第40話 ブラン②

「…………」


 精神を集中し、ブランの攻撃に対処しろ。

 あれは見えてからでは遅い。

 現在の俺の速度を持ってしても回避は不可能だ。


 頭で考えるんじゃない。

 感じろ。

 俺ならできるはずだ。


 背後からゾクリとする気配があり、俺は全力で横っ飛びする。


「!!」


 案の定、ブランの光の束がこちらに向かって放出された。

 相手は避けたことに対して驚いているようで目を点にさせている。


「【ファイヤーナパーム】」


 俺は回避運動と同時に、炎をブランに向かって投げつける。

 

「ちっ」


 ブランは炎が飛んで来るのを視認し、また高速で動き始め、それを避けてしまう。

 爆弾のように爆発を起こす炎。

 俺は炎を見やりながら、大きく息を吐き出し頭を氷のようにし冷静さを保つ。


 ブランは俺の周囲を走っている。

 ということは消えたわけではない。

 この場にいるんだ。

 この場にいるというのなら……俺の周囲全てに攻撃を仕掛ければ――


「【集中コンセントレーション】」


 【心術】の禁呪【集中コンセントレーション】。

 あらゆる攻撃の効果を二倍に高めるというスキル。


 俺の中の力が膨張するのが分かる。

 そして俺は両手を横に突き出し、瞬時に【風術】を解放した。


「【シルフィードブレス】!」


 【風術】の上級魔術。

 まだ使用したことはないが、効果は分かっている。

 後はどれほどの範囲を巻き込むかが問題だ。

 だが周囲にはブランしかいない。

 だから何も考えることなく、周りを気にすることなく、全力で力を解き放てる。


「がぁああああ!!」


 俺を中心にして、半径1キロほどに見えない圧力がのしかかる。

 その凄まじい威力に、大地は徐々に陥没していく。

 当然、走り回っているブランにもその圧力はかかり、さっきまで姿は見えなかったが、押さえつけらるようにして地面に横たわっていた。


「うぷっ……」


 鼻と口から血を吹き出すブラン。 

 風の圧力に内蔵が悲鳴をあげているようだ。

 目も充血しており、まるで血走ったかのような視線をこちらに向ける。


「わ、分かった。私の負けだ。いいからこれを解除しろ! もうお前には絶対手を出さないから!」

「…………」


 怒りに満ちた瞳のブランはそう叫ぶ。

 自分が格下と思っていた相手にやられ、爆発しそうな怒りを感じているのだろう。

 もう俺に手を出さないと言っているが……どう考えても嘘だ。

 何が何でもやり返してやる。そんな目をしている。


 心優しい主人公ならここで解放してやるのかもしれないが……俺は慎重派だ。

 みすみす危険になるようなことをするわけないだろう。


「悪いけど、あんたを始末させてもらう」

「ま、待て……待つんだ!」


 いつの間にか丁寧な言葉も乱雑なものになっており、余裕のない表情をしているブラン。

 俺は奴の言葉を無視するように、両手に力を集める。


「俺を生かしておいたほうが――」

「【波動】!」


 両手を合わせた俺の手の平からブランの光のような気が放出される。 

 地面を抉りならがブランを飲み込んでいく俺の力。

 力は収まっていき、一本の線のようになって消えていく。


 どこまでも続いていそうな太い攻撃の跡が残り――

 そこにブランの姿は無かった。


「ふー」


 俺は一度仮面を外し、《ホルダー》を開く。

 するとそこには【閃光士】というジョブカードが追加されていた。

 星の数は……0。

 0、ということは、合成師のように特殊なジョブなのだろうか。

 ブラン自身が特殊な力を持っていたようだし、そうなのだろう。


 俺はジョブカードをタップし、【合成】を選択する。


 島田 司

 LV99

 ジョブ  合成師++

 HP  5600(+16800)

 MP  2800(+8400)

 攻撃力 5600(+16800)

 防御力 1866(+5598)

 敏捷  1866(+7464)

 魔力  2800(+8428)

 運   2333(+6999)


 ジョブスキル

 合成Ⅲ 召喚 閃光

 武器スキル

 体術 99 弩 99

 アクティブスキル

 火術Ⅴ 99 風術Ⅴ77 回復術Ⅴ 

 心術Ⅴ 99 弱化Ⅱ 15 手加減Ⅴ 27 

 潜伏Ⅴ 99 鷹の目Ⅴ99 帰還Ⅴ 37

 パッシブスキル

 HP増加(特大) MP増加(特大) 怪力 

 鉄壁 俊足 超魔力 

 強運 神の加護 毒無効

 麻痺無効 石化無効 混乱無効

 誘惑無効 病気無効 魔力消費0

 術発動時間0 高速成長


 オークを大量に倒したことと、現在も召喚したモンスターがオルトロスと戦っていることと合わせてまたステータスが上昇している。


 ジョブスキルは【合成Ⅱ】が【合成Ⅲ】に進化し、【閃光】が追加されていた。


 閃光:高速移動と高威力の攻撃が可能になる


 なるほど。

 ブランが使っていたあの移動と攻撃ができるようになったのか。

 俺は新たな能力に胸を熱くするが……ゆっくりしている時間はない。

 さっさと町に戻らないと、町の皆が危ない。

 勇太たちもオークキングに勝てるかどうかも分からないし、すぐに帰るぞ。


 俺は仮面をかぶり直し、【帰還】を発動して瞬時にダラデニーの町へと瞬間移動する。


「!!」


 すると目の前には――オークキングの目の前で跪き、今にも頭を切り落とされそうな勇太の姿があった。

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