《宇宙の果てはどこにあるのか?》


 すべての探究者エクスプロラはその答えを求めて旅を続ける。

 最古の記録は、b74b4年前のものにまで遡る。

 当時《ざいかるしあ》銀河を中心に栄華を極めた《セレド・ノラ》文明において、その頃すでに私たち探究者エクスプロラのために必要な技術テクノロジー――高速宇宙飛行艇シャトル、それのための超光速航行ハイパー・ドライヴ機構、量子エンタングルメント通信スーパーデンス・コーディング機能、搭乗者のための不老化メトセライズ電脳化デジタライズ処置、強固な環境保護スーツ――etcエトセトラ――etcエトセトラ――の基礎は確立されていた。

 計画プロジェクトの発案者であり、自身、最初の探究者エクスプロラとなった《ザインツ=フォミュア》博士は、“機は熟した”、と考えた。


 《宇宙の果てはどこにあるのか?》


 その真の答えを求める時が来たのだと。


 “散れ! 散れ! あまねく星々へ!! その果ての果てをき止めるのだ!!”


 いささ狂騒的ファナティカルな調子で発された最初の号令から、当時の熱狂がほのかに私の爪先にも伝わってくるようではある。

 そうして、いくつもの、いくつもの銀河から、幾人もの、幾人もの探究者エクスプロラたちが、一斉にすべての方位ヴェクトルに向けて旅立っていった。


 勿論もちろん、道行きは多難だった。


 初期の飛行艇シャトル現在いま私が命を――つまりそのを――預けている《びいどるだむFfffffシクスエフ》号ほど頑健な船体を持っていなかったし(微細機械ナノマシンによる外殻の自動修復・保全機能も、まだ試作段階のまま投入されていたというから驚きだ)、航行速度も、航続距離も、それこそ《ユーモラ》と《ナイジェフ》を較べるようなものだろう。


 それは、最初に旅立った惑星から、次の惑星にまでも辿たどり着くことができなかった探究者エクスプロラたちの亡骸で、小さな天体が創れるほどの壮絶な旅路だったはずだ。


 それでも、第二の惑星に到達できた探究者エクスプロラたちはそこで環境――明らかに生命の生存に適さない惑星に到達してしまい、本懐を果たせなかった者もまた、やはり数多くいたはずだ――や生態系、鉱物資源を調査し、共通情報網ネットワークにアップロードする。そしてまた即座に、他の星系に散った同志たちからのフィードバックが彼の果たした労苦の見返りとしてもたらされる(この互助関係が現在いま共同体コミュニティの萌芽である)。


 そして、惑星にある資材で傷ついた船体を補修し、物資を調達し、また次の惑星へ……その次はその次の惑星へ……惑星へ……惑星へ……――探究者エクスプロラたちが航海を続けるその都度その都度に、情報網ネットワークはさらに増強・拡張され、彼らの旅を助けた(そして巡り巡って現在いま、私の旅を)。


 “我らが家ホーム”のことは君(本来なら貴方あなたと言うべきなのかもしれないが、私はこの手記をひもといてくれている、という事実のみを以って、親しみを込めて“君”と呼びかけたい)もよく知っているだろうと思う。

 そう、あの、指定周波数で合図サインひとつ飛ばせば、瞬く間にこの宇宙のどこからでも、文字通りすっ飛んで来てくれる、愛しき我らが根拠地ホームだ。

 “我らが家ホーム”は小型の小惑星ほどの大きさしかない球形の人工天体だが、その中には探究者エクスプロラにとって必要な設備がすべて調ととのえられている。

 スーツの補修ステーション、多機能工作機マルチ・ツールのアップグレード・パーツの店舗ストア飛行艇シャトルの修理(微細機械ナノマシンでは対処不可能な規模の損壊のための)・点検・改修のためのドック、情報網ネットワークに組み込まれた大小の基地ベースのほぼ全てに直接ジャンプできる空間跳躍装置テレポート・ゲート――等々。

 勿論もちろん探究者エクスプロラ一人一人のためにそれだけの設備をいちいち用意していては、共同体コミュニティの財政は破綻だ。

 “我らが家ホーム”は、私も完全に理解しているとは言い難いが、私たちが平常活動しているこの次元――三次元――空間より高次の次元空間に建造されており、“”、状態を作り出しているのだという。

 それによって、この三次元上のあらゆる場所に同時に存在することができるし、私たちの呼び掛けコールにもあっという間に駆けつけてくれるのだ――ということらしい――まあ、これ以上のことは主要拠点ハブ・ベースで研究に勤しんでいる《ベルウェイヴス》の研究員リサーチャーにでも講義してもらってほしい。

 ともかく、“我らが家ホーム”の開発は、探究者エクスプロラが旅を続けるための最大の一助となったと言えるだろう。


 今日も私は“我らが家ホーム”でつつがなく準備を調ととのえ、眼下の惑星を望む。

 青く、美しい星だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る