第60話 準決勝

 夜はバジリスクとの戦闘、勇太と磯さんの大会を応援する、残った時間は皆とアルベンの町の周囲でモンスターと戦う。

 ここ四日間ぐらいはそんなルーティーンで行動をしていた。


 勇太と磯さん、二人とも危なげもなく順調にコマを進め、とうとう準決勝の出場を決めてしまい、その夜は宿屋の食堂で大盛り上がり。

 目の前に出された食事も由乃が作ったものなので美味しく、楽しい時間が流れる。

 それも今日は俺の好物であるトンカツなのだから、テンションはさらに上がるという物で。


「美味い!」


 由乃が調味料などを合わせて甘めのソースを作り、それをくぐらせたトンカツはサクッとした衣で肉汁たっぷり。

 これがまたご飯に合うんだよなぁ。

 俺は幸せな顔でトンカツを頬張っていたようで、由乃がそんな俺の表情を見つめて笑みを浮かべていた。


「な、何?」

「いいえ。嬉しいんですよ。そんなに喜んで食べてくれてるのが」

「いや、美味いよ。本当に美味い」

「マジで美味いよな。これなら明日も勝てそうだ。カツだけに」


 勇太も磯さんと話をして、喜びながらトンカツをガツガツと食べている。


「明日は磯さんがあいつと戦う」

「おう! バカ野郎だな!」

「それはある意味正解だけど、バロウだよ、磯さん」

「おう! どっちにしてもあいつには負けねえぜ!」


 バロウの戦いを何度か拝見したが……本当に性格の悪い奴、という印象しかない。

 まぁそこそこ強いんだろうけど、戦い方が酷過ぎる。

 棍棒を武器に使っているのだが……その理由は明白だ。

 対戦相手をいたぶるために、殺傷能力の低い棍棒を使っている。

 一撃で殺すことなく、徐々にいたぶりながら相手を弱らせていく。

 見ているだけで吐き気を催すような戦いっぷりだ。

 

 俺の見立てではあるが、勇太は当然として、磯さんでもバロウ相手なら間違いなく勝てるだろう。

 俺のフォローがあったというのもあるが、磯さんもここまで生き延びてきた立派な戦士だ。

 あんなクソみたいな戦い方をするような奴とは違う。

 愚直なまでな真っ直ぐさでその実力を高めてきた人だ。

 勇太と戦うまでもなく、明日であいつとは決着がつく。


 勇太もそのことを何となく把握しているようで、余裕のある表情で食事を楽しんでいる。

 あいつをぶっ飛ばすのは勇太のはずだったが、仲間が代わりにやってくれるならそれでいいだろう。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 準決勝の朝。

 勇太と磯さんは闘技場の一階奥へと進んで行き、俺たちは観客席へと向かう。

 準決勝にもなると観客の声援もより一層大きな物になり、耳を塞がなければうるさ過ぎて不愉快なレベル。


 周囲ではどちらが勝つか賭けなんかしている人も大勢いる。

 由乃が何かこちらに話しかけてくるが、全く聞こえない。

 俺が顔を近づけると、由乃は耳元で怒鳴るように言う。


「磯さん、勝てますよね!?」

「そうだと思う! 負ける要素はない!」


 うん、と首を縦に振る由乃。

 そして磯さんとバロウの戦いが今まさに始まろうとしていた。


 盾と槍を持ち、バロウとの距離をすり足で縮めて行く磯さん。

 バロウは磯さんの実力を舐めているのか、ニヤニヤしながら棍棒を振り回している。


「オラッ!」


 バロウの攻撃を盾で軽く受け止める磯さん。

 同時に槍を突き出し、バロウの肩辺りに突き刺す。


「ううっ!?」


 磯さんの以外な強さに驚きを隠せないバロウ。

 そのまま奴はとち狂ったのか、磯さんに突進する。


「おう! 離れろ!」

「――――」

「!?」


 磯さんの耳元で何かを囁くバロウ。

 すると磯さんから離れ、またニヤつきながら棍棒を振り下ろす。

 盾でそれを防ぐが……何か様子がおかしい。

 磯さんに反撃をする様子が見られない。

 どうしたんだ?


「肩、痛かったぜ! お前も処刑することを決定した!」


 バロウは止めどなく棍棒で磯さんを叩きつけていく。

 磯さんは依然として、反撃はしない。


「ど、どうしたんでしょうか……?」

「分からないけど……バロウに何かを言われていたようだ」

「反撃できないなんて、何を言われたんでしょうか?」

「…………」


 俺たちは不安を抱きながら磯さんたちの戦いを見届けていた。

 バロウの攻撃に、徐々にダメージを負っていく磯さん。

 いくら磯さんの方が強いからと言っても、反撃しないんじゃいつか殺される。


 磯さんは何度も何度も攻撃を喰らい、槍と盾を持てないほどにフラフラとなっていた。


「い、磯さんが死んでしまいます!」

「危険……」


 息を飲む由乃と円。

 バロウは醜い笑みを浮かべながら、大きく棍棒を振り上げる。


「死ね」

「お、おう! この卑怯者が!」


 血まみれの磯さんはバロウを睨み付ける。

 目の前で行われようとしている公開処刑の光景に、観客たちのボルテージは上がっていくい。

 俺は舌打ちし、《ホルダー》から【骸骨の仮面】を取り出した。

 さっとそれを被り、【閃光】で二人の間まで一瞬で移動する。


 パシッとバロウの棍棒を右手で受け止め、それを粉々に砕く。


「なっ!?」


 驚愕するバロウ。

 急に現れた俺の姿と、棍棒を潰されたことに驚いているのであろう。


「何だあいつ! 乱入しやがった!」

「何やってんだよ!」

「ルール違反じゃねえのか!?」


 観客たちからブーイングの嵐が巻き起こるが関係ない。

 俺は心を氷のように凍てつかせながら、バロウを見据えていた。

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