第2話
「おめでとう」
へとへとになった僕を、満面の笑みで迎えてくれた女性。先輩の、
「疲れました」
「よくやったじゃない」
要さんは、僕の頭をポンポンとたたいた。彼女の中ではまだ僕は子供……女の子なのだ。
「まだ、一勝しただけです」
「私はまだ一勝もしたことないもん。うらやましいなあ」
僕は、なんと言っていいのかわからなかった。僕が彼女に唯一勝ること、それは将棋の強さだ。初めて会ったときから、僕の方が強かった。それが彼女の誇りに与える影響を、僕はわかっているつもりだ。けれども彼女は、いつも僕によくしてくれた。きっと僕のことを、妹のように思って。
僕が両手を挙げると、要さんは小さくうなずいて、帯をほどいた。着付けはすべて彼女にしてもらっている。一枚一枚体を覆っていたものを剥ぎ取られていくとき、僕はできるだけ将棋ことを考える。
「桜ちゃん、やっぱりきれいだよね」
突然言われたので、思わず要さんのことを見つめてしまった。大きくて少し茶色い瞳に、見とれてしまう。
「そ、そんなことないですよ」
「ううん、綺麗。和服も似合ってた。うん」
その優しい瞳は、本音を語っていることを確信させた。僕は耳の裏あたりからこみあげてくる涙を必死で抑えつけた。
将棋のない時間は、どうしても暗い思いが襲ってきてしまう。僕と二人きりで、平気でいられることを呪う。
ぐるぐると思いが巡る。将棋よりも、難しいことだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます