第19話 夜盗

 コボルトとスピリットを倒しながら夕方の草原を歩いて行くと、大きな町が見えてくる。


「町だ! 町があったぜ!」

「おう! ラーララだ!」

「ラーララって歌かよ。ターミラね、ターミラ」


 ターミラの町に到着した俺たち。

 そこはエキルレよりも遥かに大きかった。

 町の中央には大きな時計台があり、商店などが数多く立ち並んでいる。

 入り口の近くで食事屋さんがいくつかあり、肉を焼いたいい香りが鼻孔を擽ってきた。

 ジュルリと涎が出てくるというものだ。


 俺たちは早速宿を取り、食事にありつくことにした。

 宿屋の食堂で出てきた物は、硬いパンに白いシチューだけ。

 城にいた頃はたんまりと食事を用意してもらっていたが、エキルレの町でもそうだが、質素な物しか提供されない。

 元の世界にいた時は贅沢していたんだな……と思いつつも、やはり物足りない。


「あの、お肉焼いてもらってもいいですか?」


 由乃はエキルレの町でもらった上質の肉を料理人に手渡していた。

 どう考えても足りないというのを察したのだろう。

 よく気の利くいい子だ。


「これからも何か作ってもらわないと足りないよな……食料ってどんなのある?」


 勇太が《ホルダー》を確認しながら皆に聞く。


「おう! 野菜とか肉とか、色々あるぞ!」

「私もRの食材がそこそこある」

「司は?」

「えっ?」


 皆の視線が俺に集まる。

 俺はNしかドロップしないから……食材関係は調味料ぐらいしかないのだ。

 Rぐらいならある程度入手できるようで、皆はそこそこ食材があると……

 ここは何と言い訳をしたらいいのだろうか……俺はドキドキしながら、頭をフル回転させていた。


「お、俺、運が悪いみたいでさ……調味料ぐらいしかないんだよな」

「…………」


 勇太がポカンと俺の顔を見る。

 正直に話をしたのだが……マズかったか?

 

「食料手に入らないって、どれだけ運が悪いんだよ~! ここまで来たら奇跡だな、奇跡!」

「は、ははは……」


 勇太は俺を蔑むようなことはせず、ただただ笑い飛ばしてくれた。

 由乃たちも特に気にすることなく、笑顔でそんな事実を受け入れてくれている。

 本当に良い奴らで、一緒にいるだけでほっこりする。

 うん。俺はこんな良い奴らを死なせたくない。

 皆のためにも強くなろう。

 元々強くなるのは楽しかったけど、尚更やってやろう。

 そう思える食事の時間だった。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 食事を終え、いつものように散歩という名目で町の外までやって来ていた。

 もちろん、俺の目的は経験値稼ぎだ。


 コボルトのカードは完成しているので、スピリットを中心に狩ることにしよう。

 俺は駆けながら、クロスボウでスピリットとコボルトを狙い撃って行く。

 一撃で跡形もなく四散するモンスター。

 走り続けていても【神の加護】のおかげで体力が常に回復し続けているのか、全然疲れることはない。

 

 俺は愉快な気分で夜の草原を駆け続け、敵を倒して行く。


「ん? なんだあれ?」


 二時間ほどモンスターと戦闘をし、【鷹の目】で周囲を見渡していた時だった。

 人が誰かに襲われている様子が視界に入る。

 俺は考えるよりも早く、駆け出した。


 襲われているのは女性。

 そして襲っているのは……人間だ。

 ブワッと怒りが腹の奥から込み上げてくる。

 《ホルダー》から骸骨の仮面を取り出し装着すると、頭の中が氷のように冷えていく。

 骸骨の仮面をかぶる度に【心術】を発動させている間に、まるでスイッチのようなものが入るようになっていた。

 いつもよりも冷静になり集中している自分がいる。

 

 【潜伏】を発動し、離れている距離を一気に詰めていく。

 彼女らとの距離は2キロほどだろう。

 俺はそれを一分ほどで最接近する。


「きゃあ!!」

 

 女性は躓き、その場に倒れてしまう。

 【潜伏】の効果はまだ途切れてはいない。

 そのまま女性の盾になるように、追って来ている者たちの前に立ちはだかる。


「へへへ、もう逃げられないぜ」


 追っていた者は全員男で、数は4人。

 ゲスめいた笑みを顔に張り付けながら、ゆっくりと近づいてくる男。 


「ひっ……」


 大粒の涙を零している女性。

 俺は手を伸ばす男の肩を静かに殴りつける。

 ボンッ! と破裂する男の肩。

 悲鳴を上げながら転げ回る男。


「ど、どうしたんだ!? って、誰だ!?」


 突如、目の前に現れる俺に困惑する男たち。

 彼らは盗賊とでも言ったような出で立ちをしている。


「大丈夫か?」

「え……ええ」


 酷く怯えていた女性は、唖然と俺を見上げている。


「この人をどうするつもりだ?」

「どうする? 女を前にすることなんて一つに決まってんだろ?」


 ひひひっと癪に障る笑い声を出す男たち。

 蛇のように俺の全身に巻き付く憎悪。

 冷静な頭のままで、冷酷に行動する。


 男たちの肩に拳を叩きこんでいく。

 破裂する自分の体を見下ろし、男たちは涙をを流しながら泣き叫ぶ。


「死にたくないなら消えろ」

「ひぃっ!!」


 男4人は、示し合わせたかのように同時に駆け出した。

 こちらを振り向くことなく、全力疾走をしている。


 俺は嘆息しながら仮面を外し、女性の方へと視線を向ける。


「大丈夫だった?」

「は、はい……」


 女性は突然起きたことに、ただ驚くばかりであった。

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