第84話 第四の管理者

 ダ・ルーズエリアに突入してから5日ほど経った。

 皆少しずつ疲労が溜まっているはずなのだが、そんなそぶりは一切見せない。

 皆が仲間の事を想ってのことであろう。

 辛いなんて言い出したら皆だって辛くなるし心配をかけさせる。

 ここにいるのは仲間思いのいい奴らばかりだ。

 絶対に弱音は吐かないし無駄な心配はかけさせたくない。

 そんな気持ちを隠しながら笑みを浮かべていた。


 俺ならこんな状況どうとでもしてやれるのだが……それを実行すると管理者たちは勇太たちに何をするか分からない。

 できるのにできない歯がゆさ。

 俺は皆の笑顔を眺めながら苛立ちを感じていた。


「まだ先は長いのでしょうか?」

「さあ……でも、絶対先に進んでるはずだ。頑張ろうぜ!」

「はい。でも無茶はしないようにしましょうね」


 会話をしている最中にも敵は姿を現せる。

 皆の疲れが酷くなってきたときは、接近する前に俺が全滅をさせていた。

 だけど今はまだ余力も随分残っているようなので、ほどほどの数を逃して勇太たちに戦ってもらう。

 これで仲間たちの緊張感は途切れず、戦いの感覚も鋭くなっていく。

 俺が皆の状態を管理するんだ。

 

 そう考えながらさらに北上していた時であった。

 遠くに見たことのないモンスターがポツンと見える。


 俺が立ち止まると、勇太たちも一斉に立ち止まった。


「どうしたんだよ?」

「いや……」


 俺はそのモンスターを見据えながら、思案する。

 周囲に他のモンスターもちらほらといる。

 そう考えるとあれは……エリアマスターか?


 九つの龍の頭に長い尻尾。

 頭と尻尾は直接繋がっているるようだ。

 蛇のようにうねうねと動くそのモンスター……勇太たちに勝てるのだろうか。

 まぁ最悪、俺が手を貸せばどうにでもなるんだけど……


「!!」


 そんな答えを導きただした時であった。

 遥か西の方角から、凄まじい殺気のようなものを感じる。

 この世ならざる者の気配のような……まるで生物を超越したような感覚。

 そうか……管理者が来たのか。


 エリアマスターとは勇太だけで戦わせろ。

 そんなメッセージのような物を感じる。


 行くしかないんだな。

 俺は新たな敵と皆を心配する不安を胸に抱きつつ、勇太たちに向き合う。


「ごめん……ちょっとお腹が痛くてさ。ここで休憩していくよ」

「……そっか」


 笑顔を向ける勇太。

 俺はあいまいな笑みを彼らに向ける。


「後から来ればいいけど、迷子になるなよ!」

「俺は子供か」

「では私たちは先に行ってますね」

「ああ」


 皆は俺を置いて先に進んで行く。

 歩き出した彼らはこちらに振り向くことなく、ただ真っ直ぐに歩いている。


 ありがとう、皆。

 

 俺は西の方角に向かって走り出す。

 【鷹の目】で敵の姿を確認する。


 するとそこに見えてきた姿に、俺は驚き、その足を止めてしまう。


「……なんであいつがこんな所に」

 

 俺は唖然としたまま再度走り出し、目に映る彼へと近づいて行く。


「…………」

「…………」


 対面する俺たち。

 相手は憎しみのようなものを含んだ瞳で俺を睨み付けていた。


「……辰巳」


 辰巳健司――

 俺の目の前にいたのは、勇太ともう一人の【勇者】、辰巳健司であった。


 まさか俺たちの加勢に来たのか?

 いや、だけどこの底知れない恐怖心はなんだ?

 こいつは以前の辰巳とどこか違う。

 俺は少し緊張しながら、辰巳を警戒していた。


「人違いだ」

「……いや、辰巳だろ」

「違うな。今の俺は……ノワールだ」

「ノワールって……中二病にでも目覚めたのかよ?」


 俺がそう言うと、ギリっと歯を噛みしめる辰巳。

 こいつとは元々折り合いが悪かったけど……こんなにも殺意を向けられたことはなかった。

 何があったんだ。


「お前、ふざけた能力を持っていたみたいだな」

「どこでそれを……」

「今の俺は管理者、とでも言えば分かりやすいか?」

「……お前が、管理者?」


 俺はその言葉に仰天し、一瞬思考能力を失い呆然とする。

 だがこいつの内から感じるその凄まじいエネルギー……

 俺は瞬時にその事実を受け入れ、警戒心をさらに強くする。


「なんで管理者なんかになったんだよ」

「……お前の傍に天野がいることが許せなかった」

「ゆ、由乃?」

「あいつのことを気安く名前で呼ぶんじゃない!」

「…………」


 辰巳から発する凄まじい光のエネルギーに大地には深い亀裂が走る。

 俺は辰巳と距離を取り、臨戦態勢に入った。


「お前がいなければ、あいつは俺の物だったはずだ……」

「い、いや……あいつとは何の関係もないぞ、俺は」

「……お前は天野の視線に気づいてなかったのか?」

「視線……って?」


 怒りに顔を歪ませる辰巳。

 プルプル震える拳を握り締め、奴は怒声を発した。


「ふざけるな! あんな良い奴の気持ちになぜ気づいていないんだ! ふざけるな……ふざけるな、島田ぁ!!」


 辰巳は憤怒の様子のまま腰に帯びていた剣を引き抜いた。

 本気で掛かって来るつもりか……


 そう考えた時には、すでに俺の体は奴の剣に引き裂かれていた。


「……えっ?」

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