第65話 決勝戦①

 勇太の準決勝はものの数秒で決着がつき、司がルージュらと戦っている間にバロウとの決勝戦が始まろうとしていた。


 右手に持った棍棒でポンポンと手のひらを叩くバロウ。

 勇太は銀の剣を手に取り、怒りを抑えながら奴と対峙する。


「やれー、バロウ! 新参者なんかに負けるな!」

「ユウタってやつも頑張れ! お前ならバロウに勝てるぞ!」

「どっちでもいいからぶっ殺せ!」


 ワッと大盛り上がりをみせる決勝戦。

 勇太もバロウも地響きのような声援に緊張の欠片も見せず、お互いに睨み合うだけであった。


 ただし、真剣な勇太とは対照的に、笑いを堪えているバロウ。

 勇太の顔を見ながらバロウは普段よりも高めの声で言う。


「なあ、俺に手を出したらどうなるか分かってるよな?」

「ああ。人質を殺すってんだろ? 外道の考えはお見通しさ」

「その外道にやられるのがお前ってわけだが……はっ! 他人のために手を出せないなんて、俺には考えられねえよ。本当、バカだよな、お前らは」

「バカでも外道よりはましだ。人間として大事なもん失うぐらいなら、バカのまま死んでいくよ、俺は」

「……だったら、バカらしくバカみたいに死んでいけ」

「死ぬつもりは一切ねえけどな」


 勇太が手を出せないを十分理解しているバロウは、歩くような速度で勇太に近づいて行く。

 そして渾身の力で棍棒を勇太の剣に叩きつける。


 力強い一撃だが勇太は、その攻撃に耐えてみせた。


「……お前、どれだけ強いんだよ」

「お前ぐらいなら武器を使わずに片手でも勝てるぐらいは強いんじゃねえの?」

 

 くくくっとバロウは笑い、ギロリと勇太を睨みながら棍棒を左右から何度も振るい始める。


「オラオラ! 弱い俺の攻撃でも、いつまでも耐えれるもんじゃねえぜ!?」

「軽すぎてあくびがでるぐらいだぜ。これ、一生続けるつもりか?」


 ニヤリと笑いながら軽々と攻撃をいなす勇太。

 バロウはその態度に憤慨し、攻撃の勢いをまして行く。

 だが、二人の実力には大きな差があり、全力を振るうバロウ相手にも軽く立ち回る勇太。


「くっ……」


 いつ度となく攻撃を弾かれ、後ずさるバロウ。

 だがそこで片頬を上げ余裕を見せ始めた。


「なあ、この大会のルールは把握してるか?」

「なんでもあり……だったよな」

「ああ。武器もあり、魔術もあり、殺しもありだ。そして――」


 バロウはポケットの中に忍ばせていたカードを取り出し、「リリース」の言葉を叫ぶ。


「どんな手札を切ってもいいんだよ!」

「うっ!」


 それはアタックカードの【砂嵐】。

 レア度はRで、相手の視界を封じるという性能である。


 咄嗟に剣で砂を防ごうとするも、風に乗ってそのまま勇太の目の中へと侵入を許す。

 

「どうだ? 見えねえだろ? 片手で俺に勝てるみてえだが――視界が無かったらどうなんだよ!?」


 ゴンッとバロウの棍棒が勇太の頭部を捉える。

 ダラーッと血を流し、その場に膝をつく勇太。


「てめえ……」

「おら、どうした? もう終わりか?」


 ニヤニヤと笑いながら挑発するバロウ。

 勇太は立ち上がり、目が見えないまま一歩前に出る。

 すると。


「がっ――」


 勇太の目が見えないうちに設置されていた【トラップカード】。

 全身に凄まじい稲妻が走り、痙攣を起こす勇太。

 バロウは声を大にして笑い、倒れた勇太を棍棒で殴りつける。


「どうだ!? 一方的に死んでいく気分はどうだ!?」

「最悪だよ、この野郎!」


 目が見えなくなり、身動きが取れない勇太。

 そんな勇太相手にバロウは容赦なく殴る。殴る。殴る!


 全身打撲に頭部は骨折。

 左手も棍棒から頭を庇ったことにより粉砕骨折をしていた。


「がはははっ! お前の死は決定した! だが俺を挑発した罪は重い! ゆっくりと死んでいってもらうぜ!」


 棍棒をカードに戻し、今度は勇太の顔面に蹴りを放つバロウ。

 吹き飛んだ勇太は大地に背をつき、天を見上げる。


 まだだ。

 まだ終わりじゃない。

 俺には……俺たちにはあいつがついてくれている。

 俺は絶対に死なない。

 こいつに勝つチャンスはいずれ訪れるはずだ。


 それまで情けなくても絶え凌ぐんだ、俺。


 亀のように縮こまり、両手で自分の頭を守る勇太。

 手も足も出せない状況だが、一筋の希望に全てをかけて、暴力を愉しむバロウの攻撃に耐え続ける。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 ルージュの両手に爆発するエネルギーがたまっていく。


「今度こそ殺してやるから覚悟しな」

「――――」


 水の中で呼吸ができない俺を見据え、ルージュが加速する。

 勝負をつけるつもりだ。

 

 これまでとは比較にならないほどの爆発を起こしながら突撃するルージュ。

 あれを喰らえば――俺の体は消し飛んでしまうであろう。

 防御力無視の攻撃なのだろうか。

 俺の防御力をもってしても、耐えることができない代物。


 こうなったら、こちらも全力で抵抗するしかない。

 いまだ使ったことない能力を解放するしかあいつらに勝つ術はない。


 俺は水の棺の中で次の攻撃に備え、【集中コンセントレーション】を発動する。


 行くぞ。

 勝つにしても負けるにしても、これで決着だ。

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