第18話 スピリット
町を出ようとすると、町の人たちが俺たちを見送りに集まっていてくれた。
全員、頭を深々と下げ、二枚のカードを勇太に手渡してくる。
「町を守っていただいてありがとうございました。こちらは道中で食べれる食材と、武器になります」
「ハハハ! 実は俺たち、力になれてなかったんだけどな! 俺たちも仮面をかぶった戦士に助けてもらったんだよ」
「おう! 俺たちもロケットしてもらったからな!」
「ロケットじゃなく助っ人ね。飛んで行ってどうするんだよ」
痛快に笑いながら真実を口にする勇太と磯さん。
町の住人は、首を横に振り笑顔で言う。
「私たちを助けてくれようとしてくれたのは真実です。それだけでも私たちは嬉しい。あなたたち以外にもう一組勇者率いる集団がいましたが、彼らは何もしようとしてくれなかった」
「……じゃあ、これはありがたくいただいておきますね」
ここで否定してもいいが、受け取る方が話がスムーズに進むと思ったのだろう、由乃がそう言いカードを受け取るという流れになった。
勇太が受け取ったカードを俺はちらりと視認する。
特上肉:レア度SR
通常の物よりも上等な肉
銀の剣:レア度R
攻撃力91
「レアの剣か……今はノーマルの装備だから、役に立ちそうだな」
「ああ。これで
「それは言いすぎだろ」
「そうか? 何とかなるだろ。ハハハハハ」
勇太は笑い、磯さんも一緒になって笑う。
俺は少し呆れながらも、微笑を浮かべる。
勇太たちには一緒にいたらなんでも笑い飛ばしてくれる、明るさがあるよな。
俺にはない明るさだ。
根っからの人気者……うん。やっぱり世界を平和に導くのは勇太にこそ相応しい。
俺たちは町を出て、北へと向かった。
北にも町があるらしく、草原を歩き続ける。
勇太たちの死角からスライムとウルフをクロスボウで倒すことは忘れない。
少しだけでも経験値稼ぎをしておこう。
「私たち、何故こんなに強くなったの?」
円がステータス画面を開きながら、そんなことを言い出した。
「修行したからだろっ!」
親指を立てて、ウインクする勇太。
円は首を横に振りながら続ける。
「ちょっと上がり方が異常だと思う。何度かステータスを確認してたけど、ひとりでにレベルが上がったこともあった」
ギクリ。
原因は俺だ。
陰で敵を倒し続けているものだから、皆にも経験値が分散されていたのか。
俺は敵を倒す手を止めて円の話を聞く。
「勝手にレベルが上がるのはおかしい。どういうこと?」
「これは……あれだな」
勇太は真剣な顔で円の方を向く。
円も真剣な表情で勇太と向き合っている。
そして勇太はゆっくりと口を開く。
「……難しいこと考えても仕方ないだろ。勝手にレベル上がるならそれでいいじゃん!」
真面目な顔をしたと思ったら、急にケラケラ笑い出す勇太。
磯さんも笑いながら「おう!」とか言っている。
それでいいのかよ、君たちは。
由乃はちらりと俺の方を見て、笑顔で円に言う。
「弱くなるのは大問題ですけど、強くなる分にはいいじゃないですか。もしかしたら、勇者の加護とか、突然ボーナスが入ったとか、そういうことがあるのかも」
「…………」
円は納得はできない様子だが、しぶしぶとコクンと首肯する。
俺はホッとしながら、狩りをどうするか思案した。
……と言っても、経験値稼ぎを止めれるわけもなく、俺はモンスターの狩りを再開させる。
まるで麻薬みたいに止めれない……俺にとってレベル上げは楽し過ぎるほど楽しいのだ。
結果的に皆が自衛できる力を手に入れられているようだし、別にいいだろう。
草原はどこまでも続く。
何も変わらない景色。
しかし、モンスターには変化が訪れる。
スライムとウルフが現れなくなり、コボルトが出現し始めた。
そしてユラユラと半透明な炎のようなものも現出する。
それは人の顔のようにも見えおぞましい存在だ。
俺はブルりと体を震わせる。
「なんだこれ?」
「モンスターじゃないか?」
「モンスターかよ。じゃあ倒してくるわ」
勇太は銀の剣を片手に、それに近づいていく。
勇太の姿を認識したそれは、口から冷気を吐き出した。
「おっと!」
転げてそれを回避する勇太。
足元の草が、冷気によって凍り付く。
俺はクロスボウを敵に向け、攻撃を仕掛けようとするが――
円が素早い動きで敵の背後に回り込み、二本の剣でバツの字に切り裂いた。
「サンキュー、円」
「別にいい。洞窟では役に立てなかったし」
どれほどの強さを誇るモンスターなのだろうと構えていたが、皆の力でも対処できる程度のようだ。
俺は【鷹の目】で同じモンスターを探し出し、瞬時に遠くにいるそれを3匹仕留める。
すると予想通り、モンスターカードの入手に成功していた。
スピリットカード:レア度N
魔力が1%上昇する
スピリットというモンスターか……
俺は新たなるカードの出現に心を躍らせていた。
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