第4章

第27話

 多くの祝福を受けても、家に帰ってくると一人だった。

 いつも通りの自分の部屋を見て、僕はまだ道の途中なんだと実感させられる。将棋盤に棋譜のコピー、ネット対局にしか使わないパソコン。強くならなければ、言い訳のできない生活。

 家を空けている間に、ポストにもいろいろと溜まっていた。その中に、青い封筒があった。差出し人には、築山美鶴と書かれていた。

 中には手紙と、銀色のペンダントトップが入っていた。細長くて、剣の形をしている。


「木戸桜様へ

 この前は本当にありがとうございました。助かったし、面白かった!まだまだ話したいことあるし、また来てね。

 ほんとはね、アクセサリー作って食べてく予定だったんだ。でも、一年で二万円しか売れなかったんだ。今は趣味で作ってるよ。

 桜には、これが似合うかなと思って。あ、将棋頑張ってね。

返事待ってるぞ!

みつる」


 さっそくそれを、ネックレスに付けてみた。面白いほどに、僕には似合わない。けれども、好きになった。これを選んでくれた美鶴に、感謝したい。

 洋服箪笥の奥にしまっていたものを、思いっきり引っ張りだした。吐き古したジーパン、お気に入りのジャケット。

 一つの区切りが付いた。息苦しいのは、いったん止めよう。

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