第57話 バロウ
「えらい人の数だな」
「ああ。だけど何でこんなに人が集まってるんだろうな? ただ強い人を決めるだけなんだろ?」
俺たちの会話を聞いていた戦士が、「は?」と短く漏らし会話に参加してくる。
「そりゃ、優勝したらいいカードを貰えるからだよ」
「カード?」
「ああ。優勝賞品ってやつだな。毎回SRクラスの武器を景品にしてるから、皆躍起になってんだよ。SRの武器があれば、戦闘が一気に楽になるからな」
「へー。そうなんだ。そういや、武器ってまだRだったな」
勇太が持っている銀の剣。
以前エキルレの町で貰ったものだ。
そういや武器ってレア度の高いものをドロップしないが……結構レアなんだな。
由乃たちもようやくRのカードを手に入れたぐらいだ。
だけど確かにSRぐらいの武器を入手したら戦闘力は向上するだろう。
それを手に入れるために、武闘会に参加するのか。
「参加してくるか、勇太?」
「うーん……だけど極力人間と争うようなことはしたくないんだよな」
「まぁ、そうだよな」
「では、私たちは見学だけですね」
「だな」
まだこの時間では武闘会のエントリーしかしていないようだ。
武闘会の開始時間は午後から。
また後から来るか。
そう考えた俺たちは闘技場を後にする――はずだったのだが。
「や、やめてください!」
「なんだなんだ?」
勇太が声の方へと走っていく。
俺たちも勇太を追いかけて闘技場の奥の方へと向かう。
するとそこには大きな男が女の人を無理矢理抱き寄せ、ニヤニヤと笑っている姿があった。
男は2メートルはあろうかという身長にプロレスラーのような体格。
逆立てた茶色い髪は短髪で見るからに人相が悪い。
赤い鎧を身に纏っており、周囲にいる人たちは彼に恐れて距離を取り始めていた。
「バ、バロウだ……」
「バロウの奴、また女を横取りするつもりだぜ」
「可哀想にな、あの男」
バロウ……確か、昨日も戦士たちの会話にその名前が出てきてたよな……
そんなに有名人なのか?
「は、離してくれ! カレンを離してくれ!」
バロウと呼ばれる男の前で膝をついている男が叫ぶ。
その男は銀色の髪でそこそこ美形ではあるが、弱々しい雰囲気を纏っている。
今も勇気を振り絞って、なんとか叫んでいるようだ。
「リュート、助けて……」
バロウに捕らえられている女性、カレンは青い顔で男の名前を呼んでいた。
彼女は茶色い髪の頭の上に団子を作っている美女で、女の子らしい洋服を着ている。
そんな二人の様子を見て、バロウはさらにニヤニヤ笑うばかり。
「悪いが、この女は俺が貰うことを決定した。諦めてお家に帰りな、兄ちゃん」
「バ、バカなことを言わないでくれ……カレンは僕のフィアンセなんだ」
バロウに突進をするリュート。
しかし悲しいほどにビクともしないバロウ。
「てめえは母ちゃんの乳でも飲んで――ろっ!」
「ガッ……」
バロウの肘を首に喰らい、意識を失うリュート。
それを見て、勇太がカッとなり飛び出していく。
「おい、お前! その子から手を離せ!」
「ああ? 誰だお前は?」
俺も勇太に続き、奴の前に出てリュートの体を抱き起す。
こそっと【回復術】を使ってやると、彼は意識を一瞬で取り戻した。
そして彼を俺たちの後ろに回らせる。
「俺はただ間違ったことは許せねえだけの男だ」
由乃たちも俺たちの後ろに回る姿を見て、バロウは口角をまた上げる。
「……お前らもいい女を連れてるじゃねえか。それも二人も。よし、その二人もいただくことを決定した。だからお前らは消えろ」
「消えねえよ、バカ」
「この女たちはてめえらにはもったいねえ。お前らも母ちゃんの乳でも飲んでろ」
「母ちゃんの乳が必要なのはお前だろ」
「……ああ?」
「人に迷惑をかけたらダメなんて、子供の頃に教わることだ。お前こそ母親の乳を飲むところからやり直してこい」
俺がそう言うと、ひひひっと笑いながらバロウはカレンの顔を舐めまわす。
「ひっ!」
顔面蒼白になり、不快感を露わにするカレン。
そんなカレンの反応を見て、喜んでいる様子のバロウ。
「面白いこと言うけどよ、俺は母親の乳よりこいつの乳の方に興味あんだよ」
ふつふつと怒りが腹の奥で煮え始める。
このままぶっ飛ばしてやろうかと思い一歩前に出ようとしたが、それ以上に勇太が怒り狂い、バロウに殴り掛かった。
「女の子に何してんだよ、この変態!」
バキッと力強い一撃がバロウの顔面に炸裂する。
勇太の攻撃によろけるバロウ。
それでもカレンを抱えたままだったので、俺は素早く奴に近づき腕をこじ開けて彼女を解放する。
「てめえらぁ!」
「何だ変態野郎!?」
顔と顔をくっつけて睨み合う勇太とバロウ。
周囲は勇太を心配する声や喧嘩を焚きつける声で大騒ぎとなっていた。
すると勇太は頭を振りかぶり、奴に頭突きをかます。
ゴンッという凄まじい音が響くが、バロウは微動だにしていない。
そしてバロウの反撃。
今度はバロウが頭突きを勇太に喰らわす。
だが勇太もこれに微動だにすることなく、犬歯をむき出しに睨み続けている。
「……面白いじゃねえか」
バロウは勇太から離れ、首を鳴らしながらこちらを見下ろしてくる。
「お前を処刑することに決定した」
「俺だってお前をぶっ殺すことを決定してんだよ!」
「なら、武闘会に参加しろ。そこでてめえを処刑してやる」
「おう。やってやるよ!」
ギリッと勇太を睨み付け、バロウは去っていく。
勇太はその背中が見えなくなるまで、怒りを滲ませた強い眼差しを向け続けていた。
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