ、魔力の枯渇だ。
魔族は魔力がなければ生きられない。そして、自分の属するダンジョンの範囲内にいない限り、魔力の供給は受けられず、一方的に消費していくのみだ。
村からここまで魔力を回復させることなく、よくたどり着いたものだ。
俺はティナに触れ、深緑のダンジョンの配下として登録する。
本来、属するダンジョンの変更は元のダンジョン管理者と本人に了承をとって行うべきことだが、今は緊急事態なので仕方ない。やめるのは本人の意志一つでできるから、やめたきゃあとでやめればいい。
登録が完了すると、苦しそうな顔をしていたティナの表情が少し落ち着いたように見える。
「ひとまずは安心だな。……起きるまでに食べ物でも用意しといてやるか」
俺はティナをダンジョンコアのそばに寝かせると、さきほど食べたアププの実を採りにでる。
今朝見つけたアププの木で抱えられるだけアププの実を採り、ダンジョンコアのところにもどってくると、ティナも気づいたようだ。
「ここは……」
「目が覚めたか。かなり危ないところだったぞ」
「カイン兄!」
こちらに気づき、立ち上がってこようとする。
「あっ……」
だが、まだ十分に回復していないのであろう。抱えていたアププの実を放って、ふらつくティナを支えてやる。
「これでも食って、まだ休んでおけ」
ゆっくりとティナを座らせ、アププの実を拾って渡してやる。
「ありがと……」
大人しく座ったティナはアププの実にかじりつく。
「なんでこんなところにいるんだ?」
なんとなく答は予想はできるが、確認しておく。
「……私も外の世界に出てみたいな~って」
やっぱりな。ティナは子どもの頃から外への憧れが強かった。しかし、よく村から抜け出せたものだ。
「村のみんながカイン兄の見送りに集まってるスキに村の外へ出たの。あとはカイン兄が村を出た後、尾けてこうと思ったんだけど……」
「見失ったと?」
「うっ……でも、向かう魔力溜まりの場所は聞いてたから、こうして来れたし!」
「聞いてた?盗み聞きだろ?」
ティナが気まずそうな表情をしながら、顔を背ける。
「だいたい、『来れたし!』じゃない!村から離れれば、魔力の補給が受けられなくなる。お前の魔力が保たなかったり、そもそも俺がダンジョンコア生成に失敗してたら、どうするつもりだったんだ!」
「まぁまぁ落ち着いてよ。結局はなんとかなったんだし、いいじゃない」
……開き直りやがったな。
「村のみんなには置き手紙も用意したから、大丈夫よ」
……手紙がありゃ済む問題じゃない。
とはいえ、
「言いたいことは山程あるが、もうどうしようもない。まさか帰れというわけにもいかないし、こっちから村に連絡する手段もない……」
「でしょでしょ♪」
いい笑顔で、2つ目のアププの実に手を伸ばす。
来てしまったものは仕方ない。それに、こうみえてもティナは優秀だ。ある意味、コアの魔力を使わずに、頼もしい仲間が増えたともいえる。
「……仕方ない。ティナ、お前をこの深緑のダンジョンに迎える」
「やった~~♪」
「まぁすでにダンジョンには登録済だしな。だが、配下になったからには存分に働いてもらうからな!」
「任せてよ!アタシ、結構役に立つよ!」
俺は、ダンジョン管理者の権限で、配下であるティナのステータスを確認する。
【ティナ】
種族:獣人(猫)
所属:深緑のダンジョン
ランク:A
レベル:15
スキル:無音の探索者
我々、魔族にもランクがある。ランクはEからSまであり、生まれたときから変わることはない。ランクの差は大きく、たとえばCランクでレベル1の魔族とDランクでレベル30の魔族が戦ったとしたら、Cランクの魔族が勝つといわれる。それだけランクは重要なものなのだ。ティナのランクはA。間違いなく超優秀な魔族だ。
「アタシのスキル、《無音の探索者》はアタシの行動に関する一切の音を遮断するスキルだよ。偵察とか不意打ちとかにとっても便利!斥候役なら任せてね」
スキルは1人につき1つだけ持つものだ。その効果は様々で、なくても努力次第で同じようなことができるようなスキルもあれば、奇跡と思われるようなことを起こす類のものもある。
ちょっと予定とは違ったが、心強い仲間ができたことは間違いない。ティナにも協力してもらって、このダンジョンの防衛を固めるとしよう。
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