第2話 ダンジョン生成

 穏やかな光を感じる。


 うっすら目を開けると、地面に横たわっていることに気づく。


「……そうだ。俺はダンジョンコアを生成して……」


 起き上がり、周りを確認すると、記憶の中にある台座とその上の白い球体が目に入る。


「無事か……。まぁコアが無事でなければ、そもそも俺が無事なわけないか」


 どれだけ寝ていたのかは分からないが、苦労して作り上げたダンジョンコアを早々に奪われるような間抜けな事態は避けられたようだ。


「魔力は……回復してるな。問題なく、ダンジョンコアは機能しているようだ。」


 ダンジョンコアはその管理者とその配下の魔力を回復させる。というか、基本的に使った魔力を回復させるにはダンジョンコアを使うしかない。自然に回復するような事はないので、ダンジョンコアがないと魔力は減る一方だ。魔力の塊である魔石であれば、多少の回復は見込めるが、それも足しにしかならない。


 ダンジョンコアを介して、地脈を流れる膨大な魔力を取り入れる、これが正しい魔力の補充方法だ。


 魔力は生命の源だ。俺達は魔力がないと生きていけない。


 ということはどういうことかというと……


「よく死なずに済んだなぁ」


 そう。

 ただでさえ、村を離れてこの地にたどり着くのに時間がかかったうえに、オークを倒すのに魔法を使い、とどめにダンジョンコアの生成。


 俺の魔力は枯渇寸前だったわけだ。


 なんとかダンジョンコアが完成したからいいものの、本当にギリギリだった。


「まぁどうにかなったんだから、いいだろう」


 無事に済んだのだ。反省はいらない。そもそもこんなこと二度とやりたくないし、やる必要もない。


 俺は気を取り直し、ダンジョンコアに触れる。

 するとその白い球体に文字が現れる。


【深緑のダンジョン】

 管理者:カイン

 ランク:E

 魔力:10,000/10,000

 スキル:迷宮創造Ⅰ、魔族創造Ⅰ、魔力調整


「名前は深緑ね。森の中にあったからかな」


 ダンジョンコアは地脈から魔力が溢れ出すのを防ぐフタであり、魔力を引き出すポンプであり、魔力を貯めておくタンクでもある。そのコアの能力を示すのが「ランク」である。ランクが高いほど、地脈から多くの魔力を引き出せるし、貯めておける魔力量も多い。そして、ランクに応じて使えるスキルが変わるらしい。


「今のランクで使えるスキルは3つね」


 俺は、各スキルを確認すべく、ダンジョンコアに触れ、集中する。


 どうやら、迷宮創造、魔族創造は名前のとおり。といっても、ランク相応のものしかできないようだ。魔力調整は地脈から引き出す魔力の量を調整できるらしい。


「いや、変える必要あるか?」


 魔力をフル生産し続けるとコアの調子が悪くなるとかあるのだろうか?貯留可能量を超えると壊れるとか?いや、もしそうなら、俺が倒れている間に壊れているはずだ。

 ひとまず魔力はフル生産のままにしておく。

 俺が生きているだけでも魔力は消費するし、ダンジョンコアのスキルを使うにも魔力は必要だ。魔力はあって困ることなどない。


 ダンジョンコアの情報はこんなところか。


(ぐぅぅ~~)


「……」


 情けない音が洞穴に響き渡る。どうやら、俺の腹が悲鳴をあげているようだ。


「やりたいことは多々あるが、まずはメシにするか」


 俺は洞穴を出て、食料を探しに森に入る。

 重苦しい雰囲気もなく、昨日までとは打って変わり、とても気持ちのいい森だ。

 この森は、随分と豊かな森のようで、食料になる植物も多い。


「オークが残ってりゃな……」


 ちゃんと手加減できていれば、オークの肉が食べられたはずだが、燃え尽きてしまったので、それもない。


「いや、燃え尽きてなかったら、俺が倒れてる間に他の魔獣が集まってきただろうし、そうなれば、俺の身も危なかったか。むしろ、俺グッジョブ!」


 ポジティブ大事!


 洞穴の周辺を少し散策すると、赤く大きな実のなった木を見つける。アププの実だ。


 木に登り、アププの実を3つほどもぐ。


(シャリシャリ)


「うまい!瑞々しいし、爽やかな甘さがあるな」


 俺が村で食べていたアププよりもうまく感じた。倒れていて空腹だったからかもしれないが、もしかすると魔力溜まりのせいで魔力が豊富に育ったのかもしれない。


 採ってきたアププを3つとも食べると、だいぶ満たされ、落ち着いた。


「さてと……」


 俺は洞穴の奥へと戻り、再びダンジョンコアに手をかざす。


「さっそくやりますかね!《迷宮創造》」


 俺はイメージする。


 このダンジョンコアを中心として、10メルト四方で高さ3メルト程度の部屋だ。

 部屋といっても、何があるわけでもない。石の壁に石の床。

 ただただ真四角の部屋。飾り気は何もない。


 そうイメージすると、一瞬ダンジョンコアが輝き、すぐに今いる場所がキレイに整地された部屋になる。


「うむ。イメージ通りだな」


 ダンジョンコアをみると魔力が減っている。


【深緑のダンジョン】

 管理者:カイン

 ランク:E

 魔力:9,800/10,000

 スキル:迷宮創造Ⅰ、魔族創造Ⅰ、魔力調整


「いまので200か……」


 これが迷宮創造のスキルだ。ダンジョンコアは蓄えた魔力を消費し、管理者マスターのイメージに沿ってダンジョンを作り出す。今のランクでは、部屋や廊下などごく単純な構造物しかできないようだが、ランクが上がると、森や川など自然にあるものを生み出したり、魔法陣など外敵を排除するためのものを創り出したりできるらしい。


 当然、創り出すものに応じて魔力を消費する。


「こんな部屋1つじゃダンジョンというのも情けないが……とりあえずはこれでよし!」


 なにせ、はじめはやることが目白押しだ。

 魔力の無駄使いはできない。


 ゆくゆくはちゃんとしたダンジョンにするにしても、いまは俺しかいないわけだし、ぶっちゃけ洞穴のままでも困らない。

 といっても、何がどれだけ魔力を使うかも分からないから、最小限で使ってみた。


 ダンジョンマスターがまずやることは防衛だ。というか、最後まで防衛だ。


 俺達には明確な敵が存在する。


 やつらはこの世界で唯一魔力を持たない生物だ。


 そのくせ、魔石を燃料とした魔道具を使って、無駄にぜいたくな暮らしを好む。

 薪に火をつければいいものの、魔道具を使って調理する。

 夜目が効くわけでもないのに、なぜか日が暮れても活動したがり、魔石で明かりをつける。(そのくせ、日が昇っても寝てやがる)


 魔石をふんだんに使った武器を作り、狩りにでも使うかと思えば、なんと互いに殺しあっている。


 無駄な事このうえないやつらだ。


 やつらは魔力がないがゆえに、魔力を必要とするときには魔石を使うしかない。

 魔石は魔獣のコアだ。どうやら、やつらからすると魔獣は薪や農作物と同じに見えるらしい。いるとわかれば喜々として狩りにくる。

 そしてなにより、ダンジョンコアだ。ダンジョンコアは魔獣のコアとは比べ物にならないほど巨大な魔力の塊だ。やつらにとっては命をかけてでも狙う価値のあるものらしい。


 だから、我々魔族はこの世界の均衡を守る者として、やつらを排除し、ダンジョンコアを守らなければならない。

 この深緑のダンジョンは俺達のものだ。


 すべてをかけて守ってやる。


 かかってこい!


 人間どもめ!

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