第30話 デッキ

「デッキ・リバース」

「?」


 由乃が聞きなれないことを口にすると、武器がフッと消え去ってしまう。


「何だよ、今のは?」

「えっと……司くんは《デッキ》をご存じないんですか?」

「ご存じないです。何、《デッキ》って」

「……デッキ・オープン」


 由乃の言葉に、彼女の目の前に8枚のカードが表示される。

 そこにはステータスのようなものも表示されており……その部分は俺が使用しているステータス画面とよく似たようなものだった。


「入手したカードをデッキに8枚セットしておいて、これを呼び出して化け物たちと戦うんです」

「セットした8枚のカード……」

「司くんはどういう力を使うんですか?」

「俺もカードを使うけど……武器のカードはその度に《ホルダー》から取り出して、スキルはセットして戦うんだ」

「へーそうなんですね。こちらは武器もスキルもまとめてセットしておくんです。それで――セット・オープン」


 また由乃の体に軽鎧が纏われ、その手に大きな斧が出現する。

 なるほど。

 デッキを呼び出してそれを毎度装備するのか。


「これはいつから使えるようになったんだ? 何か特別な訓練を受けたとか?」

「いいえ。これも塔が出現してから自然と使えるようになりました。この世界の人間なら誰だって使えますよ」

「ふーん」


 装備をまた戻す由乃。

 俺は何となく、彼女と同じ言葉を口にしてみた。


「デッキ・オープン」


 すると、ヒュンと俺の目の前にもステータス画面が表示される。

 異世界の物とはまた違う物だ。

 半透明のスクリーンにステータスが映し出されていて、その下にカードをセットできるようになっている。

 だが現在の俺のデッキにはカードは表示されていない。


 ステータス画面はと言うと――


 島田司

 HP(A) 15 MP(C) 5

 STR(A) 10 VIT(C) 5

 AGI(B)  8 INT(B) 8

 LUC(A) 10


「……また違うステータスだ……なあ、このAとかBって何?」

「ああ、これはですね」

「!?」


 彼女の茶色い髪が目の前に現れ、俺のステータス画面を覗き込んでいる。

 さっきよりも近くにいる分、余計いい香りがするぞ……


「成長しやすさをランクづけしたものです。Aは成長しやすく、Cは成長が悪いといった感じですね」

「そ、それで俺のは悪くないの?」

「みんなこれぐらいですよ。Aが三つにBが二つ。そしてCが二つです」

「なるほど……レベルの表記はないんだな」

「はい。戦っているとステータスだけが上昇していくという仕組みです……でも、司くん凄い強かったのに、ステータスは低いですね」

「俺の使用している方ではそこそこ高い数値を誇ってるんだけどな」

「そうなんですね……」


 由乃は俺から離れ、真剣な表情を向けてくる。

 え? もしかして告白の流れとか?

 俺はゴクリと息を飲み、由乃の言葉を待った。


「あの……その……」

「う、うん……」

「……良ければでいいんですけど」

「はい」

「……この世界を救ってくれませんか?」


 告白などではなかった。

 いや、まぁ普通に考えたらそりゃそうなんだけどさ。

 ちょっと期待した自分が憎い。


「毎週人が死んでいって……もうみんな限界なんです」

「…………」


 人が遠くから肩を落としながらゾロゾロと歩いているのが目に映る。

 疲弊しきり、傷だらけの者もいた。

 日曜日が終わり、帰宅しようとしているのだろう。


「この悪夢のような日々を終わらせてくれませんか? 司くんなら、それができると思うんです。だって司くんほど強い人は見たことありませんから」

「別にいいんだけどさ……ちょっとばかり問題がある」

「問題? 何ですか?」

「ここが俺の元いた世界じゃないとなると、俺は俺で異世界の攻略をしなければならない」

「あ……」


 そうなのだ。

 元々俺が知っている由乃がいる異世界。

 あちらの方も何とかしなければならないのだ。


「だから、俺は向こうに戻らないとダメなんだ」

「…………」


 俺の言ったことに俯き、落ち込む由乃。

 

「……でも」

「え?」

「由乃を放っておくわけにもいかない」

「……じゃあ」

「敵が出現するのは日曜日だけなんだよな?」

「はい」

「なら、また次に日曜日にこっちに来るよ」

「……司くん」


 ブワッと涙を目に溜める由乃。

 俺は少し照れ臭くなり、電源が切れたスマホを取り出す。

 うんともすんとも言わなくなってしまったスマホではあるが、今も捨てずにこうして持っている。 

 動かなかったとしても捨てられないよな、こういうのって。


「でも、正確な時間が分からないんだ。まぁ、太陽が7回昇った時に来ればいいんだけど……」

「そ、それなら」


 由乃は自分が左手に付けている時計を外して俺に手渡してくる。

 ギュッと俺の右手を両手で包み込み、由乃は潤んだ瞳で見上げてきた。

 美女の上目遣いとか、これは強力すぎるぞ……


「これを持ってい下さい。あまり高い物ではないのですが、お祖母ちゃんが買ってくれた形見みたいなものなんです」

「そ、そんな大事な物、受け取れないよ」

「ううん。司くんに持っていてほしいんです。ほんの少しでも司くんと繋がりが欲しいから……そうしたら、きっと少しは安心して日曜日まで待てるから」

「……由乃」


 俺は由乃の左手を由乃の手の上に置き、力を込めて言う。


「大丈夫。俺がなんとかする。そして……絶対に帰ってくるから」

「はい……待ってます」

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