第59話 バジリスク
漆黒の空間に5人の男がいる。
そのうちの一人、血のように真っ赤な髪をした男が口を開く。
「今回は俺らが行って来る」
「そうかい。気をつけてくれよ」
赤髪の男は鼻で笑いながら話を続ける。
「気をつけるもなにも、俺らが負けるわけねえだろ。そいつがどれだけ強かろうと、二対一だぜ? 余裕に決まってるだろ」
「どうだろう……ただ、ブランも三獣神の二匹もやられてしまった。彼のステータスはこちら側からでは確認できないようになっているしね」
「何で確認できねえんだよ?」
肩を竦める男。
赤髪の男はまた鼻で笑う。
「何者かが、こちらに彼の実力を把握できないように介入しているのかもしれないね」
「何者かって……そんなことできる奴がこの世にいるのかよ?」
「……俺と同じ立場の者なら、あるいは」
「笑わせんじゃねえよ。お前と同じ立場の者なんて、そこにいるそいつぐらいじゃねえのかよ?」
「…………」
赤髪の男に指差された男は直立して目を閉じるだけで反応を示さない。
「無視かよ。ムカつく野郎だな」
「ふっ。彼は照れ屋なのさ」
「照れてるようには見えねえけどな!」
踵を返す赤髪の男。
それに続いて歩き出す蒼い髪の少年。
「じゃあ、行って来るぜ。そいつといたらイライラするしな」
「ああ。期待してるよ」
「期待するまでもねえよ!」
闇に消えて行く二人の男。
腕を組んで話を聞いていたもう一人の男が口を開く。
「……あいつは今、そんなに強いのか?」
「そうだね……数値を確認できないから何とも言えないけれど、常軌を逸している力を有していると言えるだろう」
「どこでそんな力を?」
「さあ? 君はどう思う?」
男は直立している男にそう訊く。
だが沈黙だけが続き、くすりと笑う男。
「無言、か。まあそれもいいだろう。何を企んでいるのかは知らないけれど、せいぜい俺を楽しませてくれ」
「…………」
◇◇◇◇◇◇◇
勇太と磯さんの武闘会は続くが、俺の夜の活動も続く。
夜な夜な宿を抜け出し、【鷹の目】で町の周囲を視認する。
ここから西の方角に新たなモンスターを発見。
俺は当然のごとく、そちらに行くことにした。
【飛翔】を発動し、宙を蹴って弾丸のような速度で進む。
これは走るより楽だわ。
一蹴りでドンドン飛んで行ってくれるんだから、地面を走るのはもう無理。
少し違うが、母親が電動自転車が楽だって言ってたけれど、こんな気持ちだったのだろうか。
とにかく楽々移動できるというのはありがたい。
空を駆けているとあっという間に目的地に到着する。
およそ2キロほど離れていたはずなのに一瞬で到着してしまった。
周囲には湖が多くあり、地べたは動きにくい場所である。
そこをぬるぬると徘徊しているのは……大きな蛇型モンスターで
あった。
全身黒色で顔は蛇よりも龍といったほうが近いような気がする。
体は人間よりも遥かに大きく、俺はこのモンスターのことを見上げていた。
邪悪な赤い目をしており、こちらを確認するなりその目を光らせる。
「?」
一瞬身体にピリッとした感覚があったら、特に何も効果は見られない。
最近強くなってきたので余裕の態度で登場していたが……やはり慎重に行った方がいいかもしれないな。
うん。何事も慎重に行こう。
【潜伏】を発動すると、奴はこちらの姿を見失っていた。
よし、【潜伏】の効果があるということは、楽に立ち回れると言うわけだな。
俺はウキウキ気分で《ホルダー》から【鉄の剣】を探し出す。
鉄の剣+4:レア度N ランクSSS
攻撃力1480
追加効果・二回攻撃
二回攻撃ってゲームなんかじゃダメージが二回入るから分かりやすいけど、実際に使ってみたらどんな感じなんだろうか?
早速に【鉄の剣】を取り出し手に握る。
いまだキョロキョロしているモンスターの背後に回り、俺は剣を振り下ろした。
すると剣の残像が生まれ、実体の分と合わせてモンスターの背中に二筋の切り傷が生じる。
二発の斬撃を喰らったモンスターは、綺麗に三等分に切り分けられ絶命した。
慎重にやったはいいけど、やっぱり楽勝は楽勝だな。
俺は剣をクルクル右手で回しながら左手で『ホルダー》を確認した。
バジリスクカード:レア度N
俊敏が1%上昇する
蛇型モンスターの名前はバジリスクか。
確かバジリスクって、敵を石化させるとかって聞いたことあるな……
もしかして、さっき目を光らせたのは、俺を石化させるため?
俺は身震いをして周囲を徘徊しているバジリスクに視線を向ける。
【石化無効】を所持していて良かったぁ。
無効スキルがなければ、今頃ここで石になってたってことだよな。
スキル様々だよ。本当に感謝だ。
ここで召喚を使ってモンスターが石化させられても困るな……
よし。バジリスクは自力で狩るとしよう。
そう考えた俺は一度デスフロッグらがいる場所へと飛び、召喚モンスターを解き放つ。
そしてバジリスクの下まで戻り狩りを再開させた。
ズバズバと剣で斬り捌きながら砂利道を走る。
そのまま勢いよくバジリスクを倒し続け、気が付けば太陽の日が差し始め、俺はボーっと日の出を眺めていた。
「……やりすぎた」
こんな時間までやるつもりはなかったというのに。
ま、また強くなれるからいいんだけどね。
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