第38話 オークとの戦い

「グォオオオオオオ!!」


 オークの集団が俺を取り囲み、剣を、斧を、棍棒を振り上げ一斉に雪崩れ込んで来る。

 俺はクロスボウをカードに戻し、徒手空拳で迎え撃つ。

 ボンボンッと破裂していくオーク。

 仲間が死のうとも動きを止めず、怒涛の勢いで攻め込んで来る。

 俺は一瞬で【風術】の中級魔術を完成させ、その力を解き放つ。


「【エアスラッシャー】」


 何本もの風の刃が俺の周囲を駆け巡り、オークたちを八つ裂きにする。

 さらに【エアスラッシャー】を連続発動させ、敵は次々に倒れて行く。


「つ、強い! なんだあの仮面の男は!」

「あれほどの戦士がこの世にいるのか……」


 オークを圧倒する俺の姿を、兵士たちは唖然と見ている。

 俺はそんな彼らを無視して、【エアスラッシャー】、【ファイヤーナパーム】を乱舞の如く放出していく。


 【術発動時間0】のおかげで中級魔術であろうと上級魔術であろうと一瞬で発動することができる。

 コボルトの時と違い、さらに効率よくモンスターを倒すことができた。

 上級魔術を使用してもいいのだが、こうして中級で事足りているのでまだ使用したことはない。

 中級魔術でも結構な範囲の敵を葬ることができるので、上級魔術となればどれほどの範囲に効力が及ぶかも分からない。

 下手したら人間まで巻き込んでしまうかもと言う恐れもあり、こうして中級魔術を連発してると言うわけだ。

 本当、どこかで性能を確かめておかないとな。


 そうこうしていると俺の周囲からオークがいなくなり、目視できる範囲のモンスターたちは俺から離れて勇太たちがいる方へと逃げるように去って行く。

 こちら側はどうしようもないと踏んだのだろうか?

 とにかく、援護に戻るとしよう。


 そう考え、クロスボウを取り出した時だった。


 ガラガラと、町を覆う壁を破壊し、オークたちが町の中へと乗り込んで来る。

 オークが侵入する穴は俺のいる場所と勇太たちが戦っている場所、二つの入り口の丁度真ん中付近、左右に二つできたようだ。

 

「おい」

「……なんだ」


 俺の冷静な声に冷たい声で応えるガリア。

 俺は開いた穴の一つを指差して奴に言う。


「お前は向こうを守れ。俺はもう一つの方へ行く」

「なぜ貴様に命令されなければ――」

「お前と言い合うつもりはない。早くしろ」


 俺はガリアを無視して、全力で駆ける。

 一瞬で穴へと到着しすると、オークが女の人を手にかけようとしているのが見えた。


「きゃっ――」

「ガハッ!」


 しかし寸前のところでオークの頭部をクロスボウで破裂させる。

 俺はその女の人の前に立ち、クロスボウを連射させながら訪ねた。


「大丈夫か?」

「は、はい……ありがとうございます」


 声を震わせる女性。

 それは今朝、おじいさんを殺された桃色髪をおさげにした女性であった。


 敵は穴を広げ、ドッと町へと押し寄せて来る。


「ダ、ダメだ! お終いだ!」

「こんなところで終わるのか!?」


 絶望の色を見せる町の住人たち。

 しかし町に足を踏み入れた瞬間、俺のクロスボウが奴らの体を四散させていく。


「【ウェーブショット】」


 矢の代わりに波打つ衝撃を放つと、それを受けたオークたちが、まるで電子レンジで破裂する卵のように爆発していく。


「す……すごい」

「なんて強さだ……」

「オークがあっという間に死んでいくぞ」


 攻撃をし続けていると、とうとうオークたちの侵入は打ち止めとなり、安堵の表情をもらす町の人たち。

 

「あの……私はフローラです。あなたは?」

「俺は……名乗るほどのものでもない。あんたたちは大崎勇太という名前だけ憶えておいてくれ」

「大崎、勇太?」

「ああ。俺は大崎勇太の助っ人だ」


 俺を見上げるフローラを横目に【鷹の目】を発動させる。

 敵が集中しているの場所は二つ。

 勇太が戦っている場所とガリアが向かった先。


 敵の数は勇太のいるところの方が多いが、あそこは勇太たち四人がいるおかげか、攻め込まれることもなく、押しているぐらいだ。

 ガリアの方がどちらかと言えば危うい。

 オークとまともに戦えているのはガリアだけ。

 後の兵士は押される一方のようだ。


 だとすれば、一旦助けに行かなければならないのはガリアの方だな。

 町の人たちを威圧するようなあいつはどうでもいいが、あそこから攻め込まれピンチになっている町の人たちを助けに行かないと。

 

 俺は助けに向かおうと足にグッと力を入れる。

 が、そこで異様な気配を察知した。


「っ!」


 それは俺を挑発するかのように発せられていた。

 感じるのは神聖でありながらも暴力的な力。

 これは……《黒き獅子》なんか非じゃないぐらいの力を有している。


 骸骨の仮面を被っている時は冷静になれる自分がいたが、背筋が凍るほどの恐怖を肌に感じていた。


(こちらに来なさい)

「!?」


 突如、脳内に直接声が届いて来る。


(私の気は感じるでしょう? 早くこちらに来なさい。もし来なければ……あなたの仲間ごとその町を薙ぎ払います)

「…………」


 俺は極力冷静を保ちながら、声の方へと向かうことにした。

 きっとこの声の主は、俺が行かなければ町を破壊するつもりだ。

 【鷹の目】で確認すると……およそ2キロほど先に人影が見える。


 バクバクいう心臓を抑えながら、俺は未知の存在との距離を詰めていた。

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