第11話 馬車に乗って


 馬車がオルトガン伯爵家から4つ、出発した。


 王城へ向かう人数は、使用人や護衛を含めて16人。

 その為、両親とマルクで一台、キリルとマリーシアとキリルの執事で一台、護衛騎士達で一台、その他の使用人達で一台とを使う事になった。


 じゃぁセシリアはどれに乗るのかというと。


「セシリア、私達と同じ馬車に乗るか、キリル達の馬車に乗るか、どちらか選びなさい」


 乗車前にそう言われた為、少し考える素振りを見せた。

 そして「選べるならば」と口を開く。


「キリルお兄様達の馬車に乗りたいです。出来れば会場に着く前に、今日の朝の話について2人のお話を聞きたいので」


 その声にワルターが「あぁそうだったな」と納得の声を上げた。


 朝の話とは勿論、社交界デビューでの『やらかし』についてである。

 あの後時間が取れておらず、まだ2人に何も話を聞けていない。


「2人の話をしっかり聞いてきなさい」


 最後にはワルターにそう背中を押してもらって、セシリアは兄姉達の馬車に同乗する事になった。




 馬車が走り出して少し経ち、丁度馬車が速度に乗ってきた頃。


「キリルお兄様とマリーお姉様も、社交界デビューの時に何かあったんですか?」


 そう、話を切り出した。


 すると2人は突然の話題振りに一瞬だけきょとんとしたが、すぐに納得顔になる。


「お母様からお父様の話、聞いたんだね? セシリー」


 キリルがそう言ってきたので素直に頷くと、マリーシアが隣で「あぁ、あれね」と言いながらクスクスと笑う。


「勿論私達にもあったわ。まぁお父様程派手ではないけれど」


 王族の絡んだ事件よりも大きな事件など、そうそうあっては堪らない。

 逆に「お父様よりも派手だった」なんて言われたら、憂鬱な気持ちで会場に赴かなければならなくなってしまう。


 「そうならなくて良かった」と、内心で安堵しつつ更に尋ねる。


「一体どんな事があったんですか? 私にも降りかかる内容かもしれないので、出来れば知っておきたいんですが……」


 セシリアのそんな声に、キリルとマリーシアは互いに視線を合わせた。

 マリーシアが無言のまま頷き、キリルが微笑む。

 そしてまずはキリルが口を開いた。


「そうだね、じゃぁ僕から話をしよう。と言っても、本当に大した事無いんだけどね」


 そんな前置きをしながら、兄は自分の記憶を掘り起こす。


「――この国には侯爵が3人居るのは知ってる?」

「はい」

「そのうちの一人・テンドレード侯爵が、デビューの日に僕に話しかけてきたんだ」


 彼はそうやってもう5年も前になる自分の昔話を始める。

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