第7話 場違いレガシー
一方、クラウンとセシリアがそんなやりとりをしていたその頃。
それらの状況に全くと言って良い程関係の無いその人は、目の前で起きたセシリアの変わり身に驚き、現状にひどく困惑していた。
その人物とは、勿論――レガシーである。
長らく社交から遠ざかっていたレガシーだ。
実は、セシリアが呼んだ名を聞いて、初めてやってきたのが『クラウン』なのだと気が付いた。
クラウン・モンテガーノ。
その名は良く知っている。
セシリアの情報を周りから集める際に良く上がってきた名前だったから。
しかし、だからこそおかしな事になってるなと思う。
だって。
(その時の話では、確か彼はセシリア嬢と敵対関係にあった筈)
そんな彼が、何故セシリアの元に来て頼み事をしているのか、それが分からない。
どうやらもう論点は別のところに移ってるみたいだが、その話の最初でつまづいてしまったため、最早1人だけ置いてきぼり状態だ。
(……まぁ別に僕は関係ない話だから、ついて行けなくても困りはしないけど)
しかしそれでも、目の前で起きている事くらいは把握しておきたい。
そんな気持ちが彼にはあった。
(うーん……。そもそも、彼の態度がおかしいんだよね)
彼がセシリアに対して、一体どんな態度で相対していたのかは、噂ベースで既に知っている。
しかしその時に聞き摘んだ彼の性格なら、今の置かれている残念な自身の現状も「セシリアのせいだ」なんて言って、逆恨みしそうな所だ。
なのに、何故彼はセシリアに『お願い』をしに来ているのか。
全く以って意味不明だ。
(……当事者同士にしか分からない何かがあるのだろうか)
そんな風に思いながら、彼女の後ろに控える1人の執事を横目で見遣る。
その執事は、とても冷静に見えた。
本当に冷静な気持ちで見ているのか、それとも気持ちをうまく隠せているのかは分からないが、少なくともレガシーには、彼がそう見える。
(年は……僕よりも2、3上かな)
令嬢付きにしてこんな公の場所まで引っ張り出すには、少し若すぎる。
しかし彼がセシリア付きなのは相応のスキルがあってこそだという事は、日頃セシリアを眺めるにあたり随所に現れる彼の仕事ぶりを見ても、今の様子を見ても良く分かる。
(主人の『敵』が目の前に来たら、少しは慌てたりしそうなものだけど)
そんな風に思いながら彼を観察してみるが、特に焦る様子は見えない。
先ほどから、少し立ち位置を変えただろうか。
そう思うものの、何だか気のせいな気もする。
(うーん……。彼の様子からは何も情報が得られそうにない)
そんな風に思い、レガシーは視線をまた2人へと戻す。
レガシーがよそ見をしていた間にも、両者の話は続いていた。
「……私がこれからその理由を話したとして、その話の内容は貴方を今以上に不快にし、悲しい気持ちにさせるかもしれません。――それでも貴方は聞きたいのですか?」
セシリアのその声は、話が「セシリアがクラウンの『お願い』を聞き入れる」方向に傾きつつある事を示唆していた。
そんな状況を鑑みて、レガシーは思う。
(……もしかして僕、邪魔なんじゃない?)
と。
しかし彼女がこれから語るだろう事と初めて近くで見るセシリアの社交の仮面を前にして、基本的に他人の事には無頓着な彼にしては珍しく、野次馬根性がニョキっと顔を出していた。
確かに彼はセシリアの情報を仕入れる為に、他貴族達からこの件についての噂話を聞いた。
しかしそれは、あくまでも噂だ。
噂話よりも当事者同士の話の方が情報の信ぴょう性が高いのは必至である。
その結果。
(話の腰を折るような事さえしなければ、別に此処で聞いていても良いんじゃない……?)
という考えに彼の思考は落ち着いた。
そして2人のどちらかに指摘されるまでは黙ってその場に居る事を、レガシーは1人密かに決意する。
そんな彼の野次馬根性が天に届いたのか。
幸いにも、誰一人としてレガシーの退場を求めはしなかった。
……まぁ、もしかしたら『2人とも、静聴するレガシーの存在を半ば忘れてしまっていた』という事もあったのかもしれないが、その真相は分からない。
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