第39話 ブラン①
「島田司くんですね」
「お前は誰だ?」
荒地のど真ん中にいたのは、白髪頭に白いコート、ズボンまで真っ白いう全身白に覆われた男性だった。
歳は30そこそこに見える。
表情は神父のように穏やかで、全てを見通していそうな瞳で俺のことを見ていた。
「私はブラン」
「ブラン……お前の目的はなんだ? 俺に何の用だ?」
俺は仮面を被ったまま、クロスボウをブランに向ける。
ブランは至極落ち着いた様子で続けた。
「私は……私たちは、分かりやすく言えば管理者ですよ」
「管理者? 何を言っているんだ」
「この世界で不正を働く君を始末しに来た――と言えば分かりますか?」
「…………」
不正。
それは【合成師】のことを言っているのだろうか。
確かにイレギュラーなことではあるのだろうが……それを把握しているというのか、こいつは。
俺はジリッと一歩後ずさる。
「《黒き獅子》……あれは人間に攻略できるような設定になっていない。だと言うのに君はあれを倒してしまった。不正以外にありえない。そう考えた私たちは君のデータを調べさせてもらったんです」
「……それで【合成師】のことを知った、ということか」
「そういうことです。世界にはバランスというものがある。だからこのまま君を放っておくわけにはいきません」
「悪いけど、仲間たちのところに戻らないといけないんだ。さっさと終わらせてもらう」
左手で【風術】を発動させ、相手の行動を窺う。
こいつは強い。
強いなんてものじゃないかも知れない。
ピりつく肌に怖気が足元から頭の先まで走っている。
勝てるかどうかも分からない相手……できることなら逃げ出したいものだが、きっとどこまでも追いかけてくるはずだ。
周囲を見渡し、隠れるような場所はどこにもないことを確認する。
慎重派の俺としては、隠れて戦いたいものなのだが……
「帰る必要はありませんよ。君のお仲間たちはあそこで死ぬのだから」
「なんだと?」
「私がオークキングに命令し、ダラデニーを襲わせたのです。現在の彼らでは太刀打ちできるレベルじゃない」
「だったら、尚更帰らないとな」
「だから帰る必要はないんですよ。あなたもここで死ぬのだから」
「……死ぬのはお前かもな」
ブランは鼻で笑い、静かにこちらに右手を差し伸べてきた。
「やるだけ無駄ですよ」
俺は【潜伏】を発動させ、相手の左側へと駆け出した。
隠れるところはないが、隠れることはできる。
このまま遠距離から攻撃を仕掛け続けて――
「だから無駄だと言っているでしょう」
ブランは見えないはずの俺に向かって狙いを定めるかのように腕を動かす。
見えているのか……俺のことが。
《黒き獅子》と同じで、【潜伏】が通用していない?
「くそっ」
俺はクロスボウと【風術】を同時に射出する。
幾重もの風の刃と矢がブランに向かって飛翔する――が。
奴の右手から、とてつもなく巨大な光が放出され、風も矢も、そして俺の肉体さえも飲み込んでしまう。
俺の下半身、そして左腕が光にえぐり取られる。
痛みは【心術】のおかげで感じない。
だがこの一撃で理解した……こいつは化け物だ。
一瞬で体は再生し、すかさず大地を蹴ってブランの周囲を駆けまわる。
「厄介な能力だ……人間離れした再生能力。だが、頭さえ潰せば――」
再度放出される大きな光。
レーザーめいたその光は、また俺の下半身を削り取る。
「くそっ」
避けきれない。
威力も速さも規格外だ。
多分だが、こいつは普通の人間には勝てないほどの力を有しているのだと思う。
《黒き獅子》が攻略できないように、こいつも攻略できるような存在じゃない。
だからと言って、むざむざ殺されるつもりはない。
再生する下半身。
血の匂いが鼻孔に飛び込んできたが、それは一瞬で収まる。
「【パワーショット】!」
クロスボウから大砲のような勢いで矢が飛翔していく。
ブランはそれを見ても落ち着いたままで一度ため息をついた。
「無駄だと言っているのに」
「!?」
次の瞬間、ブランの姿が消えた。
矢は空しく、何もない空間を飛んで行く。
「死ぬ準備はできましたか?」
「お前こそできたのかよ?」
ゾクリと背筋が凍り付く。
いつの間にかブランは、俺の背後に立っていた。
左拳で裏拳を繰り出す。
ブランはそれを避けようと身体を捻るが――チッと鼻先に触れる。
「ぐっ!?」
鼻の骨がひん曲がり、ドバドバ鼻血を噴き出すブラン。
ヨロヨロと後ずさり、目を見開いて俺を見る。
「……不正もいいところですね……私相手にこんなにダメージを与えれるとは」
俺はすかさず矢を連続で放つ。
しかしブランは一瞬で姿を消して、それを回避する。
コン、コン、と周囲の石がひとりでに跳ねているのを見て、ブランは見えない速度で駆けまわっているのだろうと察した。
それは分かったのだが……こんな速度の相手をどうやって倒せばいいんだ。
攻撃はなんとか通用しそうだが……その攻撃をどうやって当てる?
俺は全方向を警戒しつつ、ブランが姿を見せるのを静かに待っていた。
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