全て『カード』で決まる世界で最低ランク『ノーマル』しか入手できない俺だったが特殊職業【合成師】のおかげで、最高レア『ＳＳＲ』までしか存在しないのに俺だけ『ＬＲ』相当の力を手に入れることができて楽々無双

第85話 ノワールの速度

　辰巳が消えた。

　一瞬で俺の背後に回り込み、俺の体を切り裂いたのだ。

　見えなかった。

　まさに消えたとしか表現ができない速度。

　実際に消えていたのか超スピードで背後に回ったのかはまだ判断できない。

　しかし一つだけ言えることがある。

　こいつは――強い。

「辰巳……」

　しかし俺の肉体は再生されていく。

　胸のした当たりで半分に切り裂かれてた体は元通りとなり、俺は辰巳から距離を取る。

「今ので死なないとは……とんだ化け物だな」

「俺らは同級生だろ。それなのに、お前は迷いもなく俺を殺そうと……」

「迷うわけないだろ。お前を殺し、天野を手に入れる。それが俺の目的だ」

「……狂ってしまったのか、辰巳。俺なんか関係なく、由乃にアプローチした方が話が早いだろ！」

「お前を殺した方が手っ取り早いのさ。お前を殺せば、天野の頭の中（・・・）をいじってくれるんだとよ、あいつが」

　頭の中をいじるって……管理者というのはそんなこともできるのか。

　俺はゾクリと背筋を冷やしながらも怒りに頭に血が上っていく。

　目の前にいる辰巳に対して、果てしない怒りが募っていく。

「……完全に狂ってしまったみたいだな！　そんなの催眠術で無理矢理惚れさせるようなものだろ？　そんなことで由乃を手に入れて嬉しいのかよ！」

「ああ嬉しいね！　手に入らない物が手に入る！　今だって普通にやっていたら敵わないはずのお前を超える力を手に入れたんだ！　こんなに嬉しいことはない！」

「俺はこんなにムカつくことないな！　人の想いは自由であるべきなんだ！　強制的に心を操作することなんて、許せない！」

「許せないのはお前の考えだろ？　俺には俺の考えがある。これは俺が成そうとしていることだ。これから死にゆくお前の考えなんてどうでもいい！」

「このっ――」

　俺は【閃光】を発動させ、辰巳に接近する。

　眼前に迫る辰巳の顔。

　俺はその顔面に拳を叩きつけようと意思する。

　だが、そこで辰巳の目がこちらを捕え、奴の姿がその場から消え失せた。

　そんなバカな。

　今は【閃光】を発動している状態だぞ。

　だと言うのに辰巳の姿が消えた？

　どういうことだ？

「うっ……」

　俺の胸を背後からブスリと刺さる剣。

　血を口と胸から漏らしながら拳を後ろに向かって振り回す。

　剣を引き抜き拳から逃れる辰巳。

　傷が一瞬で完治するも、その圧倒的な速度に俺は驚愕していた。

「どうした？　もう降参か？」

「降参？　バカ言うな。降参するのはお前の方だよ」

　こちらを嘲るようニヤニヤと笑う辰巳。

　俺は【心術】を使用し、怒りで暴発しそうな頭を冷やす。

　相手の挑発にも乗らないように、冷静に辰巳の能力を考案する。

　今の辰巳は俺と同じ【閃光】の使い手なのだろうか？

　【閃光】を使用できるとするのなら、あのゆっくりと動く時間の中行動できるのも納得がいく。

　しかしこいつは俺が反応できない速度で背後に回った……

　そう考えると【閃光】の中で行動できるというだけでは説明が付かない。

「行くぞ」

「！！」

　また一瞬で俺の背後に回った。

　後ろでザッと地面を擦る足音が聞こえる。

　俺は咄嗟に前方に飛び跳ね、辰巳の剣から逃れた。

　素早く振り返り、辰巳の姿を捉える。

　だが、すでにそこに辰巳の姿はない。

「こっちだ。のろま」

　まただ。

　またこちらが反応できない速度で移動している。

　俺を超える速度を持ち合わせているということか。

「死ね」

　しかし今度は【障壁】を張っておいたおかげで、直撃を避けることができた。

　弾かれる辰巳の剣。

　俺はニヤリと笑いながら辰巳の顔を視認するが、相手は微動だにしていなかった。

　ムッとした俺は、辰巳の腹部目掛けて回し蹴りを放つ。

　だがやはり圧倒的な速度で攻撃をかわしてしまう辰巳。

「意外とやるみたいだな」

「それはこっちのセリフだ。前はコボルトキングにやられるほど情けなかったのにな」

「…………」

　怒りに顔を歪ませ、ギリギリと歯を噛みしめる辰巳。

　こいつの速度も恐ろしいが、それ以上に警戒しなければならないのはその攻撃力であろう。

　防御力が大きく上がったはずの俺を、軽々と貫いてしまった。

　【障壁】を突破するだけの威力はないようだが……あれが全力だとも考えられない。

　しかし俺はあの速度に対してまだ疑問を持っていた。

　あれは早いだけなのだろうか？

　純粋な速度で背後に回っているだけなのだろうか？

　俺だってルージュたちと戦った時と比べても倍以上は迅く動けるんだぞ。

　どれだけ相手が速いと言っても、こんなに反応できないものなのか？

　いや、違うと思う。

　背後に回られた瞬間、こいつの足音が聞こえた。

　目の前から消えた時は聞こえなかった音が、いきなり聞こえて来たんだ。

　これは反応できない速度で動ているからじゃない。

　本当に目の前から消えているんだ。

　そう考えるのが妥当じゃないだろうか？

　俺は剣を構える辰巳と対峙しながら、音に集中する。

　目で追えないのなら、音で攻撃を判断しろ。

「！！」

　フッと消える辰巳。

　集中だ。この一瞬に神経を研ぎ澄ませ！

　背後から聞こえる風を裂く剣の音。

　俺は裏拳を放つと――それはものの見事に辰巳の顔面を捉えた。

「うぐっ！？」

　鼻血をドバドバ垂れ流す辰巳に俺は言う。

「何だよ。情けないままじゃないか」

「……ぶっ殺す！　てめえだけは絶対にぶっ殺す！」

　激しい光を放ち、激しい怒りに飲み込まれていく辰巳。

　俺は一撃喰らわせた喜びと、一抹の不安を抱きながら奴と向き合っていた。