第79話 仲間たち
《ホルダー》の一番下――新規で入手したカードの中に【通信】というものがあった。
通信:レア度――
頭に思い描く人と念波で会話することができる
「…………」
レア度はない……特別製ってことか。
これを使えば由乃と話をできる。
だけど会うことはできない。
会話ができるだけでもう会えないんだ。
俺は悔しさと胸の痛みに柱を殴りそうになる。
しかし寸前のところで思いとどまった。
駄目だ。
俺が八つ当たりしたら建物が壊れてしまう。
簡単に物を壊す力はあるのに由乃の下に行く力は無い。
それが悔しくてまた柱を殴りつけそうになる。
俺はベッドに再度座り、重い気持ちで由乃のことを思い描く。
「……由乃」
(え? 司くん?)
頭の中に由乃の言葉が鳴り響いている。
その声は驚きと喜びが混じり合ったものであった。
俺は愛しくも感じられるその声に、辛さを覚える。
「ごめん……もうそっちに行けなくなった」
(……どういうことですか!?)
「能力を制限されてしまったんだ。もう世界を行き来することができない」
(そんな……)
由乃の悲しそうな声。
そして彼女のすすり泣く声が聞こえて来る。
(もう……もう会えないんですか?)
「分からないけど……現状そうだとしか言えない」
(司くんは凄まじい能力で塔を攻略して、世界さえも変えてしまいそうな力があったじゃないですか! それでも、それでも無理なのですか?)
「俺には世界を変えるような力は無いんだ……」
なぜ俺には破壊的な力しかないんだ。
何かを生み出すような力があれば、こんな問題だって解決できるのに。
怒りに近い感情で、握り締めた拳を見下ろす。
(じゃあ……この世界はどうなるんですか?)
「…………」
(また皆、あんな辛い日々を生きて行かなければいけないのですか?)
「…………」
由乃の問いかけに何も答えることができない。
約束したのに……約束を果たせない。
なんとかするって言ったのに。
なんともならないのが歯がゆくて悔しい。
その後は二人して何も言葉を交わさないまま、ただ無意味な時間が過ぎて行った……
◇◇◇◇◇◇◇
「ど、どうしたんだよ、司!? メチャ顔色悪いじゃねえか」
「あ、ああ。大丈夫だよ」
翌朝。
宿屋の外で集合した際、勇太が心配そうに俺の顔を覗いてきた。
結局一睡もできず、ベッドの上で悩みに悩んだ。
あちらの世界に行くことはできないが、俺にはやるべきことがある。
勇太たちのサポート。
そして、管理者との戦いが待っているはずだ。
由乃に会えないのはショックではあるが世界は待ってはくれない。
どれだけ辛かろうがどれだけくじけようが時間は進んで行くのだ。
ゆっくりでも前に前に進んで行くしかないんだ。
俺と同じ世界から来た由乃が俺の服の袖を握り締め、笑顔を向けて来る。
優しい笑みを浮かべる由乃。
彼女と同じ顔をしたその笑顔に胸が苦しくなる。
俺は苦笑いをして、由乃から目を逸らす。
「き、北へ向かうんだよな。なら早く行こう。一刻も早くこんなバカみたいな世界のことは終わらそう」
「お、おう……本当に大丈夫か?」
「大丈夫。俺は大丈夫だ、勇太」
勇太だけではなく、磯さんも円も俺の顔色を窺うようにこちらを見ている。
俺は出来る限り心配をかけさせないように、無理矢理に笑顔を作り、いち早く歩き出す。
「ほら、さっさと行こう。最後のエリアをクリアして、元の世界に戻ろうぜ」
「……ああ」
俺たちはアルベンの町を出て、そのまま真っ直ぐに北上して行く。
道中、デスフロッグとドラゴンフライが大量に姿を現す。
勇太たちが襲い来るモンスターを倒し、俺は密かにクロスボウで距離のある敵を撃ち貫いていく。
出来る限り勇太たちのレベルを上げるんだ。
強大な敵は残り二匹……
ダ・ルーズのエリアマスター。
そして、
皆にはまだ成長の余地があるはず。
あちらの世界に手を出せないなら、せめて今できることを全力でやろう。
とにかく勇太たちを全力で守る。
勇太たちを強くして、この先の戦いに勝てるようにしてやる。
向こうの世界に干渉できない辛さを埋め尽くすかのように、俺は敵を撃つことに没頭していた。
そこからモンスターを倒しながら北へ北へと進んで行き4時間ほど経過する。
遠くの方にどんよりとした雲が見え、稲光が走っていた。
俺たちの頭上にあるカラッとした天気ではなく、真っ黒な雲が浮かんでいるようだ。
段々と空の様子が変わるのではない、無理くり張り付けたかのように、ある線から黒い雲が浮かんでいる。
「あそこからダ・ルーズエリアか」
「おう! なんかヤバそうな雰囲気だな!」
「気をつけなきゃ」
遠くに広がっている禍々しい景色に、皆息を飲み真剣な表情を浮かべていた。
だが勇太は突然俺の方に振り返り、笑顔で親指を立ててくる。
「司! 何があったか知らないけど、俺はずっとお前の味方だぜ! 辛いなら俺がお前の分も戦うから、しんどかったら言ってくれよな!」
「おう! 俺もお前のことを全力で守ってやるからな!」
円も二人の言葉に頷き、由乃は笑顔を向ける。
「皆……ありがとう」
俺は一方的に皆のことを守っているような気持ちでいたが、今それは間違いだったと気づいた。
俺も皆に心を守られているんだ。
辰巳たちから離れた時もそうだった。
俺は一人じゃないんだ。
その事実に笑顔が溢れ、皆の優しさに涙を流しそうになる。
向こうの世界のことは今はどうすることもできない。
だけど、何があっても勇太たちのことは守って見せる。
皆が俺を守ってくれようとしているように、俺だって全力で皆を守ってみせよう。
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