第83話 司と勇太

 ダ・ルーズエリアを超えた北の果て。

 そこに魔王エールキングの城があるそうだ。


 俺たちはモンスターと激しいバトルを繰り広げながら、北上を続けていた。


「この先に城なんて本当にあるのかよ」

「分からない」


 勇太と円がモンスターを切り裂きながら若干の不安を含んだ声でそう言う。

 俺はこの先をあらかじめ見て回っておいたので、城があったのは確認済みである。

 俺だってあるのかないのか疑う気持ちがあった。

 この目で実際に城があるのを確認しておきたかったし、勇太たちに無駄足を踏ませくもなかったのだ。

 なのでそれをしっかりこの目で見て来た俺は、ハッキリとした声で言う。


「必ずあるはずだ。うん。絶対にある」

「……そっか! 司がそう言うんなら間違いないよな!」


 親指を立て、笑顔を向けて来る勇太。

 眩しいその表情。

 やはりこいつにこそ勇者は相応しい。


「勇太」

「どうした?」


 俺は勇太の隣を歩き、クロスボウで敵を弱体化させながら話す。


「不思議で仕方なかったんだけど、何で俺はお前からそんな評価してもらってるんだ? 別に特別仲が良かったわけでも、俺が何かしたわけでもないじゃないか」


 そうなのだ。

 同じクラスメイトではあったが、別段仲が良かったわけでもないし、そもそもがそんなに会話をするような仲でもなかった。

 なのに勇太は俺のことを良い奴判定していて……少し戸惑うものもある。

 由乃もそうだが、何故そんな俺のことを評価してくれているのか、それが気になっていた。

 この冒険も佳境に入り、俺は無性にそれだけは訊いておきたくなったのだ。


「んー……ほら、武田が前イジメられてたじゃんか?」

「ああ」


 『もやし』なんて不名誉なあだ名をつけられていた同級生。

 それをイジメていた彼の中学時代の同級生の手を止めさせたのが勇太であった。

 その武田の話が何で出て来るんだ?


「あの時武田が顔を腫らせて登校してきた時にさ、あいつに話しかけようとしてたの、お前と磯さんぐらいだったじゃないか」

「ま、まぁ、結果的に話しかけられなかったけどな」

「それに、知ってるんだぜ」

「何がだよ」

「俺が喧嘩しに行った時、お前も来てくれてただろ?」

「…………」


 俺は元々喧嘩をするようなタイプではない。

 だが、武田をイジメている連中がどんな奴らなのかというのを確認しておこうと彼らのところへ向かったのだ。

 何かできるわけでもないし、武田と仲がよかったわけでもない。

 だけど父親がいつも人助けしているのを見ていて、居ても立っても居られなくなったのを記憶している。


 実際に怖そうなあいつらを見て、俺は逃げ帰ろうとしていた。

 しかしそんなタイミングで現れたのが勇太だ。

 怖そうな奴らに堂々と近づいて行き、イジメを止めて金を返せと怒鳴り散らしていた。

 そこから喧嘩が始まり壮絶な殴り合いを繰り広げた勇太。

 勇太は喧嘩が強かったが、多対一での戦いだ。

 見ている方もどちらが勝つのか分からない状態で、俺はドキドキしながらそれを遠くから眺めていた。


 そして相手を倒していき、立っている相手は一人だけという状況となる。

 勇太はフラフラの体で相手と対峙し、そこで強烈な一撃を貰って気絶してしまったのだ。

 キレていた男は勇太に馬乗りになり、まだ殴るつもりのようだった。

 そこで俺は咄嗟に飛び出して行き、奴の頭に飛び蹴りをお見舞いした。


 気絶していた勇太を電柱にもたれかけさせ、100円均一で購入してきた黒いテープで男たちの腕を後ろでグルグル巻きにして俺はそのまま帰って行ったのだが……そうか。

 あの時勇太は、意識があったのか。


「皆が武田のことを見捨ててたってのに、お前だけはああやって一緒に来てくれてたろ? お前は目立たないけど、陰で何かをしている、縁の下の力持ちタイプなんだってあの時分かったんだよ」

「勇太……」

「今だって下級職である【戦士】だけど、自分ができることをやってくれている。普通だったら逃げるとこなのに、俺たちと一緒に行動してくれてるじゃないか」

「……一緒に行動してくれてるのはお前たちの方だろ」

「そうだっけ? まぁ細かいことはいいや。それにさ……あの時みたいに陰で何かやってくれてそうな気がするんだよな」


 俺は勇太の言葉にビクッとする。

 勇太は俺のそんな反応を見て、ニコリと笑った。


「お前が話さないってことは言えない事情があるってことだろ? だから俺は何も聞かない。だけど悪だくみとかそんなことじゃない。絶対俺たちのために何かやってくれてるんだ。俺はそう信じているしそう確信してる。お前はいつだって誰かのために行動してくれるいい男だ」


 勇太の言葉に涙が込み上げて来る。


「お腹が痛いとか体調が悪いとか、そんなことで仲間を危ない所に向かわせて自分だけ安全な場所にいる。お前はそんな奴じゃない」

「…………」

「絶対にそんな奴じゃないんだ。お前は」


 俺は勇太の言葉に涙を堪え続けていた。

 まさかこんなに真っ直ぐ俺のことを信頼してくれている人がいるなんて……

 勇太たちに俺の行動を知ってほしかったわけじゃない。

 皆が無事でいてくれるならそれでいいと俺は思っていたけど、こうして俺を理解してくれている人がいるという事実に、胸が熱くなり込み上げるものがある。


 報われなくてもいいと思っていたことが、救われたような……そんな気分だった。

 勇太はとびっきりの笑顔を見せ、親指を立てる。


「何をしてるかは知らないけどさ、お前のことは信じてるぜ」

「ああ。俺も勇太なら魔王エールキングに勝てるって信じてるよ」

「ああ!」


 俺たちは笑みを向け合い、拳と拳をコツンと合わせた。

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