第33話
山手線の内側は、切ない。
思ったよりも静か。皆、仕事をしているのだろうか。なかなか道を憶えられない。香りが、ないから。
引っ越して実感するのは、僕は本当に趣味が少ない、ということだった。本やCDなどはほとんど持っていない。パソコンも対局にしか使わないので、中身もほぼ空っぽ、プリンタもない。もちろん、植木鉢も水槽もない。
生きているか、将棋をしているかの人生だった。
どこにいても一緒だと思っていた。どこにいても、将棋はできるし、できないことはできない、と。
それでも、わかってしまったことがある。僕は将棋だけでなくて、将棋の世界が好きだ。将棋に携わる人々や、将棋の仕事が好きだ。
だから、孤独に逃げるのは、やめなければいけないと思った。心地よいけれど、やめなければ。
午後四時。僕はカーディガンを羽織り、家を出た。将棋会館までは、二十分かからない。
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