第77話 封印
「ダ・ルーズエリア……最後のエリアに侵入すると、そこから先に町は無いみたいです」
「ってことは、ここが最後の町になるのか……」
アルベンの宿で勇太たちがこれからのことを話し合っていた。
俺も一応参加をしているが、向こうの由乃のことを考えていて身に入らない。
いや本当にすいませんね。
「いっぱいカード持って行かないと」
「そうだな。必要な物を買って、それから北に向かうとするか。司もそれでいいよな?」
「え、ああ」
話し合いは終わったようで、皆は町へカードの交換へと向かう。
俺も一緒について行くが、そもそもレア以上のカードに触れることもできないので、皆の様子を眺めるだけ。
いまだに皆は快く食事を分け与えてくれる。
少し申し訳ない気持ちがあるので、交換に必要なカードは俺が店主に手渡す。
「司、気にすんなよ」
「そういうわけにもいかないよ。こうして俺がカードを払ったほうが対等のような気がするんだ」
「そんなことしなくても俺たちは対等だぜ!」
「おう! そうだ!」
勇太と磯さんが親指を立ててそう言ってくれる。
由乃と円も頷き、彼らに同意した。
胸がジーンとし、俺はまた彼らに対して感謝の念と、守ってあげたい気持ちを再確認する。
絶対に皆を生きて元の世界に戻す。
そのために出来る限りのことをしよう。
このまま勇太たちには何も知らないまま、
そして俺は、管理者の奴らと決着をつける。
出しゃばらないように、だが確実に守れるように、勇太たちを陰ながら支えて進んでいく。
それが一番安全策なのではないだろうか。
「…………」
由乃が何か言いたそうに、俺の方を見ている。
俺は一旦思考を止め、彼女に声をかけた。
「どうした?」
「いえ……」
何度も葛藤している様子の由乃。
そして笑顔でため息をつき、俺を見上げて言う。
「全部終わったら、お話があるんです」
「そ、そう。分かった。覚えておくよ」
「はい。なので、絶対に生きて帰りましょう」
「……ああ」
由乃の言葉に俺は力強く頷く。
どのような話を伝えようとしているのかは分からない。
だけど、絶対に生きて帰って来よう。
しかし俺は彼女を見て、向こうの世界の由乃のことを思い浮かべる。
俺は……全部終わったらどうするんだろうか。
勇太たちと元の世界に戻るのか。
それとも由乃が待つ世界へと移り住むのか。
まだ俺はそのことを決めかねていて、目の前にいる由乃の笑顔を見て迷い続けていた。
「帰ったら焼肉行きたいな。ほら、駅近くに食い放題の店あったろ?」
「ああ。美味くて有名な店だろ?」
「ああ。皆であそこ行こうぜ。それで腹いっぱい食って、元の生活に戻ったーって胴上げだ!」
「胴上げはいらないだろ」
「おう! 胴上げするぞ!」
「いや、しなくていいでしょ。店にも迷惑だから」
愉快に終わった後のことを語り合う勇太たち。
皆笑顔で、まだ残っている戦いのことは忘れてしまったかのように楽しそうだった。
町でカードの交換を終えると夕方となり、世界が赤く染まっていく。
ひと時のことではあるのかも知れないが、本当に穏やかで楽しい時間を過ごすことができた。
宿に戻り由乃が台所を借り食事を用意してくれる。
出てきたのは肉と野菜炒めだ。
「うめー! やっぱ由乃は料理美味いよな!」
「おう! 最高じゃねえか!」
由乃が作った料理は本当に美味かった。
肉のうま味に野菜の甘みを完全に生かした完璧な調理。
必要最低限の調味料を使い、最高のパフォーマンスを引き出すその能力。
向こうの由乃と比べても勝るとも劣らない。
同じ物を使っているのに、何故この世界の人たちとこんなに差が出るのだろうか?
不思議で仕方がないよ。
食事を終え、それぞれのベッドに戻る俺たち。
今日一日の余韻に浸りながら横になる俺。
鼻歌交じりで何気なくステータスを開く。
「!!」
俺はガバッと起き上がり、
『君の持つ【帰還】の能力に制限をかけさせてもらった。向こうの世界に行くことは禁止にさせてもらう。向こうの世界のバランスまで崩されるのは非常に困る。あっちはあっちでそこそこ完璧な設定になっているんだ。向こうの由乃とはお別れだけど、会話ぐらいは可能にしておいてあげるよ。君の《ホルダー》にカードを送って置いたから自由に使ってくれ』
「…………」
心臓がバクバク鳴っている。
恐怖と不安に胃が痛くなる。
汗が噴き出てシャツがびっしょりだ。
俺は焦る気持ちで【帰還】を発動させ、向こうの世界へと移動を試みる。
が、
「……なんでだよ! 飛べよ! 飛べ!」
どれだけ念じても。
どれだけ力を込めても。
どれだけ祈っても、能力が発動することは無かった。
管理者……奴らの手にかかればこんなの容易いことなんだ。
俺は絶望感を覚え、放心状態で天を仰ぐ。
もう……由乃に会えない?
そんな急にどうして。
なんでこんなことできるのなら今まで放っておいたんだ。
こんなことなら、最初からこんな能力を俺に与えるなよ!
こんなことなら……向こうの世界を、由乃を知らなければ良かった。
気が付けば俺は、静かに悲しみの涙を流していた。
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