第40話
東京湾は、まっすぐで狭い。
沖縄の海を見てきたからだろうか。同じ海だというのに、全く違うものに感じる。
それでも、嫌いではなかった。
山の中で長い間過ごしたので、海というだけで最初ははしゃいでいた。押し寄せては引いて、それを繰り返す波。流れ去り下っていく川とは全く違う水の様相に、僕はひどく感動したものだ。
防波堤に何度もぶつかり、それでも決して動きをやめない。意味や目的などではなく、意地を張っているかのようだ。
結婚式の後はむなしい。自分はできないだろうし、むなしい。
ポケットの中で、携帯が震えた。メールが来ていた。
川崎からだった。
タイトルはなかったし、本文も短かった。
「今度はそっちが先手ね。じゃ、一手目どうぞ」
唐突過ぎて、吹き出してしまった。僕にとって大事だと思っていた彼との再戦が、一回目は泥酔状態、二回目がメールだなんて。
僕は、深呼吸してから、その場に正座した。携帯電話を地面に置き、「お願いします」と一礼してから、ボタンを押す。
「初手私 7六歩」
膝がゴリゴリとして痛かったので、正座はすぐに崩した。風が耳の後ろを通り抜け、髪を崩していった。
五分後、返信が来た。
「二手目俺 3四歩」
気が付くと僕は、声を出して笑っていた。こんなこと、もっと早くできたじゃないか。川崎は、何故今、始めたのだろう。
それでも、僕は楽しいから、川崎は正しかったのだろう。
何の指定もないから、次の手はすぐに返さないでおこうと思った。このゲームみたいな対局を、必死に考え抜いて戦おう、僕はそう誓ったのである。
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