第12話
化粧台に、化粧品が乗っている。
いつも、そこには雑誌や櫛ぐらいしかない。どうしても必要な時は、引き出しの奥底から取りしていた。
鏡の中に移る、腫れぼったい眼の女。流しすぎた涙の痕跡を、赤く塗り潰していく。鮮やかに彩られすぎたら、やり直す。
信じられないほどに、女になっていく。
散々迷った挙句買った、ワインパープルのチェック柄のワンピース。膝上十センチぐらいが出てしまい、スースーする。スカート部分はフリフリになっていて、ヒラヒラしている。
右腕には、昔要さんにもらったブレスレット。波打つようなデザインで、ピカピカと輝く金色。左腕には、小さな文字盤の腕時計。母からもらったお下がりだ。革のバンドは新しく買い替えた。
鏡の中には、まるっきり女の子がいる。あまりにも知らない姿なので、初めての人に会った時のような気分になる。微笑んでみると、少しドキッとした。
リボンのついた茶色いバッグを肩から掛ける。これは昨日買った。初めて入った店で、よく分からないので店員に勧められるままに決めた。そしてこれも昨日買った、黒のロングブーツ。ここまで長いと靴というよりも防具のようだが、できるだけ足を隠したかった。しかしここまで履くのに苦労する靴だとは思わなかった。玄関で何回かしりもちをつきながら、なんとか装着する。
全てが整った。ただ、演じるのだ。木田桜という女性を、演じることに慣れなければいけない。
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