私がダウンロードさせてもらった《タツミ》氏の公開パブリックデータの中には、聖堂の設計図の他にも、氏の航宙ログが含まれていて、それをさかのぼれば、氏の旅の始端がどこであるのかも、私は容易に知ることができた。

 《るべさっと・8f》銀河は《とめなり・ちか》星系の第4惑星《パルメ》。

 それが、《タツミ》氏の探究者エクスプロラとしての出発点となった惑星だった。

 私は情報網ネットワークのアーカイヴを検索し、その概要に目をとおす。

 共同体コミュニティの中心から見れば、位置はかなり外縁にあたる。計画プロジェクト最中さなかに発見された、その時点での言わば最前線フロンティアに位置した惑星のひとつだ。

 支配的な知的生命体ドミナント――つまり《タツミ》氏の種族――の名は《ヒト》というらしい。

 大気組成は《チキュー》と同じく、典型的な《ラスツーダ》型。活発な地殻活動があり、惑星表面には多様な地形が見られる。水が海洋や河川などのかたちで豊富に存在し、それが自然現象によって絶えず循環している。まさにわれわれ炭素系生命体カーボン・ベイスド・ライフにとって楽園パラダイスかのような環境である。

 《ヒト》はこの恵まれた環境の中で大いに繁栄し、計画プロジェクトに加われるだけの科学技術を発展させてきた、というわけなのだろう。

 芸術活動も活発で――その美的感覚に彩られた建築様式の発達も目をみはるものがある。

 そこから生み出された建築物群の中に、《タツミ》氏が打ち建てた聖堂の“実物オリジナル”もある――それも、これだけの威容を誇る作品であれば、《ヒト》の間でも著名な、特別スペシャルなものであるに違いない――私はそう思った――だが、いざ《パルメ》の代表的な建築物をカタログ様にまとめたデータを閲覧してみると――想定外のことが起こった。


 ないんだ。


 あれだけ壮大な建築物のことが、どこにも記録されていない。

 類似するモティーフが使われた作はいくつか見つかるのだが、あの何基もの尖塔が連なる雄大な立ち姿だけは、《パルメ》の建築物について整理したアーカイヴのどこをひっくり返しても出てこない。

 それに、そうこうしているうちに私はおかしなことにも気づいた。

 技術発達が急激すぎる――急激というか、まるでどこか余所よその建築史を叩き切って植え替えでもしたかのように、《パルメ》の建築物の進歩の様子は唐突に、近代的な、高度に発達した建築様式のものから始まっている。

 ――いや、た?

 私は《パルメ》の概略史にいちから目を通してみる。

 すると、私の疑問は一気に氷解することになった。

 《パルメ》は《ヒト》の発祥の地ではなかった。

 《ヒト》は宇宙の移民イミグランツだった。

 生誕の地の名は《チキュー》。

 《かかろくすと・7a》銀河《たいよー》星系第3惑星――《チキュー》。

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