第25話

 そして、一年ぶりの大会。再び、誰も僕のことを知らなかった。そして、僕は淡々と指し続け、優勝した。自分でも強くなっているのが分かった。

「全国大会、行くよ」

「ええ、よかったね」

 母はまるで関心がなく、虚ろな眼をしたままうなずいた。付き添いが必要だったが、頼める気はしなかった。そんなことまで考えていなかったので、途方に暮れた。

 次の日、来客があった。家には僕しかおらず、ネット対局を中断して玄関に走った僕は、扉をあけた瞬間に、泣きそうになってしまった。

「さくらちゃんが代表になったと聞いて」

 そこには、師匠が立っていた。

「樹君から住所は聞いていたんだ。将棋を続けていると知って、嬉しかったよ」

「……ずっと続けます」

 涙がこぼれ始めていた。生まれて初めて、自分は運がいいのだと思った。

「そうか」

「だから……師匠になってください。日本一になりたいんです」

「子供の、ではなくて?」

「プロになりたいです」

「そうか」

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