4.謎解き

 ノートPCをのぞきこんでいたヒロシが不思議そうに言った。

「枝振りといい幹といいファンタジーな木だけど、これって実在してんの? それともゲームの木?」

「実在している。マダガスカルのバオバブ並木だ」

「へぇ。マダガスカルだったら、ここの『謎』には動物が出てくるとか?」

「もちろん」

 平野が『謎』に触れ、ヒロシと少女に見せてくれた。

 名所『バオバブ並木』での『謎』はマダガスカルに生息する特徴的な動物の一部分から名前を当てるものと、動物トリビアクイズだった。

【この尻尾は誰でしょう?】

「しましまのふっさふさ。ぬいぐるみみたいだけど、天然モノ?」

「ワオキツネザルです」

「アリスちゃん、よく知ってるね。動物好きなの?」

「いえ、たまたま聞いたことがあっただけです」

【ワオキツネザルの「ワオ」とはなんでしょう?

 1.WOW!

 2.輪尾  】

「ワオ! キツネザル!」

「2です」

 平野が2を選ぶと次の問題に進んだ。

「なんで知ってんの?」

「たまたまです」

「えー?」

 そのまま少女は全問正解した。

「ちょっとー。俺にも解けそうなのある?」

 マダガスカルにもうひとつあった『謎』は、『人間1人と3種類の動物が川の向こうに船に乗って渡りたいけど、船は人間と動物1匹しか乗れない。船を動かせるのは人間だけで、動物はそれぞれ天敵関係なので、食べられないようにしないといけない』というもので、それはヒロシが難なく解いた。

「これは似た問題を解いたことある。んじゃさ、ここの前のカラフルな山は? あれも実在してんの?」

 平野はキャラをひとつ前に見た名所まで移動させた。

「ここはペルーのレインボーマウンテンだ」

「マジで実在してんのか! ここはどんな『謎』?」

「名所トリビアクイズだな」

【レインボーマウンテンの正式名称は、ヴィ〇〇〇〇山】

「え? レインボーマウンテンが名前じゃないの? ヴィ? ヴィクトリア山?」

「ヴィニクンカ山です」

「ええ? アリスちゃん、なんで知ってんの?」

「たまたま聞いたことが」

「えええ? なに? 常識ってこと?」

 その後も続いたトリビアクイズにも少女は全問正解した。

「くぅ。他にも『謎』ある?」

 もうひとつは、『体力がゼロにならないように制限時間内でレインボーマウンテンまで山を登りきって戻ってくる』ものだった。持ち物である、高山病の薬、ペットボトル水や酸素ボンベをうまく活用しないと倒れてしまう。

「うわ。けっこうヤバかった。ギリギリセーフ」

 初回で解けるのはかなり優秀なのだが、朔哉は黙っていた。

 もうなにも言われずとも、平野がレインボーマウンテンの前に訪れた名所へと移動する。金色の神像がまぶしい。

「タイのチェンマイだ」

「おぉ~。どこかで写真を見たことあるかも。ピッカピカ。いっかい本物を見に行ってみたいよ」

 チェンマイにも名所トリビアクイズがあり、また少女は全問正解した。

 もうひとつは『数ある寺院をいかに効率よくまわるか』というもので、模範解答はない。何ヶ所行きたいかも自分で設定できる。コース事に他プレイヤーのベストタイムを見ることができ、自己ベストタイムを出すのに燃える仕様になっていた。

「ヤバい。ハマりそう。次は?」

「スコットランドの奇岩だ」

 不思議な形の岩がいくつも立ち尽くしている。

「わー、なんかアヤしい魔法使いが隠れ住んでそう」

「……エディンバラには有名な魔法使いの小説の作者が一時期住んでいたらしい」

「へー」

 今日の少女と同じ服を着たNPCアリスが岩の近くに立っていた。

 やはり名所トリビアクイズに少女は全問正解する。

 もうひとつは、今までのようなはっきりしたゲーム要素はなく『光る輪に入るとワープして別の場所へ移動する』というものだった。

 ヒロシがしたところ、不思議な美しさのある場所にどんどん移動していった。どこもスコットランドの名所らしい。

「こういうのもいいね。癒やされるー。『謎』ってナゾトキだけじゃなくてミニゲーム集なんだね。これはハマるのもわかるよ。MMORPGはやってる時間ないけど、ちょっとだけゲームしたいから、謎アプリの方をインストールしようかなぁ」

 SOUVENIRアプリは、PC版をしない人用に『SOUVENIRの謎』という、『謎』だけを楽しめるバージョンもあるのだと、ヒロシは同僚に教えてもらっていた。

 ヒロシはすっかり『謎』の虜になっていたが、朔哉は厳しい表情だ。

 簡単なトリビア問題とはいえ、中にひとつは調べないとわからない問題が混ざっているのに、偶然にしては少女が『謎』を解きすぎている。

(全問答えられるのは、ただ博識だからなのか? それとも、やはり関係者なのか?)

 次に移動したのは、竹林の中を通る一本道だった。

「あれ? よく見たら、なんか見覚えあるような?」

「京都。修学旅行で行っただろ」

「あー」

 レトロなワンピースを着たNPCアリスが一本道をゆっくりと歩いている。

 京都の名所トリビアクイズにも少女は全問正解した。

「ちょっ、アリスちゃん、今まで全部、全問正解ってヤバいっしょ? それとも俺が物知らずなだけ?」

「いや、かなりすごい。ついでにもうひとつ解いてもらっても?」

「はい」

 朔哉は今まで行った名所とは明らかに違う、いわゆる観光客目的の名所に移動して、そこのトリビアクイズを見てもらった。

「わかりません」

 朔哉は頷くと、今度は観光客目的ではない名所だけど、NPCアリスが少女の知らない服を着ている場所に移動する。

「こっちは?」

「……わかりません」

「え? なんで? 今まで全部答えられてたのに?」

「ですから、今までのは、たまたま旅行話として聞いたことがあっただけなんです」

「今までの話は聞いた?」

「施設にいたおばあさまです。若かった頃は海外にもよく行ったのよ、と話してくださいました。いつも楽しそうに話してくださるので、何回も聞くうちに自然と覚えてしまったんです」

「その人の名前を聞いても?」

「朝倉さんです」

「あさくら……もしかして、家電メーカーASAKURAの朝倉夫人か?」

「あの、その方かどうかはわかりませんが、朝倉さんの名前は桜さんです」

(繋がった!)

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