第34話 スケルトンとオルトロス

 町のことをなんとかしてあげたいものの俺たちがやるべきことは他にもある。

 それは大きく分けて二つ。


 一つは強くなること。

 強くならないことにはこれから先に進むことができない。

 もう一つは魔王エールキングを倒すこと。

 最終目的は忘れてはいけない。


 それから俺は、もう一人の由乃がいる世界にも行かなければならない。

 やることは山積みだ。効率的に行かなければ。


「町のことも大事だけど、まずはモンスターと戦って経験値を集めよう。その後、この町とエリアマスターの情報収集をしないか?」

「そうだな。先に進むにしてもあのクソ王様と戦うにしても力はあった方がいいしな」

「おう! さっさとパワーアップして、話を進めようとしようじゃねえか!」


 俺たちはスケルトンを倒しながら、辺りにどんなモンスターがいるのか、どのようになっているのか走り回った。


 俺は皆の後方からクロスボウで遠くの敵を倒していき、【鷹の目】で周囲を見渡す。

 洞窟などがいくつか確認でき……別種類のモンスターも発見した。


 北の方には、二足歩行の豚のようなモンスター。

 西の方角には頭が二つついた犬型モンスター。


 うん。俺としてはどちらも狩りたい。

 遠くにいる別モンスターのことを気にかけながら、スケルトンを連射で倒していく。


「な、なあ。向こうの方に向かってみないか? 遠くに別のモンスターがいたような気がするんだ」

「本当かよ? 司、メチャクチャ目がいいんだな」

「あ、ああ……いや、多分だけどさ」


 勇太たちは俺を素直に信じ、西の方角に向かって歩き出す。

 道中は俺が【手加減】でスケルトンを瀕死の状態にし、それに気づかない由乃たちが止めを刺していく。

 さらに遥か彼方にいるモンスターを倒していくことも忘れない。


 そして1時間ほど戦いながら西に進んで行くと、ようやく犬型のモンスターと遭遇できた。

 俺は内心喜んでいたが、顔には一切出さずに【手加減】で矢を放つ。


「ガウッ!」

「ナイス、司!」


 現在の【手加減】は相手の体力を1%まで削ることができる、というものになっている。

 なので大概の敵は勇太たちでも一撃で葬り去ることができるはずだ。


 円が素早い動きで敵の横につき、二本の剣で突き刺すと、あっさりと絶命するモンスター。


「意外と弱かった」

「みたいだな」

「…………」


 うーん。手加減はもう少し控えた方がいいかな。

 もしこのモンスターが実際のところは強かったとしたら、俺のいない時に舐めてかかったら大変なことになる。

 とりあえず様子見をしよう。


 俺は例の如く、遠くにいる二頭の犬型モンスターをクロスボウで撃ち倒していく。

 そしてささっとカードの確認だ。


 オルトロスカード;レア度N

 魔力が1%上昇する


 オルトロスか……俺なら一撃で倒せるようだが、勇太たちはどうなんだろう?

 俺は周囲にいるオルトロスを狩りながら、勇太たちの戦いを静かに眺める。


「おう! こいつ中々つえーじゃねえか!」


 磯さんの盾に二つの頭でかぶりつくオルトロス。

 意外と力が強いらしく、磯さんは必死で攻撃に対応していた。


「【ハンマークラッシュ】!」


 由乃が力強い一撃を右側の頭部を殴打する。

 ゴインッという凄まじい音が鳴り響き、片方の頭をフラフラさせるオルトロス。

 するともう片方の頭が由乃に狙いを定め、その牙で噛みつこうとした。


「【クロスブレイク】」


 音もなくオルトロスに接近していた円が、淡い光を放つ二刀でオルトロスの腹を切り裂いた。

 その攻撃を受けたオルトロスはバタンと倒れ、ピクピクと痙攣を起こしながら絶命していく。


 どうやら皆の力でもなんとかなるようだな。

 安堵した俺はその後、黙々とオルトロスを倒し続けた。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 オルトロスとの戦いを終えた夕方。

 勇太の【リバース】カードでダラデニーに戻ってきていた俺たち。

 町の入り口付近でステータス画面を確認することにした。


「なあ」

「どうした?」


 勇太が怪訝そうにステータスを眺めながら言う。


「モンスターポイント……おかしくないか?」

「え?」

「確かに。ちょっと増え方が異常」


 ギクリ。

 俺が皆にバレないようにモンスターを倒してた分だ。

 勇太たちが倒す何倍も倒していたから、それだけモンスターポイントが急速に溜まってしまったようだ。

 ああ、どう言い訳するかな……


「…………」

「ど、どうしたんだよ、由乃」


 由乃が何故か俺の顔をジーっと見つめてきていた。

 その可愛らしさに、トクンと心臓が跳ねる。

 俺は女子免疫力が高いわけじゃない。

 なのでそんなに見つめられると緊張しちゃうから。


「いえ……何かボーナスでも入ったのではないでしょうか? もしくは、新しいモンスターが沢山のポイントを持っていたとか」

「なるほど……そうかもしれないな!」


 由乃の言葉に親指を立てる勇太。

 結構あっさり納得してくれ、俺は内心ホッとする。


 由乃は皆と笑顔で会話をしているが……

 もしかして何か感づいているとか?

 うーん……そうだとしても、彼女の意図が掴めない。

 ま、これから彼女の言動には注意しておくことにしよう。

 もしバレているのならどこかで話をつけたらいいや。

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