霞と数量限定ドラゴンパン
スサノオ医院のとある朝。
「おはようございます、霞さん」
「……っ!」
ぺこり。ぴゅんっ。そんな効果音が聞こえてきそうな小動物的な機敏さで霞は逃げてしまった。無口で人見知りな霞を驚かせてしまったかと反省しつつチラシを拾う。
「なになに……パン屋の新装開店セールのチラシ?」
どのパンがお目当てかと探すまでもなく、チラシ一面に大きく描かれた『火を吹くウマさ! 数量限定ドラゴンパン』。可愛らしくデフォルメされたドラゴンの顔型パンだ。
「美味しそう。せっかくだから、みんなの分も買ってこようかな」
「ムリよ。よく見なさい」
「あ、
ひょこりと顔を出した明日羽が、チラシの隅の一文を指差す。そこには『※数量限定につき、おひとり様2個までとさせていただきます』とあった。
「本当だ。三人分は買えませんね……どうしましょうか」
「私はいいから、
「明日羽さん。お姉さんだからって、何でも我慢しなくていいんですよ」
「べ、別に我慢なんてしてないし! 私は二人の喜ぶ顔が見られたらそれでいいの!」
「だったら尚更、二人とも明日羽さんと一緒に食べた方が喜ぶんじゃないでしょうか?」
「うっ。それは……」
「ではこうしましょう」
~~~~~~~~~~
「それで、二人で並んできてくれたの!? うわぁーっ、ありがとうっ!」
結局、若虎と明日羽の二人で開店の行列に並んできたのだった。
「あの……あ、ありがとう……せんせい。アスハちゃん、も」
「どういたしまして。……この笑顔が見られただけで、並んだ甲斐があったわ……」
待望のドラゴンパンに珍しく顔をほころばせながらお礼を言う霞のいじらしさに、明日羽も若虎もつられて笑う。四人揃って「いただきまーす」とパンをかじった、その瞬間。
「「「カラいっ!?!?!?」」」
口内に広がる激烈な辛さ。火を吹くってこういうことか!と強引に納得させられつつ、一転して涙目になった咲茉と明日羽と若虎の三人が同時に見たものは。
「♪ …………?」
にこにこ笑顔で美味しそうに激辛パンを頬張り、不思議そうに首を傾げる霞の姿。
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