第14話 たった8言で得られた納得
少し遠くでしばらく彼らを観察して分かった事は『どうやら皆で一つの話題を共有しているという訳では無いらしい』という事だった。
コミュニティー内で幾つかのグループに別れ、各々に別の会話をしている。
しかもどうやらそのグループにも特に縛りが無いようで、気軽に互いのグループを行き来して会話に参加する遊撃手も存在している。
(まず、遊撃手が上手い。そして何より、その存在を周りがすんなりと受け入れている)
遊撃手はが元々の話を邪魔しないように努め、実際に配慮できている。
そして元の住人達は、外からやってくる新たな切り口に聞く耳を持つ。
ソレが互いに出来ているからこその、この形だ。
そして何より面白いのは。
(そういう人がたまに別々だった話題の間に接点を見出して両者間をつなげる役割を担っているという事)
だからたまに、いつの間にかバラバラだった話題が一つになっていたりもする。
そしてその話題が終わると、また各々の話に戻るのだ。
同じコミュニティー内だからこそ、そんな事が出来る。
しかも参加する話題の選択肢が存在する。
それはセシリアの目には、互いの時間を有効活用し、その上でコミュニティー全体の親交を図る、実に良い手に映った。
つまり。
(効率的。とっても私好みだ)
という訳た。
当初の予想よりも、より多くの収穫が見込めそうだ。
このコミュニティーを選んで、正解だったかもしれない。
セシリアはそう心中でほくそ笑んでから、ついに彼らの元へと歩いて行った。
「――皆様、お話し中に失礼します。私はオルトガン伯爵家第三子、セシリアと申します。私も皆様のお話の仲間に、入れて頂けないでしょうか……?」
セシリアが放った第一声に、多くの目が振り返った。
(そんなに大きな声を出したつもりは無かったんだけど……)
集まった視線に、意図せず周りの会話を中断させてしまった事に若干の申し訳なさを感じた。
そしてその一方で「それとも何か、注目されるような事を言っただろうか」と少し前の自分を振り返る。
しかし振り返ってみたところで、セシリアに思い当たる節はない。
だってセシリアは、ただ初対面の相手への挨拶をしただけなのだ。
結局原因が分からず、分からない以上邪魔への謝罪もできず、セシリアは仮面の外側で優雅に微笑む事を選択した。
しかし自分の失態の原因には思い至らずとも、セシリアの観察眼は健在だった。
彼らは、大人達と比べるとやはり未熟さが目立つ様子だった。
一応取り繕う気はある様なのだが、その未熟さ故に内包する感情がわかりやすく見え隠れしている。
今セシリアへと向けられているのは、驚きと「珍しいものを見た」という目。
そして、好奇心。
数秒の後に、セシリアを冷静な目で観察し始めた物も幾つかある。
そんな中。
「――そうか、君が『セシリー』か」
一同を代表したかの様に、とある少年が口を開いた。
そちらに視線を向けてみると、14、5歳くらいの少年が立っていた。
「子供にしては大人びた」というか、社交慣れしているように見えるが。
(目が、楽しそう)
それを見れば、この邂逅を面白がっているのが明らかだ。
セシリアは、すぐさま彼の情報を脳内データベースから検索した。
そしてその一方で、彼の先の言葉の示すところにも、素早く当たりを付ける。
「……ケント様、ですね。キリルお兄様がいつもお世話になっております」
セシリアのそんな言葉に、ケントと呼ばれたその少年は少し意外そうな顔をした。
「良く知ってたね、俺の名前。もしかして、あらかじめ何か聞いてた?」
その顔には「まさかアイツが俺のことを話しているとは」と書かれている。
そんな彼に、セシリアはゆっくりと首を横に振ってみせた。
「いいえ。キリルお兄様は、ご自分の友人については私にあまりお話しになりません」
特に初対面の相手には、偏見を持たない方が良いと思うから。
キリルはそう言っていた。
しかしあの口ぶりなら、おそらく第一印象が固まった後ならは話を聞かせてくれるだろう。
ブラックボックスな兄の友達付き合いの中身は、妹としてはとても気になる。
だから実は、密かにその時を楽しみにしていたりもする。
「そうか、でもじゃぁどうして……?」
それは「何故俺の名が分かったのか」と「何故俺とキリルが友人だと分かったのか」という二重の問いだった。
そんな疑問を掲げた彼に、セシリアは「簡単な推察ですよ」と言って微笑む。
「だって私にその呼び名を使うのは、お兄様かお姉様しか居ませんもの」
両親は「セシリア」と呼ぶ。
社交開始後になって知り合った相手は、皆「セシリア嬢」や「セシリアさん」と呼ぶ。
セシリアの事を愛称で呼ぶのは愚か、その呼び名を知っている人物さえ家族に限られるのだ。
あまつさえ相手が学校通いの年齢となれば、兄か姉どちらかの関係者だろう事は容易に察せられる。
となれば確率は2分の1だが、彼の年齢はマリーシアよりもキリルとの仲をセシリアに連想させた。
……まぁ、マリーシアが外で異性の仲良しを作った上にその相手に妹の愛称を教えているなどという光景が、あまり上手く想像出来なかったという事もあるのだが。
セシリアのそんな言葉に、ケントは口元に手をやって唸るように納得の声を上げた。
「確かに君は『キリルの妹』だ。頭の回転の速さ、俺の顔を見てすぐに名前が出て来るその記憶力、そしてその言葉返し。どれもアイツに良く似てる」
その返しにこそ、セシリアは非常に驚いた。
しかしすぐに「なるほど」と思い直す。
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