第48話 化け物の大群
「つ、司くん!」
「え、何?」
さっきまで大喜びしていた由乃は血相を変えて叫ぶ。
「ば、化け物が塔から溢れて来ますので、気を付けて下さい!」
由乃の言葉に塔の入り口に目を移すと――
化け物が津波の如く勢いで飛び出して来る姿が見えた。
俺は一瞬ギョッとするも、冷静に【火術】を発動する。
でたらめな数が押し寄せようとしているが、上級魔術を発動したら皆を巻き込んでしまう。
ここは中級魔術でいこう。
「【ファイヤーナパーム】」
連続で【ファイヤーナパーム】を投擲。
入り口付近で大炎上を起こす化け物たち。
ここで出現する化け物たちは、向こうの世界のモンスターたちとは少し違い、よくよく見ると見覚えのあるような姿をしたものばかりであった。
蜘蛛、バッタ、蟷螂など、巨大化した虫や昆虫。
人間よりも大きなそれらが、塔の中から飛び出して来ていた。
しかし俺の【火術】で燃え上がり、外に出ることはできない。
だが化け物たちはまだまだ塔の中にいる。
「【合成】」
【弩】と【火術】のスキルを合成。
クロスボウから炎の矢は連続で発射し、【ファイヤーナパーム】以上の勢いで爆炎を生み続ける。
「だだだ、誰だあいつは!?」
「強いなんてレベルじゃねえぞ……あれこそ化け物じゃないか……」
俺の後ろで呆然とする男の人たち。
由乃も信じられないといった表情、震える声で言う。
「救世主ですよ……あの人は、この世界を救ってくれる救世主なんです!」
俺はため息をついて背中越しに言う。
「救世主ってやめてくれない? ちょっと恥ずかしいんですけど」
「では、何がいいですか? メシアですか? メサイアですか!?」
「いや、それ両方とも同じ意味だよね」
由乃はキラキラした目で俺を見ている。
俺は呆れながら【火術】と【水術】を合成し、左手を突き出す。
「【バーンドミスト】!」
塔の入り口で霧が発生し、それを体内に取り入れた化け物たちが次々と炎上していく。
だがそれでも化け物の数は減ったように思えない。
どれほどの数がいるんだよ。
このままじゃきりがない。
周囲を巻き込まないようなスキル……水の上級魔術なら大丈夫か?
クロスボウの手を止めることなく、左手で【水術】を発動する。
「【ウンディーネスプラッシュ】!」
左手から前方に向けてとてつもない威力の水圧が発射される。
3階建てのマンションぐらい丸々の見込んでしまうほどの高さ横幅。
その水圧が眼前にいる化け物たちを、塔の中へと押しやって行く。
「と、とんでもない威力だ!」
「どれだけの能力を持っているんだ、彼は!?」
騒ぐ後ろの声を無視し、俺はクロスボウを手放す。
「【閃光】!」
ドウッ! とレーザーめいた眩い閃光が走る。
水圧に続き、化け物たちを飲みこんでいく光。
背後の声のボルテージが最高潮に達する。
それと同時に俺は、【閃光】で塔の方へと疾走した。
入り口に化け物の姿は見えない。
今のうちに中に飛び込んでしまえ。
塔の中に到着すると、頭上から化け物が何百何千と次々に落ちて来る姿がスローモーションで捉えられた。
俺は瞬時に外に戻り、両開きの扉の片方を蹴りで閉める。
そしてもう片方の扉を閉めながら中へと入り、元の速度で落ちて来る化け物たちを見上げた。
扉は何度も俺の攻撃が当たっているのに傷一つついていない。
どんな材質でできているのかは知らないが――この中なら何をやっても外に影響は出ないだろう。
扉を閉めた今なら、由乃たちを気にすることなく全力で戦える。
「【イフリートブレイズ】」
カッと目の前が光ったかと思うと、地面を這う化け物、空から落ちてくる化け物、それら全てを火柱が飲み込んで行く。
広範囲に立ち昇る赤白い火柱。
それをさらに乱発していき、辺り一面炎に包まれる。
目の前が赤く染まり、状況が把握できない。
やり過ぎたか……
炎が収まると、とうとう化け物も打ち止めとなったようで、周囲はシーンとあっけないほどに静かになった。
「ふー」
塔の中を見渡して見ると、外観と同じく機械仕掛けのような造りとなっていて、中には何も無かった。
ただどこまでも続きそうな空洞が上に広がっているだけ。
印象としては、設計されていない建物の中、と言ったところだろうか。
外面だけ立派な物だが、中に入ってしまえば中身のない、空虚なものであった。
俺は扉を開き、由乃たちに顔を出す。
「つ、司くん……どうなったんですか?」
「え? もう化け物はいないみたいだけど」
「…………」
由乃も男たちも、全員が固まったまま動かなくなってしまった。
俺は由乃の前で手を振り、彼女の反応を確かめる。
「ど、どうしたんだよ?」
「あ、いえ……司くんがあまりにも凄すぎて……」
そういうことか。
皆の精神状態に問題がないことを把握した俺は嘆息し、塔の中へと戻って行った。
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