第17話

「ひっやー」

 美鶴は、叫んだ。

 僕の運転の腕ではなかなか大変な道を登って行って、たどり着いた場所。一瞬水色の変な形のモニュメントに目が行くものの、そのあとは遠くまで広がる海に視線は釘つけだった。

「遠い……」

 思わず僕の口からこぼれたのは、そんな言葉だった。太陽光を反射して、光り輝く海がどこまでも続いている。この先にあるのは、大陸だろうか。そこまでは見えない。

「あれかぁ」

 美鶴は崖の下のほうを覗き込んでいた。でこぼこの岩に、亀裂が走っているのが見える。

「なんなの?」

「戦争のとき、砲弾が撃ち込まれたんだって」

 言われてみると、波に削られたにしては形が角ばっているような気がした。そう、沖縄にはそういう歴史があるのだ。

「なんでこんなところに」

「ここまで逃げてきた人もいたって。でも、海からも攻撃された。飛び込んだ人もいたって、聞いたよ」

「全然想像つかないね」

「うん。でも、おじいに話聞くと、ちょっと光景が浮かんで来ることがあるよ」

 僕には、何も見えてこなかった。この青い海に、赤い血が浮かんだことなど想像できない。

「あ、あたし別に感傷に浸ってるわけじゃないよ。でもね、沖縄来て、あー海きれいーとかっていうのは飽きちゃったからかな。ごめんね、さくらは初めてなんでしょ」

「ううん。私も、色々感じてみたいかも」

 将棋のときはあれほど絵が浮かぶのに、美しいものの前では現実しか見えてこない。しかし、盤上は美しくないのか?

 ああ、将棋のことを思い出してしまった。

「ねえ、王道のことしてみようよ。さくらもそのつもりだったでしょ」

「え、うん、そうだね。……でも、王道って?」

「うふふ」

 なんとなく、笑う美鶴と海とを、写真に収めた。こんなにきれいな海もだが、普通に女の子にレンズを向けるのも、初めてだった。

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