ここでなぜ《チキュー》の名が出て来るのか――君は瞬間、混乱したことだと思う――安心してほしい、私もそうだったからね――だが、要は簡単な話だ。

 《ヒト》という種が発生した母星である《チキュー》という星と、現在いま私が立っている《チキュー》という星は、名前が同じだけでまったく別の惑星なんだ。

 重要なのは、《タツミ》氏がここを《チキュー》と名付けた――おそらくは自身のとも言える《チキュー》をしのんで――という事実だ。

 そして、この地に聖堂を建てよう――あるいはともすると、――と氏が考えたのは、そのことに深く動機付けられたモティヴェイテッドものだったのではないか。そういう推測が、私の中に生まれる。

 それを確かめるためには、私は《チキュー》の歴史をひもとかなければならない。


 《チキュー》が位置する《かかろくすと・7a》銀河は、《パルメ》を含む《るべさっと・8f》銀河よりもさらに共同体コミュニティの中心には遠く、その勢力圏から飛び出した、言わば“未開の空ノーマンズ・スカイ”だった。

 そしてその中で、《ヒト》という知的生命体が生存する、《チキュー》という惑星が発見されても、しばらく(これは宇宙的な時間の流れの中での、しばらく、だと理解してもらいたいが)は共同体コミュニティにも組み込まれることのないまま、ただ観察の対象とだけされていた、と記録にはある。

 なにしろその当時の《ヒト》の技術テクノロジー水準は、母星のただひとつの衛星である《ツキ》に到達するのがやっと、という段階レベルだったそうだから、自ら星の大海に漕ぎ出し、共同体コミュニティに接触するようになるには、まだ長い時間が必要だと判断されたということなんだね。

 身の丈に合わない技術テクノロジーはいずれその身を滅ぼす――共同体コミュニティ草創期に起こった“《デグレジェン》の悲劇”のことは君も知っているだろう?――あの痛ましい出来事は、現在いまも私たちにいくつもの重要な示唆を与えてくれるよ――だから、共同体コミュニティは未成熟な知的生命体との接触には殊更ことさら慎重だ。

 このときも共同体コミュニティはそのやり方にのっとって、《ヒト》の発達を静かに見守ることにした。

 いずれ共同体コミュニティに参画するのに十分なほど、彼らが自らの文明を成熟させるのを、気長に、辛抱強く……。


 ――そのはずだった。

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