第33話 ダラデニー王

「おい、また始まるらしいぞ……」

「またか……」


 ほとんど眠ることなく勇太たちと共に町へ足を運ぶと、人々が騒ぎながら城の方へと向かっていく様子が目に入る。


「何かあったのか?」

「さぁ? 行ってみるか?」

「おう。そうしようぜ」


 俺たちは町の人たちを追いかけるように城の方へと向かう。


 城の前に商店などが立ち並んでいる広場があり、そこを人々が取り囲むかのように立ち尽くしていた。


「なあなあ、何があったんだ?」

「…………」


 勇太が男性にそう訊ねてみたが、その人は青い顔のままくいっと顎で何かを指すだけであった。

 俺たちは彼が指した方向に視線を向ける。


 するとそこ――広場の中央には、王様らしき偉そうな男性が剣を手に持ち、その足元には老人がおり兵士に取り押さえられている姿があった。


「な、なんだあれ!?」


 勇太が大声でそう叫ぶと、周囲の人たちが勇太の口を塞ぐ。


「んぐっ……」

「おい、黙れ! 黙らないと君も殺されるぞ」


 小声ながら必死にそう訴えかけてくる男性。

 勇太がコクコクと首を振るとゆっくりと手を離す。


「この男は、あろうことか俺様の歩く道の前に立った! お前たちはどう思う?」

「…………」


 そう叫ぶのは王様らしき人物。

 金色の髪の上から王冠をかぶり、年の頃は30といったところだろうか。

 少し小太りで背の低いその男は足元の老人の頭を踏みつけながらそう叫んだ。


「なんだよあいつ……」


 勇太が怒りを露わにする。

 俺も腹の中で憤怒の炎を激しく燃やす。

 なんで老人を踏みつけてるんだよ。


 王様らしきその男に飛び掛かろうとする勇太を、また周囲の人たちが取り押さえる。


「やめろ……君まで殺される。それに、俺たちもとばっちりを喰らうんだ」

「頼む……やめてくれ」

「ど、どういうことなんだよ!」


 由乃も磯さんも、さらには円までが今にも飛び出しそうな勢いであったが、その言葉を聞いて思いとどまる。


「あの方はダラデニー王……この町を治めていらっしゃるお方だ」

「そんな偉い人がなんであんなことしてるんだよ!?」

「俺たちに分かるもんか! あの方は癇癪持ちなんだ……少しでも気に喰わないことがあればすぐ町の住人を処刑してしまう……それを庇った者も当然のように殺され、異を唱える者がいれば、その周囲にいる人間までまとめて殺してしまう。そんなお方なのだ」


 俺は怯えるその人の目を見ながら訪ねる。


「皆で抵抗したらいいじゃないか。別に怖くともなんともないだろ、あんなの」

「……あのお方だけではない。王の隣にいる男を見ろ」


 ダラデニー王が老人を踏みつけている隣……そこには銀色の全身鎧に身を包んだ巨体の男がじっとたたずんでいる。

 兜まで被っており顔は確認できないが――隙間から覗く凶気に満ちた瞳だけが垣間見えた。


「ガリア……ダラデニー王に仕える、アルダイルにて最強の騎士だ」

「……あれがどうかしたのか?」

「……逆らうとあいつが周囲の人間を見境なく殺してしまうんだよ。それを見て王も喜ぶばかりで……どうしようもないんだ。俺たちは」

「そんな……」


 俺はダラデニー王を睨み付けるも、動くことができなかった。

 周囲に被害が及ぶというのでは身動きが取れない。

 勇太たちも同じ考えらしく、歯を食いしばりながら王を睨んでいる。


「…………」


 誰も王の言葉に反論することも肯定することもなく、ただ沈黙を貫いていた。

 すると王はニヤリと片頬を上げ、大声で叫ぶ。


「どうした!? こいつを助けてやらなくていいのか? 誰も何も言わないのなら――こいつは死刑だ!!」

「おじいちゃん!」


 一瞬そう叫んだのは、桃色の髪を三つ編みにした可愛らしい女性であった。 

 だがすぐに周囲の人に口を塞がれ、涙を流しながらダラデニー王を見据えている。


「……ではさらばだ、じじい」

「お、お願いです……お慈悲を……」

「分かった」

「えっ? 本当ですか?」


 王の言葉に涙を流しながら喜ぶ老人。


「本当だとも。慈悲深く――痛みを感じさせないように殺してやろう」

「そ、そんな……」


 王は老人の漏らした声にカチンときたのか、老人の手に剣を突き刺した。


「ぎゃー!!」

「俺様が! 折角慈悲を与えてやると言ったのに不服があるのか! ふざけるな……ふざけるな!」


 王は狂ったように剣を振り下ろし、何度も老人を斬り付ける。

 すぐこと切れた老人であったが……それでも執拗に剣を喰らわせる王。


 俺と勇太の怒りがピークに達する。

 が、周りにいる人たちが懇願するように俺たちに視線を向けてきた。


「頼む……頼むからおとなしくしていてくれ……」

「……くそっ!」


 勇太は走ってその場を立ち去ってしまった。

 それに続いて磯さんたちも踵を返し広場を離れて行く。

 笑いながらまだ手を休めない王を睨み付けながら、俺も駆け出した。


 走って町の外まで出て来ていた勇太たちは息を切らせ怒りに満ち満ちている。


「なんだよこの国は……あんな酷い奴が王様だっていうのかよ!」

「許せない」


 感情のままに暴力を振るうのは獣と同じだ。

 他人を思う気持ちと、他人の痛みが分かるから人間だろ?

 だというのに権力を行使し、力で住人を押さえつけ、狂った感情で人を傷つけている。

 あんなの許せるわけがない。


「なんとかしてやろうぜ」

「おう! 問題はどうやって助けてやるかだな!」

「このエリアをクリアしないといけないし……エリアマスターを探しながら皆を助ける方法を考えよう」

「「おう!」」


 勇太と磯さんが俺の言葉に怒声で呼応する。

 こうしてアルダイルの朝は、なんともいえない怒りに満ちた出来事から始まった。

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