第16話 リバースと帰還

 皆のもとから離れて数分後、俺はこそこそ戻って行く。


「よ、よう。皆無事だったんだな」

「司~。危ない所だったんだぜ。下手したら死んでたところだ」


 勇太は親指を立てて、笑顔でそう言った。

 いや、セリフと表情が一定して無いから。


「司くんと合流できましたし、ボスもいなくなりましたし、町に帰りましょうか」

「おう! そうだな! ほら、リバーブローみたいなカードがあっただろ。アレを使おうじゃねえか!」

「リバーブローじゃなくてリバースですね」

「リバーブローって……間違える方が難しいだろ、それ」

「おう! 細けえことはいいじゃねえか! ガハハ!」


 勇太は磯さんの言葉を聞いて、一緒にゲラゲラ笑っている。

 由乃も笑顔で《ホルダー》の中から一枚のカードを取り出した。


「リリース、エキルレ!」


 由乃の言葉にカードがパリンとガラスが割れるかのように消滅し、周囲の景色が歪みだした。


「……すげーな。本当に町に戻ってこれたじゃん」


 俺たちは気が付けば夕方のエキルレの宿屋前に戻って来ていた。

 これが【リバース】と呼ばれるアイテムカードの力らしい。

 一度行ったことのある場所へと移動することができる、とても便利なアイテムというわけだ。

 俺も欲しいところだが……レア度はSR。

 Nしか入手できない俺には、どうしたって入手できないんだろうな。


「なあ由乃、一枚【リバース】貸してくれないか?」

「いいですよ」


 俺はふと、入手できないのなら貰えばいいのではないだろうか?

 そう考えた。ナイス判断だ。俺。

 由乃は【リバース】のカードを取り出し、俺はそれを受け取った。


 すると――バチッ! と静電気をきつくしたような衝撃が手に走る。


「いてっ」


 カードを取りこぼしてしまう俺。

 勇太たちは怪訝そうな表情で俺を見ている。


「どうしたんだよ、司」

「い、いや……大したことじゃないんだけど……」

「…………」


 由乃はニコリと笑みを浮かべ、無言で落ちたカードを拾っている。

 どうやら俺は、R以上のカードに触れることもできないようだ。

 なんて悲しい現実。このカードがあれば、もっと効率よくモンスター狩りができるというのに……

 

「……あのさ、皆」


 勇太は突然、真剣な顔で口を開いた。


「さっきのモンスター、仮面の戦士が現れなかったら俺たち負けてたよな」

「確かにそうですね……」

「私は力にもなれなかった」


 円はいつもの気怠そうな表情でそう言う。

 だけど少し気に病んでいるのか、申し訳なさそうな顔にも見えたり見えなかったり。

 そんな円の手を握り、笑みを向ける由乃。

 円は微笑を返している。


「それで考えたんだけど……もう少しここら辺でレベル上げをしていかないか? さっきの奴がどれだけ強いのかはわかんないけどさ、エリアマスターってのは、あいつより強いと思うんだよ」

「おう! それは間違いないだろうな!」

「だから……これから先のことを考えたら、強くなってから進む方がいいと思うんだ」

「ゲームでも難しそうなところはレベル上げてから進むもんな。うん。そうしよう」


 俺はいつも通りの顔でそう言いつつも、心の中でガッツボーズを取っていた。

 ここに滞在するってことは……レベル上げはもちろんのこと、モンスターカードの回収もできるってことだよな?

 それってもっと強くなれるってことだよな?

 嬉しすぎて今すぐにでも勇太に抱きつきたい気分だよ。


 皆も勇太の言葉に頷き、気持ちは一つになっているようだ。


「じゃあ皆で強くなって、元の世界に戻ろうぜ!」

「よっしゃー!」


 勇太が拳を突き上げると、由乃と磯さんが一緒に拳を突き上げる。

 円は控えめに、俺はその様子を見て、拳を天に掲げた。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 食事を終えて、俺はベッドの上で手に入れたカードを確認していた。

 まずは合成したモンスターカードだ。


 スライムカード+8:レア度N

 運が9%上昇する


 ウルフカード+4:レア度N

 敏捷が5%上昇する


 コボルトカード+12:レア度N

 HPが13%上昇する


 そこそこいい感じでカードが集まったな。

 さらに強くなれる事実に俺は高揚しながら、新しいカードの方に視線を落とす。


 風術:レア度N ランクB

 風の術を使用することができる


 帰還Ⅰ:レア度N ランクB

 自分だけ最後に行った町へ瞬時に帰ることができる


 【帰還】のカード。

 俺はこれを見た時、目を疑ったね。

 自分だけにしか効果はないが、【リバース】のカードと似たような性能のスキルだ。

 多分だが、あの大きなコボルトから手に入れたのだろう。

 【帰還】カードは一枚しか見当たらない。

 まぁボスから入手できる、レアカードと言ったところだろうか。

 レア度はNだけど。

 とりあえず、これがあれば遠くに行ってもすぐにここへ戻って来ることができるというわけだ。

 ありがたさこの上なし。


 合成したカードと入手したカードをセットし、ステータス画面を開く。


 島田 司

 LV99

 ジョブ  合成師

 HP  720(+1533)

 MP  360(+720)

 攻撃力 360(+1080)

 防御力 240(+604)

 敏捷  240(+717)

 魔力  360(+720)

 運   300(+627)


 ジョブスキル

 合成Ⅰ

 武器スキル

 体術 56 弩 99

 アクティブスキル

 火術Ⅴ 11 風術Ⅱ 回復術Ⅴ 

 心術Ⅴ 72 手加減Ⅲ 潜伏Ⅴ 99 

 鷹の目Ⅴ99 帰還Ⅰ

 パッシブスキル

 HP増加(特大) MP増加(特大) 怪力 

 鉄壁 俊足 超魔力 

 強運 神の加護 毒無効

 麻痺無効 石化無効 混乱無効

 誘惑無効 病気無効 魔力消費0

 高速成長


 レベルも順調に上がっていて、スキルも増えて、言うこと無しだな。

 さらにここに滞在することが決まったのでモンスターカードの回収もできる、と。

 俺はベッドの中に潜り込み、こらえきれない笑い声を出す。

 まだまだ強くなれるその喜びに、俺はベッドの中で一人バタバタと暴れ倒していた。

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